ウクライナ戦争の政治的性格をめぐって
氷上 潤
465号(2023年10月)所収
はじめに
今改めて思い起こしたいレーニンの言葉。
「『労働者大衆の積極性を高める』ことは、われわれが、『経済を基盤とする政治的扇動』にとどまらない場合に、はじめてなしとげられることである。」
「政治的扇動の必要な拡大がなされるための基本的条件の一つは、全面的な政治的暴露を組織することである。このような暴露による以外には、大衆の政治的意識と革命的積極性とをそだてることはできない。」
「労働者階級の自己認識は、現代社会のすべての階級の相互関係についての、完全に明瞭な理解――たんに理論的な理解だけでなく、さらに・・・理論的な理解よりもむしろ、と言うほうがもっと正しくさえある・・・政治生活の経験にもとづいてつくりだされた理解――と、不可分に結びついているからである」(『なにをなすべきか?』国民文庫版P106,P107)
「経済を基盤とする政治的扇動」にとどまらないとともに「一国あるいは二国間の枠内での政治的扇動」にとどまらないこと、
「現代社会のすべての階級の相互関係」というときに、それを国家の内側へと閉じることなく、国家の規模を凌駕する巨大資本が登場し、国家の役割を相対的に小さなものとしている現代世界の特徴をも押さえておく必要がある。
1.マイダン革命の性格
ウクライナ紛争をめぐっては、ウクライナ国家vsロシア国家という構図だけではなく、米英NATOを含む諸国家、諸権力組織、巨大化した軍産複合体=戦争利権集団等の動向を視野に入れて把握することが不可欠である。
マイダン革命をもって、親欧米派が親露派の旧政権を実力で打倒したことによって、ウクライナ国家・政治・社会は事実上分裂した。この過程にロシアだけでなく米国支配層も深くかかわっている。
運動初期に自由と民主主義を求める民衆の立ち上がりがあったことをもって、ゼレンスキー政権へといたるウクライナ中央の権力の性格を、米英帝国主義の随伴者ではないと見ることはできない。
マイダン革命による権力奪取のイニシアチブは帝国主義とその同調者に奪われ、アゾフ大隊ら排他的な民族主義者の軍事化と政権への融合が進み、民族対立が掘り起こされ、激化していった。
2.ヨーロッパにおける攻防
ロシア軍によるウクライナへの侵攻後の2022年9月、ノルド・ストリームパイプラインの爆破という象徴的事件が起きた。この国家的破壊活動について、日本のメディアは小さく報じることしかしなかった。
ノルド・ストリームとは、ロシアからドイツ・ヨーロッパにガスを送る海底パイプラインであり、これによりポーランドやウクライナを経由せずに直接ドイツへとガスを供給できるようになった。
エネルギー資源を通したロシアの影響力拡大につながるインフラであり、イラク戦争を引き起こし、リビアでのカダフィー政権排除など石油・エネルギー利権を貪り君臨する米英ネオコン勢力にとっては憎悪の対象となっていたことだろう。
このガスパイプラインが爆破され、独露関係は物理的に破壊されヨーロッパにおける米英のイニシアチブが強められることとなった。
ソ連邦解体後、米英の介入を退け一時期の混迷を抜け出し台頭しつつあるロシア帝国主義と、これを阻止し封じ込めようとする米英帝国主義の勢力争いという大きな枠組みの一部として、ウクライナをめぐる対立・軍事的衝突が位置していることを押さえておかねばならない。
ウクライナの民族主義者やゼレンスキー政権は、米英帝国主義にとってはロシア封じ込めの道具にすぎず、その利用価値がなくなれば、使い捨てにされるだろう。ウクライナの人々はこうした帝国主義間の対立の中で、翻弄され、惑わされ、生活を破壊され生命の危機にさらされているのである。
3.民族的分断・対立を超えた労働者の連帯を!
現在ロシア軍は、親露派系の住民が多い地域を支配し、防衛線を築いている。
ウクライナ軍(米英特殊機関含む)は、一部でこの防衛線に対する攻撃をしかけ、クリミア半島やロシア国内への挑発的軍事行動とともに戦争状態の継続を演出しているが、それは西側からの支援継続による政権維持が主な狙いとなっている。
ここにおいて、ウクライナ(ロシア支配地域を含め)の労働者は、民族的な分裂・分断・憎悪を強める戦争状態の解消(=停戦)に向けた活動を強めることが今日的課題となっている。この活動を通して、諸民族の文化の尊重、住民同士の信頼の回復に努めなければならない。
「社会主義者は、あらゆる民族抑圧に反対してたたかわなければ、自己の偉大な目的を達成することはできない。したがって社会主義者は、抑圧国の社会民主諸党が被抑圧民族の、まさに政治的な意味の自決権、すなわち政治的に分離する権利をみとめ擁護することを無条件に要求しなければならない。」「逆に、被抑圧民族の社会主義者は、被抑圧民族の労働者と抑圧民族の労働者との完全な統一のためにたたかわなければならない。」(『社会主義と戦争』第1章 国民文庫版P112,P113)
ウクライナ多数派に属する労働者は、ロシア系少数派の分離の自由を承認しなければならない。ウクライナ民族主義・排外主義を強め、ロシア系の住民をウクライナ領土に押しとどめようとようとする勢力に与することなく、その影響力を排除していかなくてはならない。
一方、旧ウクライナ領内のロシア系労働者は、ウクライナ文化を排斥しようとする大ロシア主義的な傾向を強める動きと戦い、ウクライナ多数派労働者との回路を回復し広げていかなければならない。
われわれウクライナ労働者に連帯しようとする全世界の労働者は、ウクライナ政治、社会、民族をめぐる重層構造の全体をとらえ、ウクライナ中央政府支配下だけではなく、ロシア軍統治下のウクライナ労働者がおかれた現実に接近し、民族的に分断され対立状態に置かれた現状を打破し、労働者の国際的隊列を形成していくようにしなければならない。
帝国主義戦争の継続を断ち、停戦を実現する活動を通して、労働者の国際的イニシアチブを強めていこう!