新型コロナ肺炎に見るファシズム
渋谷 一三
436号(2020年3月)所収
<はじめに>
前回の新型インフルエンザウイルス騒動の折、当時の厚生大臣舛添は、一所懸命のポーズを熱く演じて『水際で阻止する』と息巻いていたが、結局のところ、ウイルスの流入を阻止することなど出来なかった。
国際化が進展してしまっている現在、ウイルスにとって、国境は完全に廃止されてしまっている。しかし、今回は従来になく国境を復活させようとする『移動制限』の嵐が吹きすさんでいる。これはどうしたことだろう?
トランプの『アメリカ・ファースト』に象徴されるように、西欧でも移民の流入を嫌悪する新型ファシズムが蔓延している。このことと、今回のウイルス蔓延阻止の御旗のもとに発令されている移動制限の嵐とは関係があるのだろうか?
1. 春節の大量観光客を受け入れてしまった「失政」を糊塗するための小・中・高一斉休校
安倍政権は、五輪中止を避けるため検査数を意図的に減らし、感染が広範囲に及んではいない印象を作り出すことに懸命だった。五輪中止による経済的損失は7.8兆円にのぼるとの証券会社の試算が出ていたからだろう。
同じ理由で、膨大なインバウンド利益をもたらす春節の中国人観光客の受け入れを阻止することができなかった。
この"初動ミス"が、膨大なインバウンドによる経済的利益をはるかにしのぐ経済的損失を生むことを安倍は全く知らなかった。
このため、春節の中国人観光客の受け入れを拒否するという措置を取らなかった"初動ミス"を糊塗するために、小中高の一斉休校を、根回しもせずに突然発表するという乱心ぶりを披歴した。
無知な上に不勉強な安倍は、小中高の一斉休校が、中国人観光客が落とす金など比較にならないほどの膨大な経済的損失をもたらすことなど想像だに出来なかった!
全国一斉休校により、働きに出られなくなくなる親という労働者が出、自粛要請により仕事を失うフリーターと呼ばれたり、恰好よくフリーランスと呼ばれている臨時雇いの労働者が出、観光業から倒産が始まり飲食業に波及し、株価が暴落し、貸し渋り貸はがしが横行するようになった。
一斉休校は、経済的打撃の悪循環の扉を開いたのだ。
2.五輪延期が決定した途端の一斉休校解除・感染者数の"急増"
欧米での感染の拡大によって、五輪参加国の側が2020の五輪開催を延期してほしくなり、安倍政権は五輪中止を避けることに結果として成功した。
その途端に感染者数は急増したことになった。
五輪が中止でなくなったため、日本の感染状況が危機的ではないと演出する必要はなくなったためだ。実に露骨だ。
また、3月最終土日の時点で感染者数が急増したことにすれば、春節の中国人観光客をうけいれた初動対応のミスを隠し通すことが出来、実に都合がよい。
だが、ウソは必ずほころびが出る。
『あんなに感染者が少なかった時に一斉休校にしたのに、感染爆発が起きそうな今、何で休校を止めると言えるの?』という疑問だ。
安倍は前言をすぐにひるがえし、一斉休校もあり得ると言わざるを得なくなった。
何の一貫性もない無定見ぶりを露呈させてしまった。
3.建前の横行=事実を言うことが憚れるようになった社会
『肺炎による死者は近年毎年10万〜12万人程度で推移してきた。』
この事実を言うと、『コロナウイルスによる死者を最小限に留める』という大前提に叛いて、死者が10万〜12万程度出てもいいと主張しているように捻じ曲げられ、"非国民"にされてしまう。
これはファシズムの情況だ。
『コロナ肺炎の死亡率はインフルエンザの死亡率よりも低い』
これも言ってはならない。
「じゃあ死んでもいいのか!」という、"炎上"の、無責任で稚拙な恫喝が飛び交うからだ。
こうしてまともな議論を封殺してしまい、「外出するな!」という煽動が闊歩する。
冷静に考えるならば、
(1)ウイルス性の感染症を国境で留めることは出来ない。
(2)医療崩壊が起きると感染爆発が起きるので、感染の拡大を出来るだけ緩やかにする。
(3)例年の死者数の多少の増加は覚悟すべきで、社会活動が委縮すれば社会崩壊が起き、克服に何年もかかる大不況が人を殺すことになる。
ことを前提に施策を考えるべきである。
だが、ファシストは、特に(3)には反応し、「じゃあお前が死ね」と必ずわめく。
息苦しい社会が現出しつつある。
4.現状では東京都・千葉・埼玉・神奈川、愛知、大阪・兵庫、(北海道)で「外出自粛」や休校が検討されるべき事態に到達。自治体ごとに施策が判断されるべき。
・春節の中国人観光客の受け入れは阻止すべきだった。
・小中高の全国一斉休校は必要ではなかった。
・検査は可能な限り多く実施すべきであった。
・ 韓国が生み出したドライブスルー検査所などの優れたアイデアを即時取り入れるべきだった。
これらを判断する時の基準は、唯一、『医療崩壊を防ぐ』という一点である。
(次号へ続く)