共産主義者同盟(火花)

日本も「自由シリア軍」に援助していた!

渋谷 一三
391号(2014年8月)所収


1. 米国の「アラブの春」作戦に積極的に加担し出した安倍政権

 「アラブの春」策動は、米国がアラブ・イスラム世界の政治権力の再編を図るものであることは、再三指摘してきた通りである。
 今回、「自由シリア軍」と行動を共にした千葉県在住の人物は、元茨城県議の指示の下に「民間軍事会社」を設立し、自由シリア軍への軍事物資の供給を図ろうとしていたことが明るみに出てしまった。
 その後、安倍政権は必死に報道管制を敷き、一切を報道させなくしたが、『時すでに遅し』である。
 この人物はかなり能力のない人物で、政府が直接に指示した人物でないことは推定に難くない。まず、英語すら話せずに現地入りする程度の人物で、軍事をなめているというより全くわかっていない程度の相当に程度の低い人物である。
 ジャーナリストであれば最低限英語が話せることと、それに加え有る程度アラビア語の会話ができることが必要最低限の言語能力である。ジャーナリストではなく、軍事を扱うならばそれ以上の言語能力が必要で、通常、堪能な通訳を雇うことで、高い言語能力を担保するものである。ましてや、自ら現地に足を踏み入れるような稚拙なことなどはしないことから、元県議が発信元の幼稚な「行動派右翼」に分類される人物であろう。また、ネット上に写真入りで「民間軍事会社」社長としてホームページを立ち上げている。こんなことをすれば、ISISならずとも、インターネットで身元を確定することが出来、今回のケースで言えば「敵の軍事補給路を担う」人物である。処刑されて当然であることを自ら明かしているのである。
 さらに、護身用と称してAKカラシニコフ銃を持ち歩いている。短銃ですら、持っているのがバレれば銃殺されて当然なのに、隠し持つことの不可能な戦闘用銃を持ち歩く程度の判断力の全くない人物である。相当な軍事無知である。
 既に処刑されているとみるのが妥当であろう。
 熾烈に命のやり取りをしている軍事の現場に入ることの意味を全くわかっていない。シリア国家の転覆の為に創設された自由シリア軍に加担するということは、アサド政権の政府軍と反米のイスラム国軍の双方を敵に回しているのであり、遭遇しただけで殺し合いが始まる性質のものである。どちらが先に殺すかが第一義的に重要な局面なのである。そんなところに、目的もはっきりないまま、どんな実績になると考えたのか知らないが「実績を作る」と称してノコノコ出かけていき、贔屓の自由シリア軍に護衛の負担まで強いて、見物ツアーにでも行った気分でいたのだろう。おそらく、この程度の質の悪さに呆れて自由シリア軍も護衛をしなかったのだろう。それで囚われたのであろう。
 この種の人物に一切身代金を払う必要はない。
 身代金を払うことがあり得るとすれば、公正中立の立場から報道しようとするジャーナリストが囚われた場合だけである。
 だが、公正中立ということではどちらの側の護衛も受けられないことから、戦場では実際には公正中立ということはありえず、ジャーナリストは自らが命がけで正義の側と判断した側から報道する以外の選択肢はない。

 この程度の人物で、安倍政権が直接に関わったとは思えないにしろ、自由シリア軍はすでに拙稿で指摘してきたように、米国が直接・間接に軍事支援して作っている軍事組織である。
 元茨城県議を通じてであれ、これに日本からの支援ルートを作ろうとしていたことが紛れもない事実であることが白日の下に晒されてしまった。国家秘密法が対象とするような極秘事項が無能な人物の必要のない行動によって露見してしまったのである。
 このことの政治的影響は決して小さくはない。
 加担して来なかった歴史から、比較的日本に対して好意を持っていてくれたアラブ諸国の信頼を失い始めたのである。このことは戦後70年近くをかけて日本がようやく手にすることができた信頼という外交手段を失ったことを意味する。日本外交が取り得ることが狭くなったのである。この責任は安倍政権にある。元茨城県議が石破派であったとしても、である。
 マスコミは元茨城県議の素姓を報道せよ。報道管制と戦わずして言論の自由を貫くことは出来ず、新聞の発行部数は激減し続けるしかない。

2. 影をひそめた『自己責任論』

 イラクで米国の垂れ流し情報をそのまま転送するNHKを筆頭とするマスコミの姿に疑問を覚え、自主的に自由な事実報道をする為に命がけでイラクに入国した日本人に対して、政府の渡航自粛勧告を無視した以上全ては自己責任だとして声高のバッシングの嵐が吹き荒されたのは、まだ記憶に新しい。
 政府の公認した人間でなく、「自由」である以上、政府にとっては「反政府」と同義であったために、時の自民党政府は激しくバッシングした。
 あのファシズムの高揚の『自己責任論』は、今回、全く影をひそめている。
 自民党の露骨な、論理的整合性を一顧だにしない態度には呆れ果てる。
 安倍政権のご都合主義を決して許してはならない。




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