米英帝国主義のイラク侵略戦争の現局面と反戦運動について
流 広志
264号(2003年8月)所収
戦争は終わっていない
今年5月1日の米帝ブッシュ大統領による「戦闘終結宣言」後、8月初旬までに、武装襲撃による米兵の死者は50人を超えた。開戦からの米兵の戦死者数は、湾岸戦争時のそれを上回った。これらの武装勢力の正体は不明だが、連日のように攻撃する能力を持ち、しかも広範囲で攻撃がなされているところから、かなり大きな勢力で、住民の支持・支援のある勢力とみられる。フセインの二人の息子については、高額の懸賞金目当ての米軍への密告があったが、この武装勢力を決定的に叩きのめせるような情報は今のところ漏れてこない。それには、戦後の無政府状態で、住民同士の交流が寸断・遮断され、住民自身が正確な情報を得にくいということも一因にあろう。
しかし、なによりも、イラク人民の間に占領軍によるデモ隊の殺戮や無差別の抜き打ちの家捜しや身柄拘束などへの反発やイラクの石油管理権を独占する米英の侵略の狙いに対する反感や米英の占領統治権の下で実権のない海外帰国組による傀儡の統治評議会への不信、戦後の生活困窮・治安悪化への不満、などがあることが大きい。それは米英帝国主義の対イスラム・対中東支配の歴史に基づく不信の蓄積でもある。
イラクの石油を支配下に置きつつある米帝ブッシュ政権に対する民族解放闘争の炎が拡大しつつある。
ブッシュ政権は、射殺したフセイン大統領の二人の息子の遺体を公開した。ラムズフェルド国防長官がその判断を下したようだが、その際には、それが人権違犯になるのではないかという批判を配慮して、二人は特別な悪人だからという「特別」な理由を付けている。それは、イラクのフセイン政権が戦争中に米軍の捕虜や戦死者の遺体を公開した時に、ブッシュ政権は、これを重大な人権違犯だと激しく批判したので、ダブルスタンダード(二重基準)を批判されるのを嫌ったためであろう。ブッシュ政権は自己に都合いいように人権問題を利用したのである。
開戦にあたってブッシュ政権が付けた様々な攻撃理由は欺瞞に満ちていた。実際の狙いが、中東支配、石油支配の帝国主義的野望の達成であったことは、国際反戦運動が見抜いているところである。
ブッシュ政権は、アフガニスタンでは、カルザイ傀儡政権を経済的軍事的にてこ入れしているが、パキスタン軍部が密かに支援していると言われるタリバンが復活しつつあり、さらに、軍閥や小武装勢力が乱立して割拠し、米軍や国軍への攻撃が繰り返されている。
アルカイダ系と見られる武装グループの動きも相変わらず活発であり、チェチェン独立派による爆弾攻撃も続いている。インドネシアでホテル爆破事件も起きた。そして、フィリピンでは、ミンダナオ島などでのイスラム武装勢力掃討作戦に従事していた国軍幹部らによるホテル占拠事件が起き、米軍と連携して対テロ戦争を進めてきたアロヨ政権の下での軍部の不満と士気低下が生じていることが明らかになった。また、ブッシュ政権は、テーラー大統領支持派と反政府勢力の内戦が泥沼化したリベリアの沖合に部隊を待機させ、米軍投入のタイミングを計っている。
このように、ブッシュ政権は、世界中に戦線を拡大し、自国に有利な国際秩序を構築するために、軍事力を行使している。冷戦後の新世界戦略として打ち出したLIW戦略とは、こうした全世界での中小規模の戦闘に同時的に対処するためのものであった。それは、アメリカの帝国主義的利害を脅かす行為をテロとして、小反乱でも、諜報活動による早期の情報把握と謀略や世論・情報操作などをも軍事的に利用しきり、ハイテク兵器によって自軍の被害を少なくして、芽のうちにたたきつぶすという薄汚い戦略なのである。
それは、レーガン主義的な大規模世界戦争や宇宙戦争とかいう大イメージをもって表象されるスペクタクルな戦略ではなく、小火器ていどの粗末な武器しかもたないようなちっぽけな敵を場合によっては核爆弾で殺戮してしまうというようなまったく非対称的な戦争なのである。帝国主義的な傲慢で差別的な戦略なのだ。ちょっとでも言うことをきかない者をよってたかってつぶしてしまおうというものなのだ。
8月10日付『ニューヨークタイムズ』は、CIAが、開戦の三ヶ月も前から、フセイン政権内の幹部や軍幹部との間で、亡命などをめぐる接触工作を行っていたと報道した。事実とすれば、フセイン政権の切り崩しのための秘密工作がイラク軍の戦闘力を押さえるのに一定の役割を果たしたことになり、それはイラク軍の最終的な反抗が小さかったことの理由の一つを明らかにするものといえよう。しかし、現在の米軍への執拗な攻撃は、フセイン政権が、早い段階からゲリラ戦への移行を準備して、力を温存したようにも見えるのであり、この情報をうのみにはできない。
このように、米帝の抱える戦線は拡大し、常時戦争状態にある。
朝鮮侵略戦争反対! 金正日政権の人民抑圧反対! 差別排外主義を許すな!
