無自覚なファシズム
渋谷 一三
445号(2021年1月)所収
<はじめに>
元鳥取県知事で、民主党政権時代に総務相を務めた片山善博氏が、最近、新型コロナ肺炎を巡って、テレビや著書などで多く発言している。
片山氏は、安倍首相の違法な緊急事態宣言を筆頭に、各県知事の多くが、法に基づかず、民主党政権時代に新型インフルエンザの流行に備えて制定した法体系を全く無視して右往左往し混迷していることが、有効な対策を取ることが出来ない大きな原因であることを指摘し、発言している。
氏の著書『知事の真贋』を読めば、氏の言いたいことの主旨は上記のようなことであることが分かる。
だが、氏の真意とは別個に、氏の言いたいことは、『私権を制限する法を制定し、法の強制力で、必要とあらばロックダウンも出来るようにしよう。』という、橋下徹氏と酷似した主張をしていることになってしまっている。
片山善博氏を最も信頼していると自称するブロガ―の山内康一氏が、それである。
片山氏の意図や発言とは全く逆に、片山氏の発言は、私権を制限できる法体系を整備しようというファシズムの主張になっているのである。
この、いわば無自覚なファシズムが、この例に限らず、今回のコロナ騒動では、あちこちで散見される。
読者の注意をアラート状態にされることを望むものである。
1.営業自粛要請に応じないパチンコ店の店名公表問題
山内氏によると、
『営業自粛要請に応じないパチンコ店の店名を公表した自治体がありましたが、これは権力乱用ではないかと片山氏は指摘します。』
その通り。片山氏もそう言っている。
だが、この文言に続いて、山内氏は、
『情報公開と説明責任の観点から店名を公表することは法律上も想定されていましたが、パチンコ店の店名公表は“見せしめ”的公表でした。このような公表は法律が想定していなかった運用の仕方で、権力の乱用にほかなりません。』となる。
片山氏は、こんなことは言っていない。
『ここでいう“公表”とは、私権の制限に当たる要請や支持をしたのであれば、こっそりやらないで、内容を直ちに公表しなさいという意味です。』(知事の真贋72頁)
『大阪府の吉村知事は「私は公表しなければならないと義務づけられています。だからパチンコ店の名前を公表します」といっていましたが、公表を義務づけられているのはパチンコ店の名前ではなく、知事が何をしたかでした。
それが、全く逆の読み方になってしまい、今もまだ正されていません。』(同書74頁)
片山氏を支持すると自称する人間が、片山氏が批判してやまない正にその全く逆の読み方でブログを書いているのです。
法律が想定している運用の仕方ならば、店名を公表してよいということになる。
何度も言うが、片山氏が言っているのは、「公表を義務づけられているのはパチンコ店の名前ではなく、知事が何をしたか」
でした。
2.私権制限法案はファシズム。密告と政策批判御法度のファシズム社会を生む。
菅首相もまた「罰則を義務付けた法を制定する必要がある。」と公然と述べるようになった。
『無自覚なファシズム』の危険が刻々と迫っている。
立憲民主党も人材不足。ファシズムの視点を持ち得ている議員は見当たらない。
へたをすると、間違いだらけのオカミの指示を無視した商店主や個人が処罰されることになる。
こうなると、営業時間の短縮を指示された商店の多くは倒産する以外にない。
時短指定エリアに隣接するエリアは逆に来客増が見込めるため、時短エリア内で“違法”営業をした店は、警察等が巡回しなくても、密告が入るようになる。ナチスが支持を伸ばした社会構造と同じだ。
政府の指示が正しいとは限らない。
これまでの政府の指示は、全て間違っていた。
安倍の緊急事態宣言発出と全国一斉休校は、「保護者」とされる下層労働者の就労を剥奪し、経済を急速にどん底に追い落とした。
3つの「GO TO」は、感染の急速な拡大を招いた。
このどちらも、筆者は必要ないと、政府が指示を出す前から言ってきており、誤っていないことが事実をもって証明された。筆者と同じことを主張した人々は多くいた。多くの評論家がそう言ったというようなレベルではなく、国民の何割というレベルでの多数だった。
今また、五輪の開催が既成事実化されようとしている。森元首相の目先の小さな「五輪赤字回避」衝動のために、その数十倍に上るだろう国債発行を余儀なくされる事態が待っている。だが、利権まみれのIOCの会長を呼びつけてのパフォーマンスで既成事実化された五輪開催に異議を唱えることは「非国民」扱いされるようになる。
実際に東京都知事が攻撃のターゲットになってきている。
罰則をつけることは、政府の指示が間違っていないことが前提になるからだ。
かくして、無自覚なうちに静かにファシズム社会が到来する。