原発再開の野田政権の闇
渋谷 一三
370号(2012年7月)所収
<はじめに>
なしくずしという言葉はこういう事態を表わすためにある。
何の安全基準の変更の提示もなく、エネルギー危機だと煽って、大飯原発3号機4号機の運転再開を決定してしまった。
原発がなぜ止めなければならない発電方法なのかの論拠は出尽くしている。このどの一つにも答えられないまま、原発村共同体はよそ者を排除して運転再開を強行した。関電もなかなかしたたかである。この1年間火力発電所の再操業や新設などの努力を一切意図的に放棄したまま、電力不足を喧伝し、中小企業を丹念に回り電力料金を値上げするぞと恫喝し、かつ計画停電をすると恫喝して筆頭株主の大阪市長の原発再開容認発言を引き出すことに成功した。論理的誠実さやコスト計算能力や安全管理能力などは一切無いが、居直りと殿様商売体質によって、こうした恫喝や姑息な手段を駆使する能力だけは発達させてきている。
6月26日、わざわざ日時を合わせるという姑息な準備をした上で全国9電力会社の株主総会が行われた。東電の猪瀬副知事や関電の橋本市長の妥当な追及に、両者とも平然と居直り質問を理解できないふりを通した。これらが、まともに反論する能力を持っていないことをさらけ出した。
本稿では、まず反原発運動が蓄積してきた論点をおさらいする。次に、実は原発再開の本当の最大の理由であり、だからこそか評論家が触れていない軍事の問題に言及したい。
1. 原発のうそ
(1) 発電コストは高い。
- 使用済み核燃料の中間貯蔵施設・再処理施設・最終処分場の建設費用などは全て国税で賄われている。この費用は巨額すぎて建設のめどさえ立っていない。
- 原発立地地方公共団体への巨額の交付金も毎年国税から支給され、電力会社の発電コストには計算されていない。
- これに、今回の事故処理費用を算入すれば、発電コストは24円どころか1000円を超す。6月30日に発表された福島の除染総額は55兆円と試算されている(大和総研)。補償は値切られ、たかが10万円を何ヶ月間支払われるかの相違になっている。引越し費用など払われない。二重生活費用など「本人の勝手」扱い。汚染食品を避けるために西日本産の食料を手に入れようとするなど論外。西日本に住んでいる人々が手に入れる食料品が高くなったことなど「風評被害」扱い。などなど、まともに補償したら東電を潰して全資産を差し出させるという当たり前のことをしたところで払える金額ではない。すでに野田は補償費用に国税を投入し東電の解体すらしえないでいる。
- 発足する原子力規制庁は1000人規模で発足する。規制庁だけで1000人。この人件費だけで年間(!)100億は要る。この費用はもちろん発電コストにふくまれない。
- 事故確率の計算は、米国のありもしない夢想的計算に基づいて計算され、コスト計算されている。隕石の落ちる確率を援用して、2000万年に一度重大事故が起きるらしい。こんな後に原発が続いていると計算する強心臓もさることながら、それまでには最終処分場の地下が地震で破壊され地球の形が変わるほどの大プルトニウム爆発が起こるし、コンクリートなどというちゃちなものの耐用年数などとうに過ぎて1000年もしないうちに大プルトニウム爆発が必ず起きる。こんなことは確率計算にはふくまれない。確実に起きるにも拘らず。そして、それよりも前に青森県六ヶ所村にプレート型地震が襲い、人類が経験したことのない巨大プルトニウム爆発が起こる。早ければ数十年のうちに。おそくても数百年の内に。 こんなに高い発電方式はない。
(2) 温暖化防止にならない。
- 二酸化炭素の排出が少ないという。発電所内部ではそうだ。だが、ウラン精製過程で実は大量のエネルギーを消費し、このエネルギー源として原発を使うことは通常はなく、化石燃料に頼っている。
- 原発の冷却水を冷却するために海水を利用している。このため海水が直接温められ、敦賀湾などは亜熱帯の海の生態系になっていた。その程度は、たかだか1年あまり原発を停止しただけで亜熱帯由来の動植物が見られなくなったというほど激烈な熱量を提供していたことが判明した。要するに、直接に海を暖めている。環境にやさしいなどとは、嘘をつくにも程があるというひどい程度だ。
(3) エネルギーを生み出してはいない?
