IMFに破産宣告されたアベノミクス
渋谷 一三
393号(2014年11月)所収
2014年10月7日、IMFは「アベノミクスの第3の矢をずっと待っていたが、いくら待ってもそれがないとして、日本のGDP成長率予想を1.6%から0.9%に下方修正した。
ニューヨーク株式市場は即日277ドルさげ、翌日に271ドル戻したものの、翌々日には年初来の最大下げ幅となる335ドル下げた。当該の日本市場はさらに強烈に下げ、4日連続3桁の下げを記録して、600円以上下げた。4%弱の下落率!である。
こんなもので安倍の言うように「年金の運用」をしていたら、とんでもない目減りをしていたところである。日米安保を普通の軍事同盟にし、「切れ目のない軍事同盟」として、例えばイスラム国への空爆もオバマのいうごとく「自衛のための戦争」として、後方支援も空爆参加も出来る体制を閣議決定で作ってしまったなら、経済などどうでもいい「用済みのアベノミクス」なのだろうが、おそまつすぎる。
他方、軍事面では、閣議決定だけでとんでもない大変革を成し遂げようとしている。
安倍は、石破のNATOを理想とする集団安保構想を排し、日米軍事同盟中軸とすることによって限りなく米国に引きずられる2国間同盟を推進する。この路線闘争は非和解的なものではないはずのものなのだが、安倍は、石破を政敵として罠にはめ、幹事長から引きずり降ろす激烈な権力闘争を仕掛け、これに勝利してまで、反中国米国依存軍事同盟(米国の威を借りて、中国から尖閣を守ってもらう)の構築に傾注した。
これが、アベノミクスの本質だった。
第3の矢はあり得ないことを本誌は再三指摘してきたが、IMFが公式にかつ国際的にこのことを承認したのが、今回の事態である。
したがって、株価は右肩下がりを基調として進むことになる。
すでに、円安で物価は上昇し、賃金は上がるはずもないのだから、ハイパー・インフレになる可能性が高まっている。
生鮮食品の上昇は円安による原油高・飼料高・肥料高によるのだが、これを「天候不順」のせいにしてしのいできたが、こうした「せこい」弥縫策は通用しなくなった。
誰が何と言おうと、現実に景気はちっとも良くない。円安によって原材料や電気・燃料・飼料などのコストが増大し、あらゆる産業が値上げをしなければ立ち行かなくなるコストプッシュインフレが現実になっている。
安倍の腰巾着の新浪や原田らは、それぞれローソンやマクドナルドの労賃を上げてみせて、安倍をバックアップしたら、さっさとサントリーやベネッセの社長に鞍替えして賃上げによる経営の圧迫が生ずる前に遁走してしまっている。「第3の矢」のショーを演じただけの無責任男たちである。
こうした政治ショーによって国民を騙す戦術は、国民の民度が下がっていることから、なお奏功している。人を幻惑させることは出来ても、現実の進行を幻惑することは出来ない。経済は危険な状況に入り始めた。
経済の危険な兆候は現実の中小業者は肌身で感じており、こうした現実との接点のある経済学者や政治家は「打倒安倍政権」を決意したようだ。アベノミクスなる言葉を流通させ持ち上げてきたマスコミも、手のひらを返して安倍政権「批判」に方針転換した。
政権の締め付けに屈服してきたマスコミだが、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とばかりに、互いの顔色を見ながら、おそるおそる安倍政権「批判」を紹介し始めた。
報道されなかった現実を小出しに報道し始めた。
一旦こうなると、政権打倒の流れは止めようがなくなるが、喜んでいるのは、満面の笑みでインタビューに答える石破だけだが、彼が政権を取っても、始まってしまったハイパー・インフレを止めることなどできず、侵略戦争時代の陳腐な誤ったイデオロギーの復権をするだけである。あるのは、危機を打開していく豊堯な創意や新しい体系に道を開放することとは正反対の抑圧体系の復活と経済的不合理な行きあたりばったりの政策だけである。
野党は、それぞれ論評しなければならないが、結論は一緒で、安倍が始めてしまったハイパー・インフレを、そうと認識し正常軌道に修正していく方針を出せている党はない。
