第26回参議院議員選挙結果分析(1)
渋谷 一三
457号(2022年7月)所収
<はじめに>
安倍元首相射殺事件によって、自民票の掘り起こしがなされ、「弔い合戦」効果によって、自民は改選数を上回る議席を獲得した。
射殺事件が無ければ自民の微減が予想された。このことは、公明が1議席減少させたことから傍証されている。
しかし、この事件によって選挙結果がどのように動いたかを分析することは不可能なので、これ以上のことは言えない。
安倍氏子飼いの日銀総裁による超低金利政策の継続によって、日本は急激な円安に見舞われ、原材料・エネルギーが高騰し、諸物価の値上げラッシュ状態になっていた。
この「異次元の金融緩和」を終わらせようという声は、おそるおそる経済界で囁かれ始め、マスコミも「出口戦略」を云々し始めていた。
物価高騰と年金などの減額、介護保険などの負担増で、低所得者層が大きな打撃を受けており、自公支持層のうちの低所得層が維新へと投票先を変えることは予想されていたし、その通りになった。
1.「維新」、倍増の12議席。比例区では第2党に躍進。その根拠は
比例区では立民党を上回る得票を得たものの、選挙区では農村部で全く議席を取れず、「都市型政党」であることが鮮明になった。
正確に言えば、都市部の未組織労働者階級と零細商工業者を支持基盤に置いている。これ以外の階層にはそれほど浸透していない。
それは、政策を見れば頷ける。
公務員の給与をカットして捻出した資金を中学校の給食実施とその無償化(途上)に回し、さらに私立高校の授業料の無償化に向けた補助金に回し、目に見える現状改革を実現した。
国家単位のマクロ政策は目に見えにくい。国家単位の経済政策が実体経済に与える影響は測定しづらい。その上、世界経済はすでにグローバル化しており、国家単位での経済政策が入り込む余地は極めて小さくなっている。これがケインズ主義が歴史の表舞台から退場した根拠であったし、経済制裁をしたはずが、ロシアに打撃を与えるのと同程度の「返り討ち」にあってしまう現状の根拠であった。
したがって、この分野は何党でもよく、大衆にとっては要するに判断不能な領域なのだ。
だから、貧困層・下層を直撃している教育費の負担増を実際に軽減しているのは「維新」だけであり、民主党が政権を取った時代にも中学校の給食実施など全くすすまなかった。
この事からのみ見れば、「維新」以外の政党は全て『口舌の徒』である。
これが、「維新」が躍進している根拠である。
ところで、「維新」は行政改革によって資金を捻出したかのように演説しているが、実は、行政改革など全く行っていない。やっているのは、労働者上層部の公務員の賃金を10%カットすることだけで、要らない部署の削減や定員の削減などを行っているわけではない。
公務員攻撃は、低賃金に喘ぐ「非労働組合労働者」(下層労働者)(未組織労働者)にはスカッとするパフォーマンスだ。これで、完全に騙される。行政改革をしている改革政党が「維新」であるかのように。
「維新」の政策が行政改革でないのは、もう1つの重要な政策=万博誘致・IR誘致が旧態依然とした土建屋政治であることから傍証される。
万博もIRも大規模な土木建築事業で、「維新」のもう一つの支持基盤である中小零細商工業者が唯一潤うケインズ主義時代の経済政策である。 GAFAを引き合いに出すまでもなく、最先端産業のIT産業は公共事業など一切必要としない。そればかりか、一時代前の先端産業だった自動車・航空機・電気産業ですら公共事業を必要としていない。土建屋政治は二時代前の政治である。
万博の良い点は、造り終わったら半年後には壊してしまう点にある。上物を作ってしまえば維持コストがかかり、赤字を生み続ける。これに対し、万博は入場料で建設費用を回収し終わったら壊してしまうので赤字を生み続けることがない。
これが、「維新」が中小零細商工業者から圧倒的に支持される根拠であり、中小零細商工業者が多い大阪で支持層が厚く、逆に中小零細商工業者が比率上少ない東京圏で支持が大阪ほどではない根拠である。
ましてや、こんな政策が農村部では何の意味も持たないことは言うまでもない。
「維新」の躍進は東京圏への一定の進出が出来たことと、比例での票の集積によるもので、圧倒的多数である都市下層に浸透したことによる。
したがって、「維新」の躍進はここまでで、次回選挙での更なる躍進はない。