没落しているはずの自民党―公明党なしには第3党以下―
渋谷 一三
431号(2019年4月)所収
<はじめに>
安倍の独裁的強権政治によって、戦後民主主義は完膚なきまでに破壊された。また、
『安倍一強体制』などとマスコミが喧伝するあまり、自民党が消滅に向けて尻貧症状を呈していることが実感できなくなっている。
だが、自民党は、小選挙区制と公明党のおかげで、国会において3分の2近くの議席を占められているにすぎない。自民党自体は消滅の危機に瀕している。
このことに大衆は気付いていないし、当の自民党も気づいていない。
自民党に危機意識がないのは大変よいことだが、自民党(大ブルジョア政党)が没落する代わりに台頭してくるのが、零細小ブルジョア(やま師的企業経営者)と労働者下層の連合体であるネオ・ファシズム政党であることが、悲劇的である。
この症状は、大ブルジョアと労働者上層部連合たる米国民主党を破って、やま師的煽動家トランプが勝利した米国の構造とよく似ている。
政治的に訓練されていない上に冒険を厭わない下層の激情が、変化を必要としない大ブルジョア政党の安定を打破して、不安定と戦争の危機を増大させている。
この縮図として大阪の選挙戦があった。
本稿は投票結果をたよりに、労働者下層階級の政治的反乱を析出しようとするものである。
1.「維新」45選挙区中42選挙区でトップ当選
「大阪維新の会」は、府議選で88議席中52議席を獲得した。無投票8選挙区を除く45選挙区中、いずれも定数1の東成区と池田市選挙区で自公連合に敗北したほか定数1の旭区で維新以外連合に僅差で敗北しただけである。
圧倒的に強い。
この強さは、反維新の自民候補が何も主張を持たないのに対し、都構想という間違ったものであれはっきりとした主張を維新は持っていることに依る。自民候補は言葉を発するものの何を言っているかさっぱり頭に入って来ないのに対し、維新候補の発言はその趣旨が明確に頭に入ってくる。
こうなるには根拠がある。自民党は変化を好まない安定志向の政党になりきっているがゆえに、主張することがないのである。だから言葉を重ねれば重ねるほど、何を言っているのかさっぱり分からなくなる。
また、「維新」は「組織」を持たないがゆえに街頭演説のみの繰り返しという選挙戦術をとるしかなかった。このことが、どこかで選挙活動なるものが行われているらしい他候補と比べて、はっきりと存在感を増す効果をもたらした。これは無党派層を取り込める絶好の戦術となったし、ムードの醸成にも役立つこととなった。
だが、「維新」は、こうした優越性だけでは説明のつかないほどの勝利をしている。
2.定数4の豊中・高槻三島・枚方選挙区では上位2議席を「維新」が占めた。
4議席中2議席も一つの政党が占めること自体がすごいことなのに、上位2議席を一つの政党が占めるという圧倒的な強さを見せている。
この強さは「異常」である。かつての中選挙区制度の下での自民でもなかった強さである。
だから、選挙戦術の正しさ程度のことで説明のつくことではない。「維新」を支持するに至った人々の階級分析が必要である。
3.自民候補が単独で勝てたのは茨木・豊中・吹田の3選挙区のみ。
他の自民議席は自公の選挙協力による自公票により獲得したもので、自公選挙協力がなければ、決して取れることのなかった議席である。自民はかつての農民などの小ブルジョア階級との連合の代わりに、公明との連合によって政権を維持出来ていることが、票の出方からも証明されたことになる。
皮肉なことに、大阪における自公連合は、公自連合であり、公明票の方がおおいのである。この事実が議席数にも反映し、1対1の交換選挙協力をしたはずが、公明が1議席多く当選しているのである。さほどに大阪の自民は弱っている。中小企業が多い大阪においては、大ブルジョアは数的に少なく、かつ、近年のグローバル化によって大阪発大企業が東京に本社を移転させグローバル企業に成長することも多く、大阪における大企業の影響力は低下してきていた。
大阪発大企業のグローバル企業化や、ダイハツのトヨタへの吸収合併に見られるような没落が進展したのが2000年前後からリーマン・ショックの2008年ぐらいまで。維新が都構想を掲げ知事・市長をとり、府・市議会で第1党になったのが2008年。うそのように符合するのである。
言い換えれば、大阪が本当に中小企業の町になったのはつい10年ほど前。この時期に自民党の顕著な支持率低下がおこり、大企業による収奪(TOYOTAの看板方式に典型)にあえいでいた小ブルジョアたちの反乱が始まったのである。
被差別部落出身だったことから、下層の利害や気分をしっかり身につけることができた橋下氏が、下層の利害を歯切れよく堂々と主張することが出来た。このために、一躍維新ブームが起き、政治構造が地滑り的に変化したのである。
4.日本共産党の支持基盤の変化
1970年前後には大阪府政は日本共産党推薦の黒田府政が成立していた。
全共闘運動の余波と、そのアンチテーゼとしての暴力革命でない方法での政権奪取=社民主義の台頭により、全国的に『革新自治体路線の台頭』が起きたのである。
しかし、連合赤軍事件などにより、新左翼が壊滅的打撃を受け急速に退潮するとともに、アンチテーゼも退潮していくこととなった。
日本共産党は新左翼に対抗して生き残りを探る中で、民主商工会の躍進などに導かれてその軸足を小ブルジョア層へと移して行った。この結果、現在の同党の支持基盤は労働者上層部と小企業家、商店主、農民などの小ブルジョアジーに変化し、支持者の絶対数を減らしながらも生き残った。
