安倍政権打倒! ―公明党は連立を離脱せよ―
渋谷 一三
397号(2015年3月)所収
<はじめに>
「イスラム国」は日本を攻撃対象の国家に指定した。
日本が戦後培ってきたアラブ世界での信頼は、瓦解した。安倍氏の「功績」である。
NHKは「イスラム国」という表現をやめ、「過激派組織アイスル」と言い始めた。
前稿で指摘した通りになった。安倍政権の言論統制が奏功している。こんなに偏向した報道機関に国民は強制的に「受信料」を払わされている。支払い拒否はできなくなった。
支払いを命じる判決が相次いだからだ。
辞表を予め預かるという有無を言わせぬ管理体制を敷いた籾井会長を罷免させようともしなかった野党のせいでもある。
安倍政権は、日本と言う国家の形をすでに大きく変えてしまった。
こうすることを可能にさせた公明党の罪も消すことはできない。
連立を離脱するなら今がぎりぎりの最後の機会である。
1. 「イスラム国」を作ったのは米国である。
「アラブの春」策動を開始し、チュニジア、リビアと快進撃を続けた米国にとっての次のターゲットはシリアとイランであった。シリアも反米を貫き、パレスティナを支援して、米国に寄生するイスラエルに敵対してきた。反米・反イスラエルのアサド政権は転覆してしまう対象である。
そこで米国は「アラブの春」を仕掛けるが、アサド大統領は屈せず、「民主化」はできなかった。エジプトの民衆の「民主化」運動が発展して本当の民主化運動になってしまったことを反省した米国は、シリアでの「民主化運動」に見切りをつけ、内戦を開始する方式を選んだ。
「自由シリア軍」なるものを作り出して送り込み、ここにシリアの反体制の人間を吸収して自己再生産構造を作りだすことに成功した。
この成功が「イスラム国」を作り出したのである。シリアの反体制派とイラクの反体制派が援助しあう構造が出来、米国の意図からは自立して自己回転しはじめたのである。
自己再生構造を作り出したからこそ、米国の手の内から離れた運動になっていくのは当然の理であった。これは、ビンラディンとアルカイダの出自と全く同じである。
かくして、自由シリア軍は「イスラム国」に発展した。
イラクにおける米国傀儡政権もまた、「イスラム国」の生成に寄与している。
傀儡政権の共通の本質として未来を構想していない腐敗政権になる。このことを理解していない米国はイラクから撤退してしまったので、傀儡政権はシーア派で占められ利権をむさぼる腐敗政権となり、「イスラム国」生成に寄与した。
セイン政権を支えていた軍人をはじめとする「公務員」は生活の糧も得られず職から排除され、行き場を失った。イラク侵略戦争では殆ど無抵抗であったために、シーア派でもあった旧政権の軍人は死ぬこともなくほとんどが生き残った。この軍人層を体制内に取り込むことが新政権の第1級の課題であったのだが、取り込むどころか排除してしまった。
これらの旧軍人は、容易に「イスラム国」軍人になった。そうすることによって油田も確保し、生計を立てることもできるようになったのだから、雪崩を打って「領地」が拡大したであろうことは想像に難くない。
かくして、米国は二重に「イスラム国」を作り出したのである。
2. フランスの銃撃戦もベルギーの銃撃戦も「内戦」である―「犯人」は旧植民地出身の自国民である―
フランスにおける銃撃戦の反乱者は、フランスの旧植民地の出身者でフランス国民だった。
ベルギーにおける銃撃戦で射殺された狙撃者と思われる人物もまた、ベルギーの旧植民地の出身者で、ベルギー国民だった。
両者ともに帝国主義本国内で未だ差別され下層から抜け出すことが出来ずに不満を募らせていた「自国民」である。
翻って日本を見ると、旧植民地である朝鮮出身者および強制連行されて在住している「在日」の人々は、帰化しない限り、国籍すら取得できず、選挙権もない。