先の通常国会では、有事関連法が成立し、延長国会では、「イラク復興支援特措法」が成立した。「イラク復興支援特措法」によるイラクへの自衛隊派遣は、連日イラクで米軍兵士が攻撃されている戦闘状態の下への派遣となりかねないものであり、殺される戦死か殺す殺戮かの結果を生みかねない情況の下での活動になりかねないものである。それは、自衛隊の普通の軍隊化・実戦部隊化への布石である。普通の軍隊は、戦死者を出したり戦闘によって敵を殺害するものであり、そういう情況の下で行動できるように訓練されねばならないのである。
小泉政権は、朝鮮半島有事への対応として、日米同盟による軍事的敵対政策を基本とすることを早々と表明し、米軍の軍事的プレゼンスを背景に日朝協議にのぞみ、ピョンヤン宣言を締結した。日本政府は、ソ連という後ろ盾を失い、経済的政治的軍事的に追いつめられつつある「共和国」金政権の足下を見透かし、なんとしても日本から金を引き出したい金政権に、1965年日韓条約と同じく、賠償ではない経済協力方式での過去の清算をのませた。金正日政権の政権延命の狙いと日本政府の思惑が一致したのである。
両者の思惑が一致したとみた金政権が、拉致問題を認め、一部の日本人の一時帰国を認めたのは、当然のなりゆきであった。金政権は体制の維持を第一に政治判断しているのであり、歴代の日本政府がそうした保証を与えるように行動してきたし、この日朝会談でも金体制の存続を前提としたものであったので、そのぐらいの譲歩をしても問題はないと判断したのだと思われる。
ここで、われわれは、拉致が、戦時の事件としては普通にあり得る事態であることを事実として認識しておかなければならない。例えば、イラク戦争で米軍は、他国であるイラクに侵入・占領し、令状なしにイラク人の身柄を拘束・監禁し、裁判なしに射殺している。戦時には、通常認められる法や人権は通用しないし、制限され無視される。ブッシュ政権はそのことをよく知っているから、拉致被害者を利用することはあっても、本気で同情などしていない。
日本では多くの人が平時の目で事態を見ているので、拉致は許し難い犯罪として扱われているが、戦時においては当然違ってくる。今、戦時体制が着々と構築されつつあるので、拉致は人権違犯であり犯罪であるという平時的認識を、国民の敵への憎しみや味方に対する敵の攻撃の犠牲者であるという戦時的認識に変化させようとする国家主義者のキャンペーンが浸透する条件が拡大している。したがって排外主義との闘いの重要度が増している。
こういうことをしっかり踏まえていれば、愛国主義者の、「情」に訴えかける政治的世論操作、日朝プロレタリアート人民を敵対させる政治工作をうち破ることは容易である。
あくまで対米関係を最優先に価値判断する外務大臣の下で、真の拉致問題解決は望めないし、こういう外務大臣に一任している小泉政府では、拉致被害者は展望を見いだせない。
体制維持に全力を傾けている「共和国」金政権は、米英のイラク侵略戦争を見て、なおさら核開発と軍事力増強にその活路を求めていくだろうことは想像に難くない。しかし相次ぐ「脱北者」の存在は、体制への人々の不満が増大していることの現れである。
現在の金体制は明らかに社会主義ではなく、初期資本主義から過渡期を保守する反動的例外国家であって、まずそのことを認めることが必要である。その上で、建国時の方針であった資本主義化路線へ立ち戻れば、中国型の改革開放路線のようになるし、社会主義化へ進むならば、徹底的民主主義というレーニン主義路線へと転換しなければならない。朝鮮労働党が社会主義の看板を掲げる以上、後者こそ取るべき道であるが、開放区・特区の建設を繰り返しているところを見ると、明らかに前者の道を選択しようとしている。それによって、朝鮮労働党独裁体制を維持しようというのである。
われわれがこの問題解決への前進をはかるためには、朝鮮半島プロレタリアートと日帝足下プロレタリアートが両者の置かれている立場・位置の違いを認め合いながら、出来る限り直接の交流を広げまた深めていくことで、解決の条件を成熟させていくことが必要である。大事なのは、日帝下のプロレタリアートは、両者の接近を妨げ、敵対させる民族主義的愛国主義的排外主義を許さず、自国帝国主義を打倒する闘いを大衆的に組織するということである。それと同時に、過去の清算や民族差別をなくす闘いを発展させることである。そして朝鮮労働党の反社会主義的な路線の誤りを批判して、真にマルクス・レーニン主義的路線に転換させるよう働きかけることである。それこそが、本当のマルクス・レーニン主義的な党派闘争である。
