共産主義者同盟(火花)

消滅する「維新」(2)―単なる保守党になった結果、自民に敗北―

渋谷 一三
468号(2024年10月)所収


<はじめに>

 8月25日、大阪府箕面市長選挙で府議から転戦してきた自民候補が、現職の維新の市長をダブル・スコアで打ち負かして、市長に当選した。
維新の兵庫県知事の居直りが大きく影響した。だが、維新の創設者橋下徹氏以外には危機感が薄く、未だに瑣末なエラーをあげつらう政敵との戦いという図式でしか事態を認識していない。
どうしようもない。
下層の政治経済的要求をくみ上げる能力がない上層の子弟が維新の議員団になった結果、自民との差別化が出来なくなったことが敗北の原因なのだが、そこに思い至る能力すら失って迷走し始めた。
維新の終わりが始まった。
 断言する。維新の凋落はすごい勢いで始まっている。

1.下層の政治的欲求とリベラルの政治的欲求をくみ上げている「れいわ新選組」

 経済政策では、消費税の廃止を掲げ『消費税廃止により毎日が10%オフ』と、下層に厳しい逆進性を持つ間接税の消費税を廃止することが下層への最大かつ即時の支援策であることを簡明に表現している。
 安全保障では『巨額の軍事予算を組む前に、積極的な財政出動でものづくりを支えましょう』として、小工業者(小ブルジョア)の要求を体現し、『食糧自給率を高めることこそ安全保障の要です』として、農業小ブルジョアの要求を取り上げ、『核禁止の先頭に立つことが日本には求められています』としてリベラルの政治要求を表に出している。
 このように、「れいわ新選組」が下層の政治経済的要求と小ブルジョアの政治経済的要求とを汲み上げることの出来ている唯一の政党になりつつある。

2.軍事の問題

 だが、安全保障が上記の施策の対置では、ブルジョアジーが直面している軍事の現実に取って代わることは出来ない。企業の国際展開は軍事力の背景に支えられている。米国がその圧倒的軍事力によって米国流秩序(支配体制)を維持してきたものの、その経済的負担を軽減したいという欲求から、トランプの新新孤立主義を生み、バイデン政権下での日本の軍事費の倍増がなされた。安倍政権はこの条件を呑み、岸田政権が踏襲実現した。
 さらに、台湾有事や北朝鮮の核武装化の現実に対して、米日合同司令部を立ち上げ米軍と自衛隊が一本の指令系統で軍事作戦を行える体制を構築してしまった。
 このことが実際に意味することは、米日軍の作戦という名目の下、自衛隊が実際の作成遂行部隊として“単独”で下請けさせられることもあるということである。
 こうしたブルジョアジーと自公政権の現実に対して渡り合えている政党は存在していない。
 かつて社会党は軍事の問題を「非武装中立」でお茶を濁し、社会主義陣営に入ることを暗黙の了解としてブルジョアジー側からの軍事の問題を回避してきた。
 新左翼は非合法党の建設・建軍を目指して奮闘したが、軍を温存し増やしていく根拠地を先進国内で造ることが不可能であるという現実に直面し、各国で衰退していった。
日本の場合は連合赤軍事件として、新左翼に壊滅的打撃を与える形で終結した。
 この軍事の問題が今日ブルジョアジーの側から、台湾有事という新しい形で突きつけられ、ここへの態度をどう取るのかが問われている。
 だが、ブルジョアジーもまた決まった方針があるわけではない。
 米国はその軍事負担に疲れている。巨額の軍事費負担を米国一国で負担している現実は、他の帝国主義国との不公平感や常に米兵が死ぬという犠牲にうんざりしている。
 米国は徴兵制度を維持することが出来なくなり、返済できないほど多額の奨学金を受けてはじめて大学を卒業できるほどに学生を困窮させ、この返済を免除することを条件にすることによって志願兵をかろうじて集めることが出来ている状態である。
 朝鮮戦争に始まって、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガン戦争など長期にわたる大きな戦争だけでも、絶え間がなかった。米兵の死者も10万人程度に達している。
 結論からいうと、巧妙な志願兵制度も維持できなくなってきているのである。
この事情を拙劣に表現しているのがトランプであって、トランプは中小ブルジョアジーの利害を代表しているのである。世界秩序の支配を必要としている大ブルジョアジーは民主党支持であり、共和党トランプ派は中小ブルジョアジーを支持基盤としている。この階層からみれば、米軍の世界展開などは必要でなく幾度目かのモンロー主義で経済を立て直し、中間層を復活させるのが理想モデルである。
 ここからして、トランプ氏のNATO駐留費の加盟国負担の増額、ウクライナへの軍事支援の縮小・廃止などの発言が生まれる。
 これに照応して日本のブルジョアジーにも岐路が生まれている。
 米国の要請に応じて軍事費を倍増したものの、台湾有事でも早くも米国の作戦決断に従属することが明確になってきている。日米地位協定の改定は話題にすらなれない。
 どうせ巨額の軍事費増をするなら、自立帝国主義の道を進んで、米国の戦争に巻き込まれることがないようにするほうが良い。日米安保追随に対し、自立帝国主義路線の浮上である。フランスを見ればわかりやすい。
 だが、自立帝国主義への道は険しい。独自核武装に伴い核廃棄物の自力処理が必要であり、独自の交戦権を保持できるよう憲法を変えなければならない。道は険しいが、台湾有事には自衛隊が中国軍と交戦することが迫られている現実と比べれば大同小異のようにも思える。
 これが日本のブルジョアジーに突きつけられている現実だが、自公政権は何ら決断することなく、だから、方針もなく、米国に突きつけられる要求に“柔軟に”追随しているだけである。
 このことは自公政権のみに問われていることではない。小ブル政党を目指している立憲民主党にも問われている。もちろんすでに小ブル政党になっている日本共産党にもだ。
 プロレタリア政党を目指す政党には、この軍事の問題への対応・方針確定はブルジョア政党以上の困難さを伴って突きつけられている。

3.突きつけられている軍事に何ら回答を持たない維新

 馬場維新は軍事を全く考えておらず、自民の軍事を何となく追認しているだけで、憲法に自衛隊を明記するだけでよいと考えるにとどまっている。
 自立帝国主義を目指すのか。米日同盟のくびきのもと、米国の軍事の一翼となるのか。核武装をするのか。核廃棄物の自力処理場を建設できるのか。
 諸問題に一切態度を取れていない。
 要するに支配政党にはなれないということである。
 かくして、兵庫県知事問題は生まれるべくして生まれた。
 傲慢で反省する能力もない体質は維新議員に共通する体質と言ってよい。これは市町村議会議員に至るまで見事に一貫した体質である。




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