これに比べて西欧では、形式的には国籍を与えられて「自国民」に取り込まれているはずの旧植民地出身者が、実は西欧特有の階級社会構造の中で決して浮揚できずに、帝国主義本国内での「奴隷」として隷属的に働かされているという現実がある。いわば、「召使い」を本国に持ち帰ったにすぎないと解釈する方がはっきり分かる現実である。
こうした旧宗主国の現実に対する闘争が、「イスラム国」の煽動に触発されて形を取ったのが、今回の両国での事態である。したがって、「イスラム国」の煽動に乗らない形での様々の闘争が続出することは不可避であり、事実、フランスでは折に触れ激しい暴動が発生している。
フランス社会党は、こうした帝国主義の事情を分析する力すら喪失した「白人層」に過ぎず、もはや社会党を名乗る資格などないのである。オランドはたらふく食っている白人にすぎない。
こうした事態を無くしたいと真摯に考えるならば、事は「テロリストに対する戦い」ではなく、「植民地支配の負の遺産の清算」でなければならない。旧植民地出身者の完全なる法の下の平等を保障した上で、実質上の平等の獲得までを保障する取り組みが必要なのである。
植民地支配を本当に反省する能力と、反省の実行とが求められているのだ。
3.中東は欧米の植民地支配の歴史の清算を求めている。
中東はセルジュク・トルコ以来、オスマン・トルコに至ってほぼ単一の国家の下に統合されていた。
ここに主にイギリスが戦争を仕掛け、オスマン・トルコ帝国を破壊して西欧列強の植民地に分割してしまった。これが、現在の人工的国境線の元凶を形成しているのは周知の通りである。
第2次世界大戦後の「独立」は、西欧帝国主義国の各国の都合によって、「与えられ」たがために、イスラエルという侵略国家を生み出し、アラブ諸国に分裂され対立させられて、なお分断支配され続ける現実が存続することになっている。
いわば、「不完全な独立」だったのである。
石油は未だメジャーの支配権が及んでおり、アラビア半島だけを見ても、戦後直後はサウジアラビアだけだった国家が、今日、幾多の国家に分裂が進行させられている。
ムスリム同胞団出身の大統領が普通選挙で選出されたエジプトでは、再クーデターが米国により組織され、独裁者ムバラクが復帰した。片や「反独裁」の闘いと言いながら、ここでは独裁者を支援する。要するに基準は米国や西欧帝国主義国家の利害にあるのである。
日本では、「帝国主義の時代は終わった。」と、まことしやかに語られているが、世界の現実は帝国主義の時代の最後のあがきの時代であることを示している。
「イスラム国」による植民地主義の清算が可能かと言えば、彼らにその能力はなさそうに見える。だが、歴史は必ず植民地支配の歴史の清算を実行する組織・国家を生み出さずには終わらない。
それまでは欧米は、彼らの言う「テロの恐怖」に晒され続ける以外にない。
中東の戦いの対象になるのを避けたいのならば、自らが中東への支配を清算する以外にはない。
4.帝国主義の側に舵を切った安倍政権
―欧米の植民地支配の負の遺産にわざわざ手を突っ込む安倍氏―
中東を植民地支配した欧米に対し、中東「諸国」の民が、何も責めずにおおらかに許しているはずがない。だが、わが安倍氏にはそう見えるようで、欧米が植民地支配したのに責められず、日本だけが韓国や中国に責められるのは理不尽で不公平だと、韓国・中国に不満を募らせている。
この程度の歴史認識しか持てない不勉強な安倍氏のことだから、欧米が恨まれているとは夢にも思っていない。だから、欧米への戦争であったアラブ諸国の闘争や戦争を、テロと捉えることしかできず、いずれ日本もターゲットにされると勝手に恐怖し、「テロと戦う」「国際社会」の一員になろうと決意してしまった。安倍氏はさらに、日本には責任のない植民地支配に共同責任をとろうと手を突っ込み、日本の植民地支配や侵略に対してはこれを認めず無かったことにするとする無責任発言を繰り返し、韓国や中国をわざわざ敵に回している。
自分の取るべき責任は取らず、責任のないことには手を突っ込み「日本もターゲットに」してもらうようにした。
安倍氏は国益を著しく損ねている首相である。右翼民族主義者から見れば天誅を加えるべき対象であろう。