この変化によって、グローバリズムによって新たに生み出された階級である労働者下層を代表する政治組織がなくなり、かつてから下層階級が暴動や反乱を起こさないように抑止機構として発展してきた創価学会が一定の部分を吸収するという構造変化が起こっていた。
だが、創価学会に下層の全てを吸収する力はなく、自らの政治指導部を見出せずに鬱屈していた労働者下層が、「維新」の登場に沸き立ったのである。
公明と「維新」の奇妙な一致とつば競り合いは、下層階級の取り込みという点で競合関係にあることから生まれていると分かると合点がいく。
5.自民党の支持基盤は無くなった。
公明の協力なくしては88議席中3議席しかとれなかった大阪自民党。公明を通じて下層の票を足して初めて当選する主体となる階級は誰なのか。この極めて薄い層とは何者なのか。
TPP交渉を経て、自民党は最終的に農民からの支持を失った。農民と自民の唯一残された共通の利害は資本主義を守るという一点だけだが、守るべき資本主義の種類が異なる以上、「社会主義」という共通の敵が消滅した現在、団結のしようが無い。
大企業に下請けにされ景気の浮沈の際の調整弁になり下がった小企業主たちも、自民と団結する理由などない。
実際、大企業の利害貫徹部である自民党は、外国人労働者を大量に入れる法案をゴリ押しして通してしまった。
労働者下層にとって、文字通り職の取り合いの競合先が外国人労働者であり、労働条件の悪化の直接の原因を作っているのが外国人労働者である。これを野放図に取り入れた自民党に投票する理由はない。
治安の悪化をもたらす外国人の大量流入は、治安の良さを好む今や極めて薄くなったかつての「中産階級」の支持離れも惹き起こした。
自民党の支持基盤はなくなったのだ。
今、自民党に投票する人々は、過去の惰性による、『習慣化された投票行動』をなぞっているにすぎない。無自覚な人々による惰性の投票が自民党の残り火となっているだけである。
公明との選挙協力が無くなれば、大阪自民党はただちに消滅する。
6.自民公明連合に代わる力を失った旧民主党
参議院旧民主党を主力とする「国民民主党」は、今回の地方選でも自公国民の推薦・支持候補が多数出現したことに見られるように、自民党の補完勢力になり下がった。
右からの補完勢力が「維新」ならば、やせ細った小ブル層からの補完勢力が「国民民主」である。大ブルジョアとの対立軸を見出せない以上、補完勢力になるのは、理の当然である。
これに対し、「希望の党」騒動で排除され創設された立憲民主党は、創始者の予想をはるかに上回る健闘を遂げ、ファシズムに流れることの出来ない層が決して薄いものではないことを表出させた。この功績は大きいものだ。だが、勝利の原因を分析する暇もなく、党勢を拡大するという政党としては当然の利益に導かれる形で、旧民主党の中でもレッテル張りやパフォーマンスばかりしているような質の悪い議員まで入党し、党勢拡大の足引っ張りをしている。
せっかく、野田氏や菅氏、鳩山氏などの質の悪い首相経験者や自民に入党しようとしている何某や前原のような「希望の党」がふさわしい人物がいなくなって、内部抗争に明け暮れる毎日から自公連合や「維新」などのファシズム勢力と明確に分岐できる政策を打ち出せる機会になったはずが、もり・かけなどの蕎麦屋騒動や閣僚の失言をあげつらうしか能の無い政党に堕したかの感を漂わせてしまっている。森友や加計問題がどうでもよいというのではない。この問題は政権を打倒するに十分な問題なのだが、政権を打倒できない一番の理由が、旧民主党政権のだらしなさ・政権担当能力の欠如であることをわきまえるなら、「辞任の連鎖」や「疑惑の総合商社」などのレッテルばりしかできない議員を表に出していては、到底、自公連合に勝てる政策を打ち出すことはできない。
「維新」はそれが区議会の創設や区長の公選制などの更なる二重行政を生み出すことになるものであっても、それを「二重行政の解消」をまくしあげて「都構想」を展開し、自公連合に対抗する政策軸を打ち出せている。これが「維新」の勝因だ。
「維新」支持層が、政治的学習をする暇が無く、都構想が二重行政解消になると思い込まされている現状を憂うならば、「維新」を上回る煽動をしたらよいだけの話なのだ。簡潔に「維新」批判する能力を持てばいいだけの話なのだ。
7.労働者下層を組織する政党の創出が急務/ファシズムは、このことによって阻止しうる。
「維新」の10年は恵まれていた。
韓国人・中国人を中心とするイン・バウンドが10年前から急速に増え、一昨年までは「爆買い」にも増幅されて大阪の小ブルジョア層を圧倒的に潤してきた。
これが、またぞろ万博などの陳腐な発想による「古い業界」刺激策しか思いつかない古い「維新」という政党を生き延びさせる根拠となった。十分に潤った小ブル層は、「維新」政治のおかげと思い込むことが出来たし、万博やIRなどへの寄付集めにも応じられるほどに潤ったからである。
大阪都構想はより大きな恒常的二重行政である。
IRはかつての春木競馬のように貧困層をますます追い込み、住環境を破壊する。
ラスベガスに行く階層は大阪には来ない。大阪のIRは日本人と成り金中国人の賭場にしかならない。
だが、そうと分かったところで、自民は何をするのか全く分からず、狭い世界の利権政治、安倍政治の拡大ミニチュア版をするとしか思えない。
ここに大阪の混迷がある。
この混迷は、大阪を縮図とするだけである。
下層階級を組織する政党の創出が急務である。