第46回衆議院議員選挙結果分析
渋谷 一三
337号(2009年9月)所収
<はじめに>
予想通り、民主党が圧勝した。自民党の安倍・福田・麻生という3代にわたる政権のたらいまわし、安倍・麻生の2代のお友達内閣のお粗末な失態の連続などに辟易とした結果だった。
これだけでは民主党が圧勝した原因分析にはならないだろうということで、ポピュリズムによる振れの大きさや小選挙区による雪崩現象などの要因をあげる評論家もいるが、説得力があるとは思えない。
2万6000円のこども手当ても好評ではないし、高速道路無料化も評判がいいわけではない。要するに麻生と自民党にあきあきしたという以外にないように見える。朝日新聞を筆頭に「良識」派を自認する新聞は「政権交代」による自浄作用を期待し、二大政党制を理想化する位置から、自民党の負けすぎを警戒し、「自民党よしっかりしろ」キャンペーンを貼り、負けすぎをポピュリズムや小選挙区制のせいにする論調をはることで整合性を獲得したかのごとくに安心している。
果たして、そうなのでしょうか?二大政党制の幕開けなのでしょうか。
1. 「剛腕」小沢伝説のうそ
先の参議院選挙における民主党の勝利、今回の衆議院選での民主党の圧勝、これを説明する安易な方法として、小沢剛腕伝説がつくられ、まことしやかに語られている。これを語る人々は、ついこの間の西松建設の政治献金問題では小沢を非難し、代表から降りることを主張していた面々である。無節操というか、何も真剣に考えることのない人々というか、あいた口がふさがらない。
確かに選挙技術がへたな人々が民主党に多かった。いやむしろ、労働組合のレールにのって選挙運動なるものはしてこなかった面々がほとんどだったのが、民主党の実態だった。そこにかつを入れ、当選するための運動をさせたのが小沢さんであり、「剛腕」ということで何かを説明したかのごとくに錯覚させるほどのことはしていない。勝因はほかにあるのです。
結論から言おう。小沢さんの政策は広範な小ブルジョア層の利害をきちんと代表している。このことが勝因なのです。
44回衆議院選挙の結果分析で、私は以下のように書いた。
『今回の選挙を通して旧田中派がほぼ壊滅した。中小資本家の利害を代表してきた田中派が「ぶっ壊され」、自民党は大資本の利害を代表する政党に純化した。これを可能にしたのは、中小資本の利害を代表する政党として民主党が誕生したことが大きい。中小資本の利害の大きさが大きくならない限り、2大政党にはならず、したがって2大政党制というのは仮象にすぎない。大資本を「元気にさせ」それに牽引される形で中小資本が「元気になる」という筋書きを都市部の大衆が承認したのが、民主党の敗因である。』
構造改革・グローバリズムの進展という名の下、米国の利害を国際標準とする改悪が進行した。米国と軋轢を生んでも仕方が無い。米国標準を受け入れよう。これが小泉改革の本質であり、大ブルジョアジーを元気にさせることで中小資本を元気に出来るはずだった。だが、その米国標準の進展こそが、際限のない住宅バブルという金融ゲームを成立させてしまい、このバブルの決算を米国以外の他国の金融資本に押し付けることとなった。これがヨーロッパとくにイギリスにおける金融機関の痛手となった。これで済むはずだったのだが、ヨーロッパの反撃、ロンドン金融の反撃が開始される。発信源の米国を引きずりこまない手はない。日本のようにバブル崩壊を受け入れ、自国のミスであるかのように振舞う従順な羊に甘んじるほどヨーロッパは愚かではなかった。米国の金融機関を共倒れに持ち込みブッシュ政権を崩壊させることに成功した。この間に進行した米国標準の国際化=グローバリズムを見事に粉砕したのである。
バブルの付けを米国にも払わせることによって、バブルを発生させ儲けた上で、このツケである儲け分を他国に払わせる戦略は崩壊したのです。米国の没落が始まったのです。
米国にひたすら追随することを是とする小泉改革の根拠がなくなった。米国支配の終焉が、小泉の描いた「米国の番頭の利」とでも言うべき構想を木っ端微塵に砕いたのです。小泉の約束した「米国の番頭」としての薔薇色の未来は無くなった。なのに、麻生は、ばら撒きをして景気対策をしたつもりになり、米国が先取りした儲けを払うべく、「固い国際協調」=米国追随を打ち出す無能ぶり。これが、麻生の不人気の根拠。投票者もはっきり自覚できていないが、麻生のうさんくささという感覚で捉えた現象は、この破綻した米国追随路線を言い続ける馬鹿さ加減を指している。