朝鮮労働党においても、朝鮮戦争以前は、中央委員会で金日成批判も行われ、また朴憲永一派などの分派が存在していた。1921年のボリシェビキの一時的例外的分派禁止決定は、スターリン派によって絶対的教条として国際共産主義運動に押しつけられ、スターリン派共産党の絶対的原則とされたが、それはもともと一時的例外規定にすぎなかったのである。金日成派は、スターリニズム党組織論を貫徹したのである。
日帝小泉政権は、日米同盟を最優先してイラク侵略に加担し、さらに米帝の朝鮮侵略戦争準備に歩を合わせている。そして自衛隊の実践力強化、戦時体制準備、等々を押し進めている。それには、日帝の朝鮮半島権益の防衛という帝国主義的利害が絡んでいる。日本の韓国との国際収支は、ずっと韓国側の赤字であり、それは日本からの資本財・中間財を中間加工して輸出するという韓国経済の構造要因によるものである。というよりも、それは、日韓の経済関係の歴史的特殊構造によるものである。投下資本の安全は日本資本主義の重要な利害なのである。
日朝首脳会談以降多発する朝鮮学校生徒に対する嫌がらせや排外主義的襲撃事件の発生は、日本における排外主義の拡大を示した。
右派愛国主義勢力は、拉致事件を政治的に利用している。この連中は、拉致被害者とその家族への人々の同情を利用して、反共主義政策の実現を目指しているのである。例えば、拉致議連の平沢は、「共和国」政府とまじめに交渉する気などなく、経済制裁・軍事的圧力の強化などの敵対政策しか主張していない。対話と圧力が政府方針であるが、平沢には前者についての具体的な提案を何一つしていないのである。平沢は拉致被害者に寄生しているだけなのだ。そして在日朝鮮人にたいする差別・襲撃には非難の言葉一つも言わない。この連中の掲げている人権がたんなる意匠にすぎないことは明らかである。
この問題を真に解決できるのは、こういう愛国主義によってしか拉致被害者とその家族との関係を築けない社会性の水準の低い反動家たちではなく、国際プロレタリアートとしての国際主義的な結合関係に基づく連帯とそれによる解決条件の具体的形成が可能なプロレタリアートだけである。われわれは、排外主義的民族主義反動共を暴露し、プロレタリアートの国境を越えた友誼によってこそ、問題の真の解決につながることを示し、拉致被害者とその家族を反動の手にいつまでも止めておかず、かれらを日朝プロレタリアートの国際連帯活に結合することを目指さねばならない。その場合に、三里塚闘争において、当初は、農民の中に自民党支持者や天皇主義者があったが、闘いの中で闘う農民に変貌した事実を想起しておきたい。
戦争が終わらなければ、反戦運動も終わらない
延べ数億人が参加した国際反戦運動は、戦争の短期終結の中で、量的には小さくなり、表面的には沈静化した。しかし、反戦運動は質的には深化を続けている。例えば、若者をはじめとして広範な層を結集した「ワールド・ピース・ナウ」(WPN)をめぐっては、その中心メンバーの警備公安との会食や接触が暴露され、それをめぐる議論の中で、権力や大衆運動の原則をめぐる一定の認識の深化があったようである。
警備公安警察は、アメリカの侵略戦争を支持し、「イラク復興支援特措法」によってアメリカの占領統治への軍事を含む協力を行っている政治権力の執行行政者である。公安は中立などではなく、戦争支持派の側にいるのである。公安が反戦運動に接近してくるのは、あくまで戦争支持の政府の政治意思を実現するためであり、反戦運動を弱体化し、妨害するためである。反戦運動の発展のためには、それを許してはならない。
それは『ブント』が口をそろえる既成左翼不信とは関係がない。左翼がどうであろうと関係なく、反戦運動が、戦争に加担する政府の執行権力の公安となれあえば、その反戦の態度を問われるのである。だからこそ、その呼びかけに応えた参加者からの疑問や批判が出たのである。
『かけはし』はこの事例について、それを政治的弱点と指摘しただけで、何が弱点なのかを示していない。それはこの戦争をグローバル戦争と呼んで、この戦争の帝国主義的政治性格を曖昧にし、権力問題を避けていることから来ている。公安活動は帝国主義政治の執行である。中身の批判的検討なしに市民運動を持ち上げる『かけはし』の利用主義的政治は、運動の質を低下させ、自己規律の崩壊をもたらすなど、結果的に運動を弱体化させるものでしかない。何をどう直せば弱点が克服されるのかを示さなければならないのだ。