戦後一貫して安全であった日本国内は、安倍氏によって「一夜にして」テロの恐怖におびえる国になってしまった。
卓球選手団は大会への参加を取りやめざるをえなくなり、フェンシングも含め3つのスポーツが国際大会に参加することも出来なくなった。たった一カ月の間に3件も、である。
イスラム圏の観光客を誘致すべくハラル料理を用意したりしてきた努力は無に帰した。イスラム圏の観光客を誘致すれば、これに紛れてテロリストが潜入してくることは容易だからだ。
既に空港の出入国管理は厳しさを増し、警察犬の大量導入をはじめ出入国管理へのコストは飛躍的に増大している。
これらのことは全て、安倍氏が欧米の植民地支配からくる敵意と戦いにわざわざ手を突っ込み、ならなくてもよい当事者になってしまったことに由来する。
中東では日本は恨まれていなかった。それは、不勉強なわが安倍氏から見ると、植民地支配をしていたくせに恨まれずに済んでいる欧米のようなのだ。欧米は韓国や中国から恨まれていない。それは中東における日本と同じことなのだが、安倍政権は韓国・台湾への植民地支配を認めず、中国への侵略戦争を認めず、これら諸国への責任を取ろうとせずに無用な敵意を煽り、「国益を損なった」上に、植民地支配も侵略戦争もしていない中東で、侵略責任のある欧米にわざわざまじって、反抑圧の戦いに敵対する立場にわざわざ立ったのである。
まことに、愚昧である。
5.軍隊で人質を救出することなどできず、強行すれば軍人の死をもたらすだけなのに、「自衛隊が救出作戦を行えるようになる」ことを追求する安倍氏
一体、どんな目的が隠されているのかと訝しくなるが、隠された目的がないのが大問題なのである。安倍氏の無知ゆえの願望でしかない。そのことが最も恐ろしいことなのである。
「国連決議に拘束されず」、「恒久法として」、「自衛隊が邦人救出や他国の軍隊への補給等を行える」ことを目指している安倍氏。この人物の願望が、首相の権力ゆえに実現するとなると、『邦人の救出は行えず、米国はじめ他国の戦争に自衛隊が動員され、日本国内で9・11や仏やベルギーやロンドンなどでの銃撃戦のようなテロが当たり前のように起きる』国家が現出する。
自衛隊の戦死者は急増し、自衛隊入隊希望者が激減し、退職者も少なくなく出てくることになる。この結果、早晩、徴兵制を敷くしかなくなるが、「恒久法案追求者」たちは、そこまで考えているわけではない。また、CIA日本版を作るべきと囁いている自民党議員も、日本版CIAがどれほどの国費を浪費するかなど知りもしない。
無知で無責任な者どもが、後藤さんを見殺しにして何もしなかったことを肯定する為のみの論理展開から好き放題に語っているというのが、今の自民党議員の政治的水準である。安倍氏がこの一員であることは言うまでもない。
前稿で既にふれたように、人質救出作戦などは、そもそも滅多に行われるものではない。それは、救出など出来るはずがなく、作戦を強行すれば人質の人数以上の軍人の人命が損失することを知っているからである。
まれに人質救出作戦が行われることがあるが、それは世論をミスリードするためであり、非難の矛先をそらすために、である。いわば、そうした政治屋の保身のために軍人と人質が命を落とさせられるのである。軍人が「はい。分かりました。」となるほど愚かでないことは言うを待たない。
まれに行われた人質救出作戦の中で、救出に成功したのは、筆者の知る限りはエンテベ作戦以外にはない。この、成功した作戦ですら、双方の軍人の死者が生まれた。「割にあわない」のが、人質救出作戦である。(ハイジャック事件やペルーでの占拠闘争など、蜂起した側が始めから包囲されている事例は、「イスラム国」のような領土をもっている人質事件とは全く別である)
6.矛盾だらけの、米国を頼って中国と対抗する戦略。
―米国は、日本が東アジアのイスラエルになることを嫌がっている―
尖閣諸島(釣魚台)は、日本のものでもなかったし、中国のものでもなかった。
