新自由主義の終焉―「資本主義の終焉」の始まり2―
渋谷 一三
408号(2016年6月)所収
<はじめに>
企業が多国籍化するとともに、一国経済を前提に財政投融資や国家予算による所得の再分配などを主な手段とするケインズ主義が終わりを告げた。
ケインズ主義の終焉にともなって世界を席巻したのが新自由主義だった。
それは"偶然にも"ケインズ主義の反動としての性格と一致する、国家の不介入=小さな政府=放任経済=自然発生性への拝跪という性格だった。
サッチャーやレーガンが新自由主義の人格的代表だった。
経済が一国の国境内には収まらなくなった(今で言うグローバル化)物的環境の反映だった。
日本では、その新自由主義の不完全版が小泉"改革"であり、その継続を主張した残り火が「みんなの党」とその後継としての維新の党だった。
「みんなの党」の分裂と維新の党の解党という組織事態にすでに反映されているように、新自由主義は終わりを告げた。
このことを伊勢志摩サミットが象徴した。
1. 2時間で終わった伊勢志摩サミット
消費増税を先延ばしするという安倍首相の個人的利害で世界各国の首脳を呼び寄せ伊勢神宮までダマシ参拝させてしまっただけで、サミットは終わった。
何の一致したコミュニケも出せなかった。
そればかりか、世界は「リーマンショック前の情況に酷似している」などという安倍以外の誰もが稚拙さに苦笑した図表を出して恥をさらしただけの2時間だった。
何も中味がないからこそ、2時間を潰すだけで終わった。
徒労感だけを漂わせてオバマ大統領以外は早々に帰国した。
2. 米・欧のインフレ・ターゲット政策を模倣した安倍政権
未だかつて成功したことがないインフレ標的政策に米国は見切りをつけ、資本主義としての正常化=利子の復活へと舵を取っている。
欧州は猿まねの安倍政権の上を行くマイナス金利政策をとるものの、インフレ目標を達成することができていない。
当然である。
先進国の人件費が後進国の人件費に近づき、労賃の世界的平準化へと進むのが経済の法則であり、先進国がデフレになるのは必然である。
先進国がうまい汁を吸えるのは、後進国の安い労賃を使うという"搾取"によっているのであり、そうであればこそ、先進国の産業の空洞化は必然なので、人件費を上げ、その分以上のインフレで国債の返済を容易にし、実質賃金を下げようなどと夢想するのは虫がよすぎるというものである。
インフレ・ターゲット政策は原理的に達成不可能な夢想に過ぎない。
このことを証明してみせているのが、先進7カ国が集まっても何もすることがないというサミットの現実だった。
米欧の経済政策を後追いした「アベノミクス」なる代物が、何の効果ももたらさないばかりでなく、企業内留保を増やしただけで、国家財政をますます危機的なものにした。
だから欧州並みのマイナス金利に踏み込むことすら出来ないで円高を招来している。英国のEU離脱は、今回は実現しないだろうが、離脱への要求がかくまで増大してい
る根拠は、安倍政権の混乱と同じく、人工的にインフレを作るという実現不可能な政策以外に何の政策も取りようがない現状の反映である。
新自由主義は終わったのである。
小さな政府とは、やることのない政府という意味でもあったのだ。