WPNは、「非戦」「非暴力」「イラク占領反対」などを主張しているが、それに、対してアメリカの「International Act Now to Stop War & End Racism」(「ANSWER」)は、反侵略・反占領・反人種差別主義を明確に掲げ、戦争の帝国主義的性格をより正しく表現している。
また階級闘争の推進者である共産主義者は、戦争一般を否定することはできない。なぜなら、階級闘争は、戦争的形態(内戦=市民戦争)を含んでおり、また抑圧民族に対する民族解放戦争、反動に対する進歩的戦争を認めなければならないからである。
「ANSWER」は、この戦争が帝国主義的性格を「反侵略」「反占領」「反人種差別主義」というスローガンで端的に表現している。そして、19世紀来の大英帝国による植民地化や第二次世界大戦後におけるアメリカの侵略政策を指摘し、その延長に先のイラク侵略戦争があったことを暴露している。そしてかれらは、このイラク侵略戦争が、まさに帝国主義の侵略性、支配への熱望、石油資源の掌握の狙い、人種差別に基づいていることを明らかにし、それに反対しているのである。そしてこの占領の費用として毎日巨額の金がつぎ込まれながら、福祉・教育などへの予算が削られつつある現状を対照し、告発している。戦争賛成が8割を超える愛国主義の嵐が吹き荒れる中で、全米各地で数十万数百万の反戦闘争を組織した力量は高く評価されねばならない。
「ANSWER」は、9月28日のサンフランシスコでの集会デモに合わせて、9月25ー28日の国際反戦統一行動を呼びかけている。かれらは、全世界の帝国主義と植民地支配に反対し、米帝ブッシュ政権の朝鮮・キューバなどへの侵略戦争準備との対決や帝国主義に抵抗するパレスチナ、イラク、アフガニスタン、フィリピン、コロンビアなどの人民との連帯を訴えている。とりわけ、パレスチナとの連帯を強く訴えている。さらに、かれらは、10月25日ワシントンでの大行進を呼びかけている。また、ロンドン200万人デモを実現したイギリスのStop the War Coalition(戦争阻止連合)もまた9月からの反占領闘争を呼びかけている。これに合わせて、世界でも、日本でも、反戦運動が組まれるだろう。
このように、国際反戦運動は、持続的闘いを組織しているのである。
国際反戦運動と連帯し、自国帝国主義を打倒しよう!
イラクでは、連日の米兵殺害による戦死者の累増、現場兵士による軍幹部・ラムズフェルド批判の噴出などの士気低下、南部バスラでの住民デモと英軍の衝突、占領支配へのイラク人民の憤激の高まりによって、困難さが増している。
また、ロシア・インドネシアでの自爆攻撃、将校クラスによる武装占拠事件に現れたフィリピンでの対テロ戦争の泥沼化などは、米英帝国主義同盟の全世界を戦場にした対テロ戦争が困難にぶち当たっていることを物語っている。
しかし、米英帝国主義同盟は、世界支配をめぐる帝国主義戦争を止めることはできない。帝国主義として世界市場での競争戦の勝者であらねばならないからである。それは朝鮮半島においてもそうであり、日帝との同盟を利用して、朝鮮半島ばかりではなく、中国市場においても、勝者を目指しているのだ。
帝国主義利害に基づく日米同盟のために、小泉政権は、「対テロ特措法」によるインド洋での後方支援活動への自衛隊の海外派遣に続いて、占領統治下のイラクへの自衛隊派遣のための「イラク復興支援特措法」を成立させた。その派遣は早ければ今年11月である。その実績をもって、米帝の朝鮮半島侵略策動と歩調を合わせようというのである。
かかる朝鮮半島侵略戦争に加担すれば、たとえ北朝鮮人民が一時的な解放感を味わったとしても、その真の性格である帝国主義的侵略性や民族差別性にやがては必ず気がつくし、そうなったら、日本はふたたび憎むべき敵と認識されるであろうことは想像に難くない。そうなれば、日朝プロレタリアートの真の友誼を築くためのハードルは高まる。そうならないように、われわれは、現在の金正日政権による人民抑圧に反対するとともに帝国主義侵略戦争策動にも反対し、自国帝国主義打倒のために闘い、かつ排外主義と闘争しなければならないのである。
日本のプロレタリアートに課せられている歴史的任務である自国帝国主義打倒の闘いと国際反戦運動との結合、全世界プロレタリアート被抑圧人民との連帯、その一環としての日朝プロレタリアートとの連帯、パレスチナ人民との連帯、等々、そして差別排外主義との闘いを曖昧にすることはできない。国際反戦運動と連帯し、自国帝国主義を打倒しよう!