五輪とコロナ
渋谷 一三
449号(2021年8月)所収
<はじめに>
五輪が始まり、お祭りムードが醸成され、COVID-19の感染者数は連日記録を更新し、7月29日には東京都は3865人となり、日本全国でも1万人を越えた。
五輪の中止は3月のIOC代表の来日時に行うべきだと筆者は主張したが、安倍路線を踏襲するように義務づけられた菅首相に、安倍路線の変更を決断することはできなかった。
これで、菅政権はおしまい。
五輪後の支持率低下で、衆議院解散を出来なくなった自民党は、総裁任期ギリギリまで菅政権を続投させ、自民党総裁選のプチお祭り騒ぎで支持率を少しでも挙げる道をとることになった。
中国はWHOの2度目の武漢査察要請を激怒して拒否した。
その言い分は前回の「中国観光査察」接待漬けで、査察は済んだというものである。
気色ばんで拒否をする態度に、COVID-19は武漢ウィルス研究所発の生物兵器であったことが再々度傍証された。
医薬先進国が血眼で開発に取り組んでいる生ワクチン・不活化ワクチンが、未だに出来あがっていないのに、中国は武漢ロックダウンの3ヶ月後には不活化ワクチンを提供し始めていた状況証拠が沢山あり、2020年中には後進国へのワクチン提供と引き換えに「一帯一路」構想への組み込みをして来たのはれっきとした事実である。
COVID-19は紛れもなく、武漢ウィルス研究所発の生物兵器である。
1年も査察を遅らせて中国に協力してきたWHOのテドロス事務総長は個人的にも中国から多額の献金を受け取っている。その上、出身のエチオピアへのワクチンの供与はもとより、多額のODA漬けで中国に隷属している国である。
そのテドロスが2度目の査察を「一度は言ってみる」ことにしたのは、米国を中心とする諸国からの強い圧力があったと推察できる。
米国はトランプ政権時代の策謀大好き政治で、ナイジェリア出身米国籍取得の支持率65%の下馬評WHOの女性候補を支持せず、WTO(世界貿易機構)事務総長を推薦することで総長不在時代を作り出した上に、2回目の総長選挙でもテドロス候補が有利になるように動いた。その結果が現在である。
米国が民主党政権に変わり、WHO・WTOからの撤退路線を止めたことから、今回の2度目の査察要求になった。「米国も生物化学兵器開発を行っているではないか。」との中国側の反論を引き出せば、COVID-19は中国の犯罪であると立証されるからである。
反革命・ネオ新植民地主義(ODAを手段に相手国を隷属化させる手法)中国を弾劾する。
1.ワクチン不足はなぜおきたのか。
英国から輸入したアストラゼネカ社製ワクチンの血栓症誘発副反応により、使用を止めたせいである。この副反応のリスクは1万人に一人という高い比率で報告されている。
そこで、日本はこの分のワクチンが不足することになり、相当な無理をして構築した接種体勢が、膨大な医療人的資源の浪費に終わるという悲惨な結果をもたらした。
更に悪いことには、この「厄介物」のアストラゼネカ製ワクチンを台湾に無償供与して恩を着せるようなことをし、民進党総裁に日本への謝意を言わせている。民進党総裁は、中国製粗悪ワクチンの使用を強要されてきたのを果敢にも撥ねつけ続けて来たのである。
これでも余ったアストラゼネカ製ワクチンを、今度は感染爆発に苦しむインドに供与し、客観的には自国の不用品を援助と勿体をつけて台湾やインドに押し付けたアジア蔑視の行動を取ったことになってしまった。
アジア蔑視の体質が漏れ出てしまった自民党と官僚だからこそ、こうしたことをしてしまった後になって、周囲の指摘もあってかやっと失態だと気づき、ワクチンの不足と相俟って、急に、アストラゼネカ製ワクチンを40代以上の日本人にも接種すると言い出すことになった。
