共産主義者同盟(火花)

北朝鮮問題、拉致問題、帝国主義侵略戦争
の進歩性と反動性の弁証法について。少々。

流 広志
266号(2003年10月)所収


 金体制によって、北朝鮮プロレタリアートは、飢えを強いられ命からがらの逃亡、難民化を余儀なくされている。冬を前にして飢えをどうするかが緊急問題となっている。人命を救うための人権団体やNPOや国際機関や政府などあらゆるルートでの緊急の支援・援助を必要としている。基本的な考え方が違っていたとしても、部分的であれ目的が一致し、あるいは行動において一致するところがあれば、様々な団体個人の努力を支持し、共同行動を行うのは当然である。またこの援助がそれを途中で横領して特権階級が私腹を肥やす道具とすることを許さず、それを本当に必要としている人々の手に渡るようにすることも重要である。国際プロレタリアートとしての緊急行動が必要である。

日本人拉致問題について

 この具体的な拉致事件は、日朝プロレタリアートを接近させるのではなく敵対させるものであり、国際プロレタリアートの立場からはまったく認められないし、一部の被害者を帰しただけで問題は終わったなどという欺瞞を続け、拉致問題を政治利用し続けることは許されない。ただちに、金政権は、拉致事件の全貌を解明し、全面的に謝罪し、すべての被害者とその家族を解放すべきである。金政権が、そうした措置をとって誠意を見せていないし、自国のプロレタリアートを飢餓に追いやり、抑圧・弾圧していることを考え合わせると、体制延命のために、周辺国のプロレタリアートに対して、さらなる拉致や軍事的冒険による大量殺害行為に及ぶ危険が高いと考えざるをえない。そうした危険に備えるようプロレタリア大衆に警戒を呼びかけざるをえない。国際プロレタリアートは、金政権がプロレタリア大衆に危害を加えることを許すわけにはいかない。これらの諸問題を含めて、このような問題を根絶し、根本的に解決するためには、金体制を打倒するばかりではなく、国境・国家を廃絶し、日朝プロレタリアートの真の友誼を実現する国際プロレタリアートの成長が必要である。

 金正日政権の反動的性格と帝国主義侵略戦争の進歩性と反動性の弁証法について。少々。

 レーニンは言っている。「われわれがそれぞれの戦争を個別的に歴史的に(マルクスの弁証法的唯物論の見地から)研究する必要をみとめている点で、われわれマルクス主義者は、平和主義者とも無政府主義者ともちがっている。あらゆる戦争に不可避的に結びついているすべての惨禍、残虐、災厄、苦悩にもかかわらず、歴史上には進歩的であった戦争、すなわち人類の発展に利益をもたらし、とくに有害で反動的な制度(たとえば専制あるいは農奴制)やヨーロッパで最も野蛮な専制政治(トルコとロシアの)の破壊をたすけた戦争がいくどもあった。だから、今日の歴史的特質を考察する必要があるのである」(「社会主義と戦争」国民文庫88」ページ)。
 戦争を個別的・歴史的に、そして弁証法的唯物論の見地から、研究しなければならないのである。共産主義者は、もちろん、戦争だけではなく、あらゆることを弁証法的唯物論の見地から研究・評価しなければならない。この立場から、現在の金体制や今日の戦争を研究しなければならない。