米国が先取りして儲けた分は、米国が内需刺激の名目なりなんなりで自分で支払うべきなのである。日本の民主党の「米国との対等な関係の構築」が、何やしらん痛快に響く根拠が現実にあったのです。大衆はうんざりするほど知っている。思いやり予算という巨額の支出をしてなお、「日本を守ってやっている」「Show your flag」=軍事介入せよと横柄にのたまう米国共和党政権。拉致被害者のことも核の脅威も関係なし。米国の世界支配の都合で朝鮮と頭越しに交渉を再開してしまう。こうした米国の横暴にうんざりしているのが日本の大衆の生活実感だった。
小ブルジョアだけでなく、国粋主義者も(いるならば だが)反米になるべき状況に、自民党は米国追随こそが大ブルジョアジーの利益であるかの夢想を言い続けていた。自民党が大ブルジョアの利害を代表する能力すら失って、右往左往しているだけの体たらくに、健全な大衆が見切りをつけたということである。
だが、同じこの事態が、二大政党制を理想化する大新聞の立場からは曇って見えない。「自民党よがんばれ。民主党よばら撒きでいいのか。」と、大衆が行過ぎた反応をしてしまったかのごとくである。小選挙区制の恐ろしさを嘆いてみせる程度の「分析」しか出来なくなるのでした。
2. 小沢さんは小ブルジョアの利害を代表しようとしている。
大ブルジョアと違い、小ブルジョアは基本的に好戦的ではない。軍需産業は大ブルジョアの独占の下にあり、下請けに波及する効果も少ない。その上米国が、軍需産業では世界的寡占状態を示している。こうした状況の下では、小ブルジョアにとって、米国に追随し、「思いやり予算」なる膨大な米軍基地負担金を支払うメリットはない。米国追随をやめ、東アジア諸国(とりわけ中国・韓国)の信頼を回復し、東アジア共同体的な経済圏を構築する可能性を追求することの方が、「百年の計」として余程魅力的である。
これが、軍事において国連のPKO活動重視主義、米国突出の作戦への追随拒否という路線として提出される。
小ブルジョアの利害としては、軍事面でも正しく一貫している。注意すべきなのは、これは労働者階級の平和主義とは異なるという点である。労働者階級にとっては、国連のPKOであっても、それが、資本家階級の利害を追求するための戦争でしかない以上、参加拒否であり、陸上自衛隊のPKOでのアフガン派兵という民主党の選択肢は出てこない。死にに行くのが労働者階級の子弟である。ちなみに、米国は徴兵制を廃止し、大小ブルジョアが戦争に行かなくてすむ方式を開発した。借金を棒引きにするという甘い餌で窮乏した労働者階級が志願するように仕組むことができたのだ!
この事情については、「ルポ貧困大国アメリカ」に詳しい。
今論じているのは民主党の圧勝についてである。民主党が勝利したのは、軍事面でも小ブルジョアの利害を一貫して反映しているという事情である。
次に農業。農業者は小ブルジョアジーである。この小ブルジョアが米国式企業農業に席巻されようとしている。自民党が支援してきたのは、農業企業の育成である。換言すれば、農業においても大ブルジョアが勝利するように、さらに言うなら、米国農業企業体がグローバル化するお手伝をするのが、自民党の政策であった。この道は、さらに進めば、ほとんどが小ブルジョアの日本の農民の窮乏化を推し進め、米国式農業の世界標準化を経て、日本の農業を壊滅させる道である。
自民党が推し進めてしまった道を後戻りさせるには、農家への個別補償は有効な手立てで、フランスのように小ブルジョアとしての農民が農業を担えるようにしていくのが正しい小ブルジョアの政策です。小沢さんは、寝ぼけている民主党幹部をわき目に、きちんと小ブルジョアの政策を農業においてもまとめたのです。
これが、農民票を正しく民主党に導いたのです。農民は自民党支持であってはいけなかったのです。そのねじれが解けたのです。
以上のような分析が全く見られない。嘆かわしいとも思うが、労働者階級の影響力が減っている証左でもあり、大新聞をブルジョアジーが支配し、週刊誌などのメディアに小ブルジョアの影響力がある程度あるというコミュニケーション事情の反映であるとも言える。民主党を正しく評価分析し、労働者階級を民主党の影響から解放していくことによって、民主党の「勝ちすぎ」を心配する大ブルジョアへの回答としてあげよう。
この点で、社民党が労働者階級の政党へと脱皮できるかどうかが重要になるでしょう。脱皮できなければ、民主党に吸収されるべき党なのですから、消滅の運命しかないでしょう。