共産主義者同盟(火花)

米国のシリアへの軍事介入弾劾

渋谷 一三
382号(2013年10月)所収


1. 米国の思想的限界―米民主党の世界戦略の自己撞着

 オバマは、民主党の厭戦派の気分に依拠して大統領選に当選する戦略を採用し、イラク・アフガンからの撤兵を公約にして大統領に当選した。曲りなりにイラクからの撤兵を実現したことによって皮肉にもイラク内部の対立は緩和してきている。米軍の存在が米軍傀儡派と反米派との対立を成立させていた根拠となっていたのである。
 根拠を失った対立は急速に衰え、イラクをどう「建国」するのかを巡る新しいイデオロギーを生み出すことが必要とされている。イラク人民が直面しているのは、主にここにある。
 しかし、旧来より引き継いだ宗教構造に大きな変化はない。少数派のスンニ派と多数派のシーア派という構造がそれである。フセイン体制は少数派のスンニ派が統治権を握るという形で「安定」を確保してきた。これは、シリアにおいても同じである。少数派のアラウィ派が多数派のスンニ派を抑えて統治権を保持することによって「安定」を確保してきた。
 イラクとシリア。奇しくも宗教上の少数派が統治することによって「安定」を保ってきたのである。考えてみれば宗教上の多数派が政治的にも独裁することになれば、激しい抑圧が横行するだろうことは容易に想像できる。これは、激しい抵抗を呼び、内戦あるいはゲリラ戦の恒常化をもたらしたであろう。ちょうど、米軍がシーア派を支配機構に採用したことによって「内戦」が激化したように。
 宗教上の少数派が政治権力を採ることは、考えようによっては合理的である。多数派を相手に無茶な統治は出来にくい。少なくとも多数派が政治権力をとるよりははるかにましであろう。イラク、シリアという隣接したアラブ国家が奇しくも同じ政治形態をとっていたのには、こうした歴史的限界を含めた合理性に根差した現実に根拠を持っていたと考えるのが妥当であろう。
 だが、米国思想によれば、「独裁は悪」であり「多数決は神の原理」なのである。ここから見ればイラクもシリアもリビアも悪である。イラクとリビアは打倒したが、シリアはまだだということになってしまう。この時、浅薄な米国人の目には、エジプトは軍事独裁政権であり、軍によって拘束された大統領は民主的選挙で選ばれた多数派であるという事実は、映らないことになっている。
 多数決の神聖化という米国思想は、このように自己矛盾に満ちている。そればかりか、
 中東のイスラム国家のそれなりの現実的合理性を理解する妨げとなって、アラブ世界に流血の惨事を不断に持ちこむ犯罪的役割を果たしている。ここにおいては犯罪的思想となっているのである。
 もちろん「多数決の神聖化」という米国思想は、「支配階級の思想が支配的思想となる」とか「階級独裁」というマルクス主義の概念などは全く吸収することができない狭い思想なのである。日本の人民は自民党の独裁に従い続け我慢させられ続けてきているのだが、こうした階級独裁は米国思想では独裁と認識することができないのである。

2. 米国のシリア爆撃は無辜の民を殺戮する戦争犯罪である。

 米国は化学兵器の蔓延を阻止するためという口実の下、シリアにトマホークを
 150発撃ちこむという。トマホークの誤差は80mあるそうだ。誤差がないとしても政府機関の建物に爆撃をしたところで、無人の建物を破壊し、政府の住民サービス機能を破壊するにすぎない。オバマ言うところの「懲罰」になりようがないのである。要するに、シリア政府転覆のための軍事活動を公然と行いたいというのが本質である。
 だから、『ズルズルと泥沼化する』という常套句の批判は当たらない。意に反して泥沼に引きずりこまれるのではなく、意図して公然と介入する回路を開いていこうとしているのである。だから、『出口戦略がない』という批判も当たらない。リビアのように短期決戦で勝利できると思っているから軍事攻撃を始めるのである。
 客観的には事態をより悪くし、反米勢力を新たに生み出していくのだが、これは米国の思想の必然的帰結であって、出口戦略がないことに起因するものではない。
 オバマはノーベル賞を詐取した戦争犯罪人になる決意をしたようだ。
 だが、米国議会は否決するだろう。

