覇権主義国家中国とどのように戦うのか(2)
−台湾問題−
渋谷 一三
454号(2022年2月)所収
<はじめに>
ウクライナ情勢が緊迫している。
こう伝えられてから2週間が経っている。
ウクライナがどう決着するかが、すぐれて台湾の帰趨に影響する。
この段階ではっきりした事は、ロシアがウクライナに武力侵攻したとしても、NATO側諸国は最大で厳しい経済制裁をするだけだということ。ロシアとの開戦はないということである。
このことを台湾に当てはめてみれば、中国にとっては国内問題であり、仮に武力行使したところで内戦に過ぎないということになる。
米国は台湾を守るために開戦することはない、と予想できる。
ましてや日本が参戦することなどあり得ないし、米軍機が沖縄基地から発進することすら有り得ない。
中国の台湾侵攻の可能性が一段と高まったのが、今の情勢である。
冬季オリンピックの閉会と同時にウクライナ東部2州へのロシアの「軍事介入」=侵攻が行われる可能性が非常に高くなった。
1.漏えいした、中国の『30分急襲作戦』
中国の台湾への武力行使は、30分以内に大量のミサイルを台湾政府機関に撃ち込んで政府機能を破壊し、同時にこの30分以内のサイバー攻撃によって台湾の軍事的反撃機能をマヒさせ、30分後には新設された中国版海兵隊が「台湾省政府」の建物および放送局を制圧して非常事態宣言を発して、売国奴との内戦を宣言するというシナリオである。
2019年のミリタリー・バランス(英国国際戦略研究所発行)によると米国の偵察衛星は43基、中国は64基。中国が米国を逆転した。このうち30基はトランプ時代の2018年に打ち上げられた人工知能搭載の第3世代「吉林1号」で、解像度10cm。衛星自身が即座に映像を解析し、船舶や航空機を攻撃対象と民間機等に峻別する。従来地上に送られた画像を解析するのに1時間以上かかっていたのに比べると、即座に攻撃が可能で、これが30分急襲作戦を可能にした。
また、実戦配備されているICBMに搭載されている核弾頭の数でも、米国の400発に対し、中国は3300発と圧倒している。米国の核使用を完全に封じこめている。
これで通常巡航ミサイルによる『急襲作戦』で、30分以内に1000発を撃ち込み、台湾政府・軍の中枢施設、軍関連レーダー施設、台湾軍ミサイル固定施設、航空施設などを破壊することが出来る。これと並行して対艦船ミサイルを撃ち込み、海底ケーブルを切断するなどして、台湾の反撃機能をマヒさせる。また、3万人に増員された宇宙軍の中のサイバー部隊が敵国の反撃中枢を攻撃して、反撃機能をマヒさせる。
こうした軍事的優位によって、「1つの中国」の中の内戦問題にしてしまうのが『30分急襲作戦』である。
中国は最近の10年間で急速に軍備を拡大し、東アジアにおける軍事的優位を確立してしまった。米日の軍備を合わせても中国の軍事的優位は変わらない。台湾侵攻の軍事的準備は整っている。あとは、国際情勢のタイミングを見て“台湾解放”をするだけである。
2. 台湾人民の抵抗やゲリラ戦は有り得るのか?
ホンハイなどの、日本企業との合弁や共同出資している企業は、中国国内で日本企業との合弁や共同出資をしている企業と変わりはなく、「1つの中国」抵抗勢力にはならない。したがって、ここで働く労働者や関連企業で働く労働者は、中国への抵抗勢力にはならない。
「1つの中国」になって市場が広がることそれ自体は台湾企業にとっても歓迎できる。
問題は共産党独裁政権が階級化した層によって再生産されるようになった特殊な社会で、資本主義の生命線である、価値の普遍性=平等の仮象性=法の下の平等が歪められたり否定したりされ、正常な競争が阻害され、資本主義の正常な運営が保障されない点にある。
この点が台湾民進党の躍進の基盤であり、根拠である。資本主義が生み出し、不断に再生産している民主主義の概念による1つの中国の実現であれば、それが中国主導であってもよいのである。
民族主義によっては「1つの中国」に絡め取られてしまう。
したがって、民主主義の標榜と民主主義の発展によってしか民進党や台湾の発展はありえない。
民族主義によって政権を樹立した中国であってみれば、中国内部での階級闘争を組織しない限り民主主義革命は達成されることはない。占領された台湾人民にそれほど大きな課題を背負わせるのは所詮無理というものである。
中国内部の反腐敗闘争や、反独裁闘争などの発展によってしか、台湾の民主主義の発展はないことになる。
このことは、ゲリラ戦が成立する条件が今はないということをも意味している。
中国の台湾侵攻が、中国内部の闘争を発展させることは間違いない。が、こうした回り道をしなければならないほどに中国人民・台湾人民の苦難が続くことになりそうだ。