江戸時代においては、航路標識の役目を担っていた岩礁に過ぎず、この岩礁の存在をしっていたからといって領有権を主張するのは、互いに無理がある。
だから、現在の情勢を踏まえるならば、日・中・台3カ国の共同管理が妥当である。
問題は、日本が台湾を植民地にしていた時に、領有を主張するところはないかと国際社会に問い、他に領有を主張する国がなかったから日本の領有にしたという、自民党や野田氏民主党の主張する領有の根拠の不当性にある。植民地にされていた台湾はもとより、台湾の事実上の割譲を余儀なくされた清王朝が領有を主張できる環境になく、そうさせたのは他ならぬ大日本帝国だったのだから、今日の国際法から見ると、妥当性のない論拠となる。
しかし、現実の中国は、共産党官僚が支配階級となっている変な国家であり、大国主義・覇権主義の侵略的国家である。ここに屈服する気になれないという日本の民衆の健全な気分を利用して日本の領有に利用するというのは、全く別の問題である。
また、国際社会の現実として、数カ国による領土の共同管理(共同領有)をしている実践がないということも考慮する必要がある。
こうした事情を考慮して、敢えてペンディングにしたのが、毛・周の時代の方針だった。この基礎の上に日中国交回復をしたのが田中政権時代の日本であり、尖閣列島(釣魚台)の現状を変えてはならないのが国際法上の常識である。
松下政経塾の偏った歴史観を叩き込まれたであろう野田氏が、当時の石原都知事の挑発に乗って、「国有化」という現状変更をしてしまったことが、反日運動の高まりに利用される根拠を作ってしまった。非があるのは、残念ながら日本の側なのである。
こうした事情を考慮する力もない安倍政権は、現状の変更に抗議するために敢えて釣魚台周辺の海域に毎日のように航行し、周辺海域の日本領海化を阻止しようとしている中国を、「領海侵犯を繰り返す」挑発国家として描いて、反中国感情を煽っている。
米国にすれば、米国に日本の領有へのお墨付きを求める安倍政権は、論外の政治素人集団で呆れている。中国や韓国と仲良くすることを追求するように諭したり、領有問題に米国は関与しないと声明したりし続けている。
だが、すでに日本の軍事費を大きく越えた中国の軍隊に、日本単独では勝てないことだけは分かる安倍氏は、執拗に米国との「同盟強化」に活路を見出そうと、集団的自衛権も発動できるようにし、普通の「頼りになる軍事同盟」になれるように日本の国家の形を改変すれば、米国が日本を守ってくれると思い込んでいる。
先に述べたように、日本がいくら米国に媚びても、それと尖閣諸島の日本の領有権を認めるかどうかということは全く関係がない。国際法上の常識では、尖閣の日本の領有を第3国が認めるなどという行為は、どんな国であれ、あり得ないことなのである。
日本が米国の提唱するイラク戦争や「イスラム国」撲滅戦を戦う「有志連合」に参加して空爆を行っても、米国が尖閣を守るために日本軍と共同で戦ってくれるなどということはあり得ないのである。
イスラエルですら、侵略戦争を行う際の米国の陰の承認を求めても、戦争自体は自前で戦って周辺諸国に勝利しているのである。米国が直接、対エジプト戦を戦ったり、対シリア戦を戦ったりしたことは一度たりともないのである。
安倍氏は、米国が共同で中国と戦ってくれると夢想しているが、とんでもない軍事オタクである。あり得ないことは常識どころか、自明の前提なのである。
その上、米国にとって中国は第1の貿易相手国になっている経済的利権の深い国家であり、その利害は、日本において米国が持っている経済的利権・利害を上回るのである。
安倍氏の夢想は、とんでもない夢想なのである。
よしんば安倍氏の夢想が、少しまともになって、自力で中国と戦争するから米国は陰で日本を支援してくれというイスラエルのレベルになったとして、米国は日本が東アジアのイスラエルになることを望まない。既に、イスラエルで辟易としているのである。
日本の利害のために米兵を死なせることなど、思いもよらないことだ。