フランス大統領選挙
渋谷 一三
419号(2017年9月)所収
<はじめに>
仏大統領選挙の第1回投票で既成政党が沈んだ。「保守」も「革新」もである。
このことは、「保守」だの「革新」だの右だの左だのという区分が何の意味も持ち得なくなっていることを示している。
決選投票では「無所属」「中道」のマクロン候補が「極右」のファシストのルペン候補をダブルスコアで破った。
しかし、白票および「無効票」は組織的に呼びかけられ、11%に達した。
白票というのはネガティブ・キャンペーンなので、不買運動と同じく、一般的には低迷するものなのだが、異例の二桁に達した。
ルペンが当選することへの恐怖が主要な投票動機だとブルジョア・マスコミはそろって喧伝する。世界史上初の革命らしい革命を遂げたフランス、新左翼の発祥の地であるフランス、その伝統がファシスト政権の誕生阻止を最優先課題にするというモーメントとして働いたのは確かだろう。
だが、それだけだろうか?
それだけでは、第1回投票で既成政党が沈んだことの説明がつかない。
初めから既成政党のどちらかにシフトしておけばよい。だが、ファシスト政党の躍進を阻止するという大義は、第2回投票に持ち越され、第1回投票では、共和党も社会党も駄目だという意思表示が優先され、くっきりと浮かび上がった。
浮上したのは「無所属」とされるマクロン候補だった。
第2回投票で、ルペン候補に「圧勝」したとはいえ、たかだかダブルスコアにすぎない。
階級分化の更なる進行―没落するブルジョアジーの増加
ルペン党首は第1回投票で、社会党と共和党という既成2大政党の候補を破っている。
移民という米国のシリア侵略戦争の犠牲者、を受け入れることで起きる国内の治安の劣化を拒否する意志が仏国民の第1の意思だったのである。
大国意識という右の思想からしても、米国の侵略戦争の後始末をするという屈辱は受け入れ耐えがたいものだった。
他方、米国のイスラム世界再編のための戦争に反対するという左の思想からしてもシリア移民を受け入れることは、米国のシリア侵略を結果的に下支えすることになり、人道的見地以外からは受け入れがたい。
フランスはイギリスとは異なり、EUの創始者の位置をドイツとともに持っている国である。そもそもEUの前身のEEC(ヨーロッパ経済共同体)構想自体が、仏大統領のドゴールの構想であり、独仏の戦争回避のための手段として構想されたものだった。
このプライドが、EUからの離脱という動きにブレーキとして働いたのも確かだし、英国ほどにはEU内で「蚊帳の外」に居るわけでもない。それなのに、ルペン候補が第2位になったのは、それほどまでに、移民の受け入れによる階級闘争の激化、それも民族差別という形態をとっての階級闘争の激化に耐えられないのである。
この旧植民地出身者を下層労働者として収奪し発展した仏ブルジョアジーであったが、グローバル化によってますます一部の強力なブルジョアに富が集中し、大ブルジョアからすら没落するものが現れ、中小ブルジョアが労働者階級に没落することが、大規模に進行した。
仏労働者階級の貧困化は進んだが、それ以上に旧植民地出身者によって構成される労働者下層の絶対的困窮は進み、「自爆テロ」によって死ぬことを恐れぬ人々を輩出するまでになっている。