共産主義者同盟(火花)

消滅する「維新」―ファシズムから逸脱しつつ単なる保守党に―

渋谷 一三
467号(2024年08月)所収


<はじめに>

  「維新」の支持基盤は都市下層で、本採用でない労働者と自営業の零細企業とがその実態である。
 「維新」の創業者=橋下徹氏が無自覚にファシズムの政策をきちんと取ってきたが、同氏が維新の指導者の位置から退いたことにより、現在の政党「維新」はファシズムの政策を取る能力を失った。
 このことが「裏金国会」終盤に露呈した。
 衆議院では自公案に維新修正案を加えて賛成に回った執行部が、参議院では維新修正案の期限が示されなかったことにより事実上無意味なザル規制になったことに怒り、自公維新修正案に反対に回った。
 評論家としてテレビ・コメンテイターになっている橋下徹氏は、この、公党としての醜態を、馬場代表の詰めが甘かっただけのことと切って捨てた。
 自分に直接何もなく、いきなりテレビで自身の失策だと断じられた代表が激怒するのは当然で、今度は馬場代表が「後ろからうたれる」ようではやっていられないと言い放ってしまった。
 この深刻な亀裂は、橋下徹氏・吉村氏と他の維新のメンバーとの間の亀裂でもある。
 ファシズムを無自覚かも知れないが体現している橋下徹氏とその唯一の理解者である吉村氏を除けば、「維新」のメンバーはファシズムを体現できてはいず、ただ単に「維新」の風に便乗しているだけなのである。言い換えれば、現「維新」執行部の人間は下層出身者ではなく、下層の大衆が何を求め何に怒りを感じているのかを感じる感性を持っていないのである。
 したがって「維新」執行部は新しい政策を打ち出す力はなく、ただ既定路線を踏襲しているだけなのである。
 ここに亀裂が生まれる根拠があった。
 さらに、ここに来て維新の兵庫県知事のパワハラ疑惑・収賄疑惑が浮上。内部告発した職員が百条委員会開催を前に自死したとみられる事態が急浮上してきた。
 下層階級出身ならば激しく憤りを感じる収賄政治。どうやら、ワインをおねだりしている音声が録音されていて、疑惑は疑惑ではなくなり、内部告発者を自死に追い込んだ大パワハラ事態の様相を見せ始めた。
 ここでも橋下徹氏は、維新の知事が告発者を開口一番『うそ八百』と公共の電波で決めつけ発信をしたことそれだけでも辞任に値すると、「救いの手」を差し延べる気配は全くない。
 曰く、『権力の使い方が間違っている。対等の立場でない者に権力で物を言わす。これでは習近平やプーチンと同じだ。何も言えなくなり、支配が続く。』
 その通りである。まことに慧眼である。
 橋下徹氏はファシズムの欠陥に意識的であり、これこそが「維新」の躍進をもたらしえた根拠だったのかもしれない。
 橋下徹氏が創生した「維新」というファシズム政党は、橋下徹氏を欠いたら単なる利権政治政党になるしかないことが明らかになった。
 北陸新幹線の敦賀からの延伸ルートでも、吉村氏は小浜経由京都・新大阪を主張してきたのに対し、馬場代表は突然米原ルートへの変更を国交省に勝手に申し入れてしまった。
 どうしようもない振る舞いであり、馬場代表をはじめとしてそのグループを排除する以外には「維新」が存続することはできない。

1.万博という古い政治

 万博は歴史的使命を終えている。

 技術革新が物を巡ってだった時代、万博は即時的に展示出来、「一目瞭然」で新技術の成果を理解させ得た。
 だが、今は、技術革新のテンポが格段に速く、4年に一度の周期では到底その使命に応えられるものではなくなった。また、技術革新そのものが、物を巡ってだけではなくなり、展示不可能な技術革新が半数以上になり、出展者サイドが万博を必要としなくなっている。
 さらに、展示そのものですら金のかかる建設をする必要などなく、ネット上で展示すれば事足りるのである。
 要するに、万博は必要でなくなったのである。
 この事情が根拠にあって、参加国数が激減してきており、おざなりのパネル展示だけで済まそうとする国が続出している。参加国にとっても金のかかる「ご近所付き合い」は実のところ止めにしたいのである。