あれだけアストラゼネカ製ワクチンに対する否定キャンペーンをしてしまった後で、一体どれだけの人が摂取するか疑問だが、それでもこうしたのは、アジア蔑視ではないかのように振る舞う辻褄合わせのためである。
どれだけの人がアストラゼネカ製ワクチンを打とうが打たまいが、そんなことはどうでもよく、日本人にもアストラゼネカ製ワクチンを使うと決定したこと自体に第1義的意味がある。
河野大臣はこれらの全てを隠して、ファイザー社との供給調整に不具合があったかのように説明することに終始した。まことに姑息な政治家である。
菅首相がオンライン会談で、五輪開催を口実にファイザー社からの臨時供給をねだったもののファイザー社はこれを拒否した模様。
要求に応じてしまったら、それこそファイザー社の世界的供給態勢をゴチャゴチャにしてしまい、同社は世界的信用を失うばかりか、それによって不利益をうけた各国からの日本バッシングが起きるところだった。
ファイザー社の大人対応によって、日本は救われたと言うことができる。
2.五輪開催でCOVID-19感染者が急増したのはなぜか。
五輪開催と同時に感染者数は急増し、五輪閉幕とともに一旦は感染者数は減少したものの、五輪開催前の3倍近くに達した感染者数という母数の拡大は、医療崩壊を惹き起こした。
このため『自宅療養者』という名の『自宅放置者』が家庭内感染源となり、減少に転じるかに見えた感染者数は再び増大に転じた。
8月12日現在、全国の『自宅放置者』は、2万人に達し、医療を受けられないまま死亡するケースが多発しはじめている。
五輪開催と感染者数の増大は、直接的関係は無いように見えるが、事実は、大きな相関関係があることを示している。
選手の感染は28名に留まったものの、大会運営ボランティアを中心に、大会関係者の感染者は2000名を越えたと当事者が発表せざるを得なかったほどの感染拡大をもたらした。
さらに、国立競技場周辺は満員電車内並みの混雑を繰り返すことが多く、他の競技場も多少の差こそあれ、感染拡大に一役かっている。最終日のマラソンに至っては、IOCの要請に従って周回コースになったせいもあって、沿道はしっかり密の状態だった。
IOCは記録が出やすいため、近年、周回コースマラソンにしている。これは、コースの地理に疎い外国人選手が不利な状況を無くすことにもなり、開催国以外の選手にも好評である。このため、沿道の景色も味わうことの出来るテレビ観戦の醍醐味は失われ、1万メートルの競技4回分の競技になってしまった。全貌を常に見渡すことの出来る1万メートルに比べて見劣りのするつまらない種目になってしまった。
だが、沿道の観衆の数はすごい数になり、かつ、密になった。
大きな感染源であったことは疑いない。
さらに、居酒屋観戦や友人宅に集まっての観戦など、五輪に関係する観戦形態が多く生まれた。このことは報道管制で隠され続けていた。
また、もっと大きなものは、『お祭り気分』という代物。五輪開催に否定的だった人々以外は、お祭り気分で、抑制が取れてしまい、デパートやアウトレットなどに出かけ、スターバックスやマクドナルドに出かけて感染が拡大した。
五輪閉会の翌日になって、スターバックスが28店舗で休業、マクドナルドが128店舗で休業に追い込まれていたことが報道された。
最大の“効果”は、五輪をすることで、政府の言うことを聞く気持ちが失せたことである。
車で帰省すれば自分達が感染するリスクは相当に減る。帰省先は日々の感染者数が50人未満の県。来年には存命しているか不安な祖母・祖父もいるだろう。外に出られない子ども達をのびのびと遊ばせられるのは、皮肉にも帰省先。
こうした事情を勘案すれば、何で帰省してはいけないとか県境をまたいではいけないなどという『要請』を聞く必要があろうか。政府は五輪を強行したのだ。政府の判断は正しくて、市民の判断は正しくないなどとは、片腹痛い。
