共産主義者同盟(火花)

第48回衆議院議員選挙結果について

渋谷 一三
420号(2017年11月)所収


<はじめに>

 都民ファーストの会の大躍進に恐怖した安倍自民党は、その組織が確立する前に衆議院を解散して総選挙をすることを決断した。もちろん電通の参謀の世論調査結果の分析と世論操作技術に従ってのことであることは言うを待たない。
 その戦術の一環として、民進党の細野を先遣隊として「希望の党」を結成させ、民進党の解体とその小池党への吸収を企むという周到な準備をしていた。
 そうそう無謀な解散ではなく、党利党略に徹した策略であり、見事と言った方がよいであろう。
 だが、「瓢箪から駒」。旧民主党が担っていた反自民の受け皿が無くなったために、新党を作るしかない所に追い込まれた枝野氏の結成した立憲民主党が旧民主党に匹敵する政党になる道が開けた。
 今回の選挙では全くの準備不足で、旧民主党並みの議席は獲得できなかったが、希望の党に寝返った旧民進党議員が次回の選挙では消滅する。細野や馬淵、前原などの「関ヶ原の小早川」のような日和見・無節操な人物には退場していただこう。
 そもそも自民党にすら入れてもらえなかったような人物が政界にこだわるあまりに松下政経塾に行って最大野党に「潜入」しただけのことであるから、不純物を落として、活力のある政党として立憲民主党が登場していく可能性が開けたと言える。

 今回の選挙結果が示すことは、創価学会票がキャスティング・ボウトを握っているという厳然たる事実である。
 公明党が都民ファーストの会と結託した都議会選挙では自民は完敗し、自民党と結託した今回の国政選挙では、自民の「圧勝」を演出することが出来た。今後、公明党の発言力は与党内で増大することが予想される。
 「加憲」を主張することで、護憲派が多い創価学会票をつなぎ留めている現在の情況では、「加憲」以外の改憲はできないであろう。安倍の名を悪い意味で歴史に残したいという自民党総裁の野望は実現することはないだろう。
 だが、「非武装中立」を思想的背景にした理想主義的平和主義とセットになった護憲イデオロギーが崩壊しているという現実から目をそらすべきではない。今、かろうじて護憲派が得票をえているのは、憲法改悪阻止の思想が「憲法改正」派に対して、具体的批判を持つことが出来ていない事情を反映しているだけのことで、護憲思想事態は現実を規定する力を既に失っている。
 創価学会票がキャスティング・ボウトを握っているという現実を注視するならば、野党は立正佼成会などの取りこみをすべきなのだが、ここは安倍派が取りこんでいる。こうした点でも、「しがらみ勢力」の懐の深さに野党は追いついていない。

1.「維新」の消滅

 「維新」は大きく議席を減らした。都構想という具体的政策を引っ提げて颯爽と登場したまではよかったが、都構想が実現したところで、新区役所・区議会の設置でかえって行政組織が肥大化することが少しずつ理解されるに至って、自民から離れた小ブルジョア層が再び自民に回帰した。ここから「維新」の消滅が約束される。
 維新に投票してきた労働者下層と社会的下層はどこへ投票したのか。
 基本的には流動していず、「維新」に投票したようだが、「維新」から離れて自民に回帰した票がキャスティングvoteとなり、自民の議席回復となった。
 「維新」の議席減を受けると、憤懣度が一番激しい下層階級は「維新」を見捨てることは疑いない。この階層の票は浮動票となり、激しくがなりたてる党を見つけてはそこに投票することになる。

2.「希望」の漸減

 「希望」出身の議員はないに等しく、当選した議員は民進党右派に過ぎない。だが、党首は安倍派に近いブルジョア極右派であり、この政党も消滅の道を歩む以外にない。
 唯一生き残りがあるとすれば、かつての民社党のような労働者階級上層部(正社員階層)にのみ依拠した政党として生き延びる道だが、連合が労働者上層部の組織だとはいえ、であるからこそ、党首を更迭しない限り支持することはできない。
 この政党もまた、消滅する以外にない。

3.共産党の議席半減が、「野党統一候補」戦術にもたらす変化は?

 党利党略を第一に考える共産党が、小選挙区制という事態を前に野党統一候補を立てる戦術を採用したことは、特筆に値する。党内の思想風土の柔軟化or崩壊が進行していないと、如何に志位委員長といえども、こうした柔軟な戦術を党に採用させることはできなかっただろう。その意味で、日本共産党の歴史の中で画期的であった。
 だが、この戦術は結果として立憲民主党を躍進させることにのみ作用し、反自民票の受け皿としての共産党への票をほぼ無くしてしまった。
 このため、共産党の議席は半減し、コアな共産党支持票のみになったと推測される。
 この議席減によって、次回も統一戦線戦術を採用することができるかどうかは微妙である。共産党内部の議論の帰趨による。予測は難しい。

4.立憲民主党の創立と躍進

 維新と安倍派は極右に近い。石破派は右派。中道の宏池会の岸田派は政治方針がないようにしか見えない。安倍派の支配下にあって従順にしていられる岸田氏には何の魅力もない。
 かくて、保守革新という区分けが意味を失った現在の政治状況の中で、歴史を歪曲し、物事を真剣に考える謙虚さを微塵も持たず煽情的な政治方針をだすことしか出来ないお寒い右派を一掃したいと考える良識を持った階層を代表する政党が求められていた。
 都民ファーストの会が、そういった政党と誤認されたが、その化けの皮が剥がれた今、まだ比較的厚い層をもっている旧「中流階級」を代表する党が求められている。
 この需要を反映したのが、立憲民主党である。
 中道だとか、中道リベラルなどという区分けは意味を持たない。
 そのことの反映が、枝野党首が「私は保守政治家でもある。」と敢えて言っている事である。




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