2.維新が万博にしがみついたわけ

 維新の支持層は都市下層階級であるが、下層労働者(派遣社員、パート労働者、下請け工など)以外は、自営業者・零細企業経営者などの小ブルジョアジーである。この層は古いケインズ主義的政策によって保護されてきたために、依然として公共事業に依存する体質を払拭出来ていない。この層=維新支持層の一方=が万博誘致を必要とした。
 かくして、維新は万博を止めることが出来ない。開催国となった今は止められるはずもない、
 このため、円安による建設費の高騰を甘受するしかなく、他方、万博の歴史的役割の終焉にともなう入場者数の激減という事態をも甘受するしかない。
 そこで、入場者数を水増しするために大阪府下の小・中・高すべての児童・生徒を無料招待することにした。
 迷惑なのは教員。狭い敷地で混雑が予想される中、列を組んで引率するわけにもいかず、グループ行動にするしかない。実質上、檻の中に放置するしかないのである。これでは事故や事件に対処できず、メタンガスの噴出などの想定される災害に対処することもできない。
 無料招待は実質、迷惑な動員なのである。
 また、建設が遅れることが確定的になったことで、建設工事と並行して「見学」するしかない開幕月や翌月に「招待」される学校は、悲惨な目に遭うしかない。まして、事故や事件などに巻き込まれれば責任を追及されるのは学校であって「維新」ではない。
 学校は万博への児童生徒の動員に反対し、これを拒否すべきである。
 「維新」は万博への学校招待を中止すること。
 こうする以外に悲惨な結末を回避する方策はない。
 また、維新は利権政治の継続としてのIR施設の建設に突進している。
 下層の政治的要求をくみ上げる能力がないからである。

3.県職員を抵抗勢力として描き、パワハラ・収賄を認めない兵庫県知事

 維新知事は、今回のパワハラ告発・「おねだり」告発を、知事による改革への抵抗として描きだそうとしている。
 確かに県産品のワインに知事の推奨を得たいという申し出に対して、試飲を要求することは「おねだり」ではなく、正当な要求である。だが、こうした事態が120件にも上るとなると、収賄とも言いにくいが異常な事態であることは確かである。
 さらに県職員幹部が2名も死亡しており、側近の副知事は辞任、裏金作りを担当させられたと思われる部長は休職という異常な事態である。
 県職員の告発を斎藤知事の改革への抵抗運動として描き出すことは無理である。
 自らの「改革」政治の中味を提示することすら出来ていない。そのような中味などそもそもないのだから当然ではある。
 維新代表の馬場は、斎藤知事に辞任を促す事も出来ず、“抵抗勢力によるクーデター”として描く構図にはまったままである。それもそのはず、馬場代表自身がファシズムの政策を生み出す発想力すら持ち合わせていないのだから。
 結論。橋下徹氏なき「維新」はもはや維新政党ではなく、『自民党との差異が分からなくなってきた(維新国会議員若手)』保守政党でしかない。

4.同じく下層の政治要求を具現する能力を失っている立民党

 日本共産党との選挙協力によって政権奪取を果たそうとした党創設者枝野氏を後景に退かせた立民党は、筆者が何度も批判してきた蓮舫氏や辻元氏などの日和見分子を取り込んだことで、大衆にも見放され始めていた。
 このことさえ自覚することが出来なかった党執行部は、蓮舫氏を都知事選に立候補させてしまい、党勢そのものを衰退させてしまった。大衆は蓮舫氏や辻元氏を嫌っているのである。辻元氏が小選挙区で落選しているのに、党内で役職を与えてしまっているのである。
 こうした分析能力の欠如は致命的である。枝野氏、福山氏、小川氏、長妻氏、小沢氏の徹底した政策練り上げ以外にこの政党が政権奪取できる道はない。
 下層の政治要求をくみ上げる力をもっているのは、現在では、れいわ新選組だけのようだ




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