維新の党などのファシズム政党が伸長していく情況が、ますます醸成されている。
<補>
10月31日午後1時40分頃、日経平均が一斉に600円近く上昇した。
1時30分に年金の運用を5割まで株式の運用にするとの決定が発表されたから、この効果と解釈できたが、夕方のTVニュースでは日銀が追加30兆円の金融緩和のせいで株価が急上昇したと各局とも報じた。
ヤフーは年金説の報道。証券会社は外資が大量買いに入ったからとの報道。
どれが、本当なのか、現在のところ断定ができない。
いずれにせよ、株価の急騰は、政権の危機に瀕した安倍政権が、支持率の上昇を図って経済という現実に手を突っ込んで引っ掻き回してグチャグチャにした結果である。
政権維持のためには、経済をぐちゃぐちゃにして憚らないのである。株価が上がれば支持率が回復すると踏んでいるのである。
かく、安倍が追い込まれたとはにわかに信じ難いが、TVマスコミはこの日解散の有無を論じていた。小渕が公職選挙法違反で連座有罪になる可能性が高まったからである。
小渕をここまで追い込んだのは、選挙区内の住民で小渕優子氏の顔写真入りワインを贈られたと、未開封のワインを報道陣に公開した有権者の告発による。この「支持者」は中曽根派を支持していると報じられている。ここが「造反」したのである。ワインは開けられていないことから、いざという時の爆弾として計画的に保存していたと推察される。
それが何故今この時に「爆弾投下」となったのか。
答えは簡単である。幹事長職を剥ぎ、政敵の座から引きずり降ろされた石破派を中曽根派が支持したからであろう。石破氏の反撃が始まったのだ。石破氏にはそうする「権利」がある。選挙に連戦連勝したのに、(だからこそ)幹事長職を奪われ、閑職に追いやられた屈辱があるからであり、安倍が先に「盟友」であるはずの同党員を競争相手の座からなりふり構わず引きずり降ろしたのだから。
安倍の顔色を窺いながら、完全に安倍に支配されアベノミクスという言葉を流布させアベノ賛歌を唄っていたマスコミが、石破派の戦闘開始宣言を見ておそるおそる安倍葬送曲を奏で始めた。各社とも恨みもあって、一斉に安倍葬送曲を奏で始め、それによって心強くなり、「赤信号、みんなで渡れば怖くない。」になったのである。
情勢は自民党内の権力闘争ゆえに、衆議院解散の可能性もにわかに高まってしまったのである。
安倍は子飼いの黒田に人を驚かせる規模での追加量的緩和をするように指示した。また、同時に、年金機構に株買いを義務付ける決定を下させた。二重のセイフティ・ネットをかける周到さで身を守ろうとしたのである。
安倍の保身につぐ保身の道具に貶められた経済は今回の措置によっていよいよ危険なまでの賃上げの伴わないインフレという人為的現象を呈する界隈に入ってしまった。
後戻りのきかないハイパー・インフレに入ってしまったかもしれない。
30兆円の量的緩和は円carry trade をにわかに復活させた。1時40分には外資の日本株買い漁りがほぼ全銘柄で1分以内に済んだのである。この買い漁りによって上昇した日本株を売り、円高にした時点でドルに換算し、再び円安にしたら買い漁るというサイクルが始まったのである。思えばこの間の株価の下落は、景気回復に裏打ちされた米国株への投資のために日本株を利益確定売りし続けた外資の動きの結果だった。
そこに追加の量的緩和があれば、円を借りて日本株を買い、買いによって上がった日本株を売り抜くというおいしい餌を食べずにいる手はない。国富の流失と言えるのだが、安倍政権存続のためには、そんなことはどうでもよいのである。戦争のできる国体を作り出すことが安倍の至上命題なのだから。
この危険な安倍政権は早期に打倒しなければならない。
一つは経済の破壊、国富の流出(国内投資家の犠牲による外資の利益享受)。もう一つは侵略戦争に反対する反戦平和の破壊。
前者は自民党の反安倍派と共闘可能な課題であり、後者は未来の党・社民党・共産党・生活の党・民主党などが共闘可能な課題である。
両方を足せば、自民党多数派・未来の党・社民党・共産党・生活の党・民主党のブリッジ共闘が出来るはずである。
安倍政権を早期に打倒しよう!