これが、五輪が感染拡大を促進した最大の理由である。
3.報道管制が行きわたっている。
最大の報道管制は、『ペルーから来日した30代の女性がラムダ株に感染していることが判明』という五輪期間中の報道だった。閉会式が終わるや、この女性が五輪関係者であることが報道された。
報道管制が敷かれていた証左だが、この隠された事実を見抜く人々はそう少なくはないはずで、一つの局を除いて、他局はこの事実を規制期間満了後ですら報道するのをためらった。安倍の報道管制と忖度政治が踏襲されている。
安倍によって首相になった菅氏であったがゆえに、安倍路線を逸脱することは許されず、このことが、菅政権の命取りになった。
五輪の報道管制は、筆者が推定できただけで、以下の通り。
1 ラムダ株を持ちこんだのが、五輪関係者だったこと。
2 この期間中に、従来なかったファストフード店でのクラスターが発生していたこと。(このことは感染拡大を防ぐ上では、早急に報道されねばならない事実だった。)
3 学校での部活などで、クラスターが多く発生していたこと。(上記と同じ重要事実)
4 10代20代での感染も進み、全世代感染が進んでいたこと。
5 感染者数の急速な増大で、五輪期間中に医療崩壊が進んだこと。
6 医療崩壊の結果、家庭内感染が急速に増大したこと。
4.自らの失政を個々人や若者のせいにするための『ロックダウン』導入論調
ロックダウンという手法は、西洋的な発想であり、独裁国家の発想でもある。
共通するのは、国民主権とは正反対の発想で、国民は統治される対象だという階級支配の発想である。だからこそ、独裁国家でも愛用される手法である。
橋下徹氏は、『ロックダウンと補償はセットで』という聞こえのいい主張をして、ロックダウンへの道を開こうとしているが、補償する金がないから、従わない店舗が出る。
この従わない店舗等を暴力的に従わせるために、ロックダウンをするのである。
現にロックダウンを再び行ったフランスでは暴動が発生した。暴力的統治(支配)に反対するには暴動か革命しかない社会構造が西欧型の社会構想である。
日本をそういう社会にしていこうというのが、語義矛盾に陥るが「維新」の会なのである。
この流れは自民党にも大いに普及し始め、知事の間にも普及しはじめた。
補償する金がなく医療崩壊にも直面し、打つ術を無くした知事たちには、切実な問題だけに、思考停止に陥り、ロックダウン法制定という「たるい」先の話に逃げ込んでいるのである。
この一年半の間に、仮設住宅並みにプレハブ病棟を作っておくことは十分に可能なことだった。その費用もたかがしれており、アベノマスクより遥かに安価である。政府は34兆円も昨年度予算を余らせている。
この失政。五輪を3月に中止する決断を出来なかった失政。マスク会食を徹底できなかった失政(遥かに密な通勤電車でのクラスター発生は報告されていない)。ワクチン作成能力を失わせた大学法人化と薬価行政の失政、などなど、既に本稿で幾度も指摘した通りである。
立憲民主党が、この危険な流れを阻止する役割を担うべきなのだが、代表の枝野氏が「強い外出制限に賛成の余地は十分ある」という姿勢を示すなど、ロックダウン止む無しの論調を取り始めている。
これが、立憲民主党が未だに5%台の支持率しか取れず、政権奪取できない根拠である。
枝野氏が孤軍奮闘立党した時は立憲主義を高く掲げ、忖度政治という汚職政治との
決別がはっきりしていた。民主党時代にいた海江田万里氏などの原発肯定派族も去って行って、旗色が鮮明だった。このことが、有象無象の多数派のはずの、後の国民民主党に行く部分に勝る議席を獲得できた根拠だった。
今再びロックダウンに対する旗色を鮮明にできるかどうかが、同党が浮上出来るかどうかの分水嶺であろう。