 今日の金正日体制は、金正日を頂点とする少数の党・官僚・軍の上層からなる特権階級が、多数のプロレタリア大衆を抑圧・収奪している体制であり、この特権階級は、自らは飢餓にあえぐ下層の人々をしりめに、国際援助物資をも横領して私腹を肥やし、特権の上にあぐらをかき、相対的に贅沢な暮らしを行うという、およそ真の共産主義者とは無縁の私利私欲むき出しの腐敗した支配階級である。
 金正日政権は、プロレタリアートを解放するどころか、その反対に特権階級を頂点とした特殊な身分制の下に、プロレタリア大衆を抑圧・支配している反動である。すでに、朝鮮労働党は、社会主義の看板を掲げているだけで、中身はプロレタリアートの敵対物となっている。金体制の特権的支配階級は、主体(チュチェ)思想なる、およそ唯物論的弁証法とは無縁の主観主義を人々に植えつけ、また、主体中の主体たる首領を神格化し崇拝させ信仰心を植えつけることで、特権階級を頂点とするヒエラルヒーを合理化し維持するというおよそ平等を実現すべき共産主義とは相容れない反共産主義的なやりかたによって、その抑圧支配を貫徹している。さらに朝鮮労働党の党組織論は、例外的一時的規定にすぎなかった分派禁止の原則化や一国一共産党などの思想闘争の権力手段や暴力による圧殺や肉体的精神的抹殺を合理化したスターリニズムと共通な性格をも持っている。またかれらは、すでに社会主義的生産関係が成立しているかのような、また、「自立的民族経済」なる今日の国際帝国主義の金融的経済的世界支配から単独で脱しうるかのような、虚偽の幻想を振りまいて、プロレタリア大衆を欺いている。等々。国際プロレタリアートの利害を代表しようとするマルクス・レーニン主義者は、かかる反社会主義反動の打倒を掲げるべきである。かかる反動的な諸施策を合理化して、それをプロレタリアート抑圧のテコとしていることや特権階級の贅沢な生活を廃止せずに、民衆を飢えさせ、政治弾圧し、虐殺していることは、この反動に対する帝国主義による進歩的戦争を認める十分な理由になると判断せざるをえない。われわれは、戦争によって多くの人が死ぬのを望まない。しかし、「あらゆる戦争に不可避的に結びついているすべての惨禍、残虐、災厄、苦悩にもかかわらず」、国際プロレタリアートは、かかる腐敗した特権階級が多数住民を抑圧・収奪して大量の犠牲者をうみ続ける事態を取り除く限りでは、戦争の進歩性を認めざるをえない。もちろん帝国主義の進歩性は相対的なものである。それは、侵略性・抑圧性・反革命性・差別性をともない、またそういう性格に転化していくものである。
 例えば、米帝ブッシュ政権は、フセインの抑圧専制支配を解体し、イラクの少数派スンニ派に依拠したフセイン政権に、民族的宗教的に抑圧・弾圧されたシーア派やクルド人を解放したことなどに限っては進歩を実現したが、この占領を出来るだけ長引かせ、その間に、復興事業利権を貪ろうとする米系大企業の利益をはかろうとし、当初の名目であった民主化などは後回しにしている。イラク人民の政治的独立を求める声は高まっている。イラク侵略戦争は、米英帝国主義同盟対フセイン政権との戦争の一時的限定的進歩性は弱まり、米英帝国主義の占領統治からの解放闘争が進歩的な局面に移行している。
国際プロレタリアートは、帝国主義侵略戦争の意図や利害を暴露し反対する。軍産複合体と密接な関係を持つブッシュ政権は、9・11事件以降、軍事費を飛躍的に増大させてその利害をはかり、さらにイラク侵略戦争で莫大な利益を与えた。またそれはイラクの石油支配を目指した帝国主義侵略戦争であった。国際社会と国際反戦運動の圧力に押されたフセイン政権は、一方では軍事力を過大に誇示して虚勢・見栄をはりつつも他方で国連査察の受け入れや囚人解放などの渋々ながらの譲歩をした。しかしブッシュ政権は、大量破壊兵器の開発・保有を示す証拠を虚偽の証拠をでっち上げてまで誇大に宣伝し、9・11事件で高揚した人々の危機意識を愛国主義につなげ、煽り、国連決議を自己の都合のいいように解釈し、自衛のための先制攻撃戦略を唱えてイラク侵略戦争に突入していった。
 しかし、その侵略の意図にも関わらず、この戦争が、結果的にイラクのフセイン体制の抑圧支配からクルド人やシーア派住民などのイラク人民を結果的に解放したことは、この戦争の進歩的一面であることを認める。現在は、イラク侵略戦争の局面は変わり、政治的自決を求める米英の占領統治に対する人々の闘いが進歩的な局面になっている。このように、戦争は、弁証法的に性格や局面や情勢の変化を早めるので、プロレタリアートは、変化をできるだけ正確に把握して対処しなければならないのである。
 現在、イラクに長期駐留をはかっている米帝が築こうとしているのは、アメリカ経済の利益になるようなシステムをイラクに作り上げることであり、また、復興ビジネスでの莫大な利益を政権と結びついている大企業(ブッシュ政権と密接な関係のある建設関連のハリバートンや石油関連のベクテルなど)の利益や石油利権を確保することなどである。米英帝国主義は、イラクからさらには中東から、将来にわたって利益を吸い上げられる体制を構築するために、英米国民の税金や同盟諸国や支持国の税金を大量投入しようとしている。利権の分け前にあずかりたいなら、軍隊や金を出して将来の利益を担保に投資をしろと要求しているのだ。
 イラクでは反占領闘争が続いている。かかる政治的独立ー自決を求める闘いは進歩的である。しかし政治的独立によって、帝国主義の経済的金融的支配から解放されるわけではない。それは一国家が単独で実現できるような課題ではない。それには、帝国主義世界秩序ー国際経済金融支配秩序総体の根本的変革が必要なのである。

 繰り返しになるが、帝国主義侵略戦争の進歩性とは、その侵略の意図や帝国主義利害の実現を目指すにもかかわらず客観的に持つ進歩性であって、北朝鮮の特権階級の専制的抑圧支配を破壊する限りにおいて果たす客観的役割という点に限って進歩性を持つという限定的な意味である。帝国主義利害は、経済的金融的支配をテコとした政治的実効支配を狙うというものであり、それには侵略性・反革命性・差別性という政治性格をともなっている。しかし、こういう帝国主義利害の実現には必ずしも戦争を必要としない。むしろ、1990年代にIMFが自由化を条件に融資したアフリカ諸国がつぎつぎと破産し債務地獄におちいったように、経済的金融的手段による帝国主義支配をはかるのが一般的である。  現在のように、金正日体制が特権階級による人民抑圧支配を合理化し、プロレタリアートに敵対している限り、この抑圧に反対し、闘っている人々を支持し、その闘いを発展させることは、国際プロレタリアートの国際主義的任務である。また、ML主義的党派闘争は、プロレタリアート内の意見の違いに対しては、論争を基本として対応するものであるが、支配階級や反動に対しては打倒などの厳しい対応をする。同時にプロレタリアートの側に移行してくる者は受け入れるものである。

 北朝鮮人民が、冬を前にして、食糧不足が懸念されるし、飢えを逃れ、弾圧や抑圧から逃れ、生きるために、命がけで大量に国境を越えて難民となって中朝国境を越えている。かかる人々への実効的な支援・援助が緊急に求められている。飢餓や難民問題を引き起こしている原因が金政権そのものにある以上、その根本的変革が必要である。

なお、本稿は、野瀬同志による拙稿「米英帝国主義のイラク侵略戦争の現局面と反戦運動について」への批判に対する一部の回答を含むものである。




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