3. 米国はアラブ世界に「アラブの春」戦略で介入し、事態をより悪くし、反米勢力を増大させた。

 米国はエジプトで2度誤算した。
 一度目は、一青年の登場によって、ムバラクの更迭で終わるはずの「反独裁」キャンペーンが論理の独走を始め、米国にとっては計画になかった『行き過ぎた民主化』まで行ってしまったことである。
 二度目は、この『行き過ぎた民主化』によって、反イスラエルのイスラム原理主義派が多数決の原理によって選ばれてしまったことである。
 この2度の誤算を元の計画に戻すべく、軍のクーデターを発動させた。その結果、金科玉条の『多数決原理』に反する行動をとるしかなかった。米国はあくまで陰に回ることでこの自己矛盾を隠蔽するしかなかった。
 このように、事態をより悪化させることは、介入したその時点から内包された自己矛盾の運動の必然的結果である。
 シリアも然り。
 反政府派にアルカイダ系軍事組織が含まれだしたそうだ。米国が育成し援助した反政府ゲリラの存在がアルカイダに道を開いた。さぞかし、想定外の事態であったことであろう。そして、シリア政府軍支援のため隣国レバノンから反イスラエルのヒズボラが参戦した。これもまた、想定外の事態であったことだろう。
 サダム・フセインの死、カダフィ大佐の死から学んだアサド大統領は、決して米国に屈しないだろう。これもまた、米国の誤算である。

4. 米国内にイスラエルを建国することを勧める。

 米国がアラブ人民の血で塗られた「アラブの春」を追求している根源は、石油利権だけではなく、米国政界に多額の政治献金をすることによって大きな影響力を持っているユダヤ人の意向がある。イスラエルを米国が断固として支持することである。全ては、イスラエルの利益になるように図られている。
 ニュージャージー州にはユダヤ人だけが住む村があると聞く。そもそも米国の国土自体たかだか600年前先住民から奪い取った土地である。ピューリタン始めモルモン教徒、ジュー(ユダの民)他、様々の西欧世界の住民が米大陸に渡り、先住民から土地などを略奪してきたのである。モルモン教徒がユタ国(州)を樹立してしまったように、ユダヤ人には新ジャージー国(州)樹立を認めれば、紀元前にエジプトを出て世界に分散していく過程で長時間かけて通過した地域を「祖先の地」と強弁した上で「建国」し、アラブ世界に不断の流血を強いる必要はなかった。
 シオニストに資金援助する時に「約束された地」は「新」大陸にあり米国にあると、シオニズムを始めたベングリオンに言えば良かったのである。そうしなかったのは第2次世界大戦処理の実権を唯一もっていた米国が戦勝意識から米国の「犠牲」を払ってユダヤ人問題を解決するなどとんでもないと判断したことによる。より正確にいえば、こう判断したというよりは、誰もそんなことを発想すらしなかったということだろう。
 オスマントルコとの戦争に勝った英国がオスマントルコを解体に持ち込み、中東に人為的国境を持ちこみ、イラクやクエートを始め様々な直線で仕切られた国境を持つ「国家」を作った。この過程で米国のユダヤ財閥ロスチャイルドがトルコから鉄道敷設権を獲得し、後に石油利権を得て巨大な富を得、その富を使って貧しいユダヤ人をパレスチナに送り込み「入植地」で生活できるようになるまで資金援助を続けたのである。
 いわばロスチャイルドによるパレスチナ版屯田兵によって「イスラエルを建国」したのである
 かくして「約束の地」=イスラエルはパレスチナの地になったのである。
 自由の地=アメリカ。誰からも略奪したわけではない地=「新」大陸。こう強弁してきた米国思想からするイスラエルの地は、論理的必然性として、米国内でなければならなかったはずである。
 こう発想すら出来なかった米国思想は、ここでも破綻している。

 米国のアラブ世界への介入を止め、シリアへの介入を断念させよう!




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