安倍政権に追従するマスコミ
渋谷 一三
374号(2012年12月)所収
<はじめに>
選挙が終わった18日、突然マスコミに「アベノミクス」なる言葉が乱舞し始めた。18日には朝日系列で、19日には毎日系列で。
主旨は、安倍自民党総裁のインフレ・ターゲット政策推進表明によって、株価は上がり景気の回復がなされつつあるというものである。前回の安倍政権のときには「お友達内閣」と、批判にならぬ揶揄ですますという無礼な態度を取ったことと比べると、昔日の感がある。この豹変の原因は何なのか。マスコミ支配は米国とは反対に、日本では自民党にあることが見て取れる。
本稿は「死滅の危機に瀕する日本のジャーナリズム」の現状分析を試みるものである。
1. 12月19日、日経平均1万円台回復
安倍政権の発足、日銀総裁との会談によるインフレ・ターゲット2%への期待で株価が200円以上上昇した、というウソがマスコミの論調である。
18日のニューヨーク株式市場の終値は116ドル高、前々日の17日は100ドル高、
この流れを受けて東京の株価も上がっている。また、1ドルは84円、1ユーロは111円と円安が進行している。
18日、日本の貿易統計が発表され、11月は5カ月連続赤字で、大幅な赤字であることが明らかになった。貿易赤字であれば通貨は下がる。円が下がればドル所有者にとって同じ株価の株銘柄が安くなったことになる。当然、外国人投資家の買い越しになる。事実、12月に入ってからの外国人の大幅な買い越しが株価を吊り上げていることは日経新聞系列では常識である。ヨーロッパの投資家からみれば1割高になっても同じ負担、1万円台は11月の9000円前後と変わらないのである。
選挙公示中の安倍発言と同様、安倍発言によって起きたのではない現象を安倍総裁の功績にして宣伝・煽動しているのが、今日のマスコミの姿である。大衆はすっかり騙されている。この状態の下に大衆を放置しておいてよいのだろうか。
2. 新自由主義ならばデフレを放置することが論理的整合性を持つ。
デフレは原材料が安く入ることの必然的結果であり、名目賃金を下げても実質賃金が下がらないことを意味する。これは国際労働力市場での日本の労働者の競争力回復を意味する。政府は余計なことをする必要はなく、「小さな政府」をめざす新自由主義とは矛盾しない。
他方、インフレを人為的に起こそうとする未曾有の経済操作企図は、政府によるあらゆる手段での物価上昇策を必要とし、「大きな政府」を必要とする。
思想的にも経済の自然発生性への拝跪が新自由主義の真髄である。1%か2%かをも決めることができないこと自体が、インフレ・ターゲット政策の脆うさを示している。論理的必然性などないから、1%か2%かも決められないのである。2%は1%の2倍にもなる。こんなに大きな差異を曖昧にしているほど無責任な政策がインフレ目標政策である。
すでに輸入品の価格は上がり始めた。原油が高くなるため、ガソリン・軽油が値上がりし輸送コストが上がり、電力料金も上がり、あらゆる物価が上がる。賃金は上がらないため、デフレと反対に実質賃金が下がっていく。
自民党政権誕生で原発の存続の可能性が大きく高まったとして上昇を続けた電力株が、他は上昇基調の中で、1ドル106円の円安を受けて早くも下げに転じている。これは、44兆円以上の国債を発行しないとする財政の不文律を無視するとした麻生副首相兼財務相の発言を受けて円安が一層進行したことによる。
アナウンス効果だけで進めてきた円安がすでに物価に影響し、物価は「上昇」し始めている。だが、賃金を上げるはずもなく(上げれば国際競争力をさらに失う)、購買力の低下が景気の悪化をもたらし、輸入物価の上昇が全ての物価上昇をもたらす悪質なインフレが予想されるようになってきた。労働者・農民・中小業者の生活の困窮化によるインフレは、他方、輸出企業を中心とする大企業の繁栄をもたらす。しかし、大企業はすでに多国籍化しており、日本政府への依存が大きくあるわけではない。より大きく儲けることができるという以上ではなく、国民経済への波及効果は期待できない。
財務省のいいなりの菅・野田民主党政権(=現民主党)より悪質な自民党政権を国民は選んでしまった。しっぺ返しを受ければよいだけの話だが、この生活の困窮化がファシズムの温床になる兆しが見えてきている。