- 採掘に要するエネルギーから精製に要するエネルギー、さらに遠隔地発電・送電によるロスを50%とすると、何等エネルギーを生み出してはいず、投入したエネルギーと取り出したエネルギーはほぼ同量だという。では、なぜ危険を冒してまで原発をするのか。
野田は750万筆の原発廃止要求署名を無視し、その署名提出の翌日に大飯原発再稼動を決めた。さらに、公聴会は、市民の意見を聞く場ではなく電力会社の社員が応募して社の立場を声明し傍聴人に対して演説する場にしてしまい、毎週金曜日の首相官邸を取り巻くデモも無視している。消費税問題、TPP問題で明らかになったように民主党政権は労働者階級の利害を代表する政権ではない。この原発問題でも民主党政権は反人民的・反労働者的政権であることが明らかになった。
民主党政権への幻想がなくなり、人民が民主党を支持しなくなったことは、歴史の大きな一歩前進になった。
2. 東芝によるウェスチィングハウス社の買収が教えてくれていた。
米国は相次ぐ原発事故によって脱原発にふれた。
この結果ウェスチングハウスの経営が圧迫されたこともあり、東芝がこれを買収した。ただそれだけのことのように見えるがそうではない。日本は今まで使用済み核燃料を仏に送り再処理してもらって引き取り中間貯蔵施設にためていた。ウェスチングハウス社を買収したということは、この仏頼みの構造が無くなることを意味していた。日本という商売敵が輸出した原発施設の尻拭いを仏がしてあげる理由などない。商業的にうま味があるから仏は再処理を請け負っていたが、ウェスチングを買収した時点で日本は独自に核燃料の再処理・廃棄システムを確立する以外にはなくなった。
細野原発担当相は実はこの核燃料再処理・最終処分システムを作るためのプロジェクト・チームをブレインとして持っている。原子力ムラのずぶずぶの住民といってよい。自民党政権など目でないといわんばかりのムラの一員による政府支配であると言ってもよい。
マスコミはこのことに触れず、エネルギー危機や電力料金値上げを喧伝して原発推進を暗に図ってきた。
なぜ、言わないのか。答えは簡単である。実は軍事に直接関わる問題であり、建前は日本は核武装しないからだ。
だが、よく考えてみよう。米国が原発を実質上止めてしまったということは、核兵器になるプルトニウムの効率的入手手段を失うことを意味する。沖縄に核兵器を配備した密約を持ち出すまでも無く、ウェスチングハウス社を買収した東芝が(だから日本が)、プルトニウムを米国に安定的に供給する密約を結んだはずである。この密約なくしてウェスチングの買収などは有り得なかったであろう。海江田は米国にはそれと分かる隠語で「これまで営々と培った原子力の技術を無にしてしまってよいのか。」と語っている。日本ムラでは核は悪いイメージに原子力は鉄腕アトムの良い子のイメージに使われるように使い分けさせられているが、日本以外ではこんな区別などない。海江田発言の中の原子力を核と入れ替えてみよう。「これまで営々として培った核技術を無にしてしまっていいのか。」と言っているのです。英訳すれば、そう言っているのです。
民主党政権もまた原発即賛成である理由は、核武装という観点から喫緊の課題であるからです。日本は核武装している。これは日本が敵対しているロシア・北朝鮮・中国からみれば当たり前の現実です。「米国の核の傘の下」という言い方で他人事のように言っているが、日本が核武装しているのである。米軍の駐屯費用まで出してあげているのだから、日本が基地を提供している準属国なのではなく、日本が米国を使って核武装しているのである。だからこそ米国は居丈高に駐屯費用を出せと言うやら、オスプレイを配備するにあたって日本の了解など必要ないと言ってはばからないのである。日本が対米従属しているから米国が居丈高なのではなく、日本が米軍を傭兵のように利用しているから米国のプライドが許さないのである。それが、ウェスチング社の買収によって一段階上に進んだ。核兵器の調達の重要な一部分を担うパートナーの位置に日本が就いたのである。
野田のなりふり構わぬ原発再開の本当の背景は、軍事の問題にある。
3. 小沢新党の反原発はいかがわしい。
消費税に反対して小沢さんが新党を結成する。大変に良いことだ。この新党の旗印は2本で消費増税反対と反原発だ。判断力のある大衆の大部分の気分を代表している。
以前に読者から筆者は小沢さんを支持しているのかという趣旨の質問があった。随所で支持者ではないと分かるように書いているはずだから別稿を用意するまでもないとしてきましたが、良い機会なので少し詳しく述べさせていただきたい。
消費税を今上げれば公務員改革をはじめとするシロアリ退治をする必要がなくなる。それどころか、たかる砂糖の山が高くなるのだからますます無駄遣いが増し、国家財政の健全化など遠のくばかりである。一切の天下り機関を廃止することさえできれば国債の発行はゼロに出来るでしょう。それが、増税するためになくならない。東電が天下り子会社に高い契約料金で仕事を丸投げしてそれを料金に上乗せしている構造と全く同じ理屈である。東電を倒産させなかったために勝俣は株主総会の議長を務めた上に高い退職金を手にし、天下りまで出来る。この構造が大規模に行われているのが今の日本という国家である。
介護保険制度もまたこのミニチュア構造である。レッツの取り組みや介護ボランティア時間貯蓄銀行などの人民の取り組みを潰す意図を隠して介護保険制度が始まった。案の定、介護を人民自身の手で内部化し社会化しようとする取り組みの萌芽は見事に摘み取られてしまった。「潤沢」な介護保険の資金を使い切る範囲で介護施設が雨後の筍よろしく生えてきた。介護をあからさまに食い物にした会社は潰されたが、社会全体としては介護産業が成立した。何が起こったのか。老人の少ない年金の中から介護保険料なるものが引かれるようになっただけで、介護施設に通えるのは軽度の人だけ。独居老人で常に介護が必要な人は在宅サービスだけでは生きてはいけず、結局入所するしかない。入所しても長期滞在は許されないため、低賃金過重労働で疲れきった労働者に劣悪な介護をさせ早く「お送り」するという高度な殺人隠蔽構造が生まれただけのことである。介護が本当に必要なひとには介護が行かない壮大な社会的ロスが生まれただけのことである。
消費増税はこの壮大な社会的ロスをより多くの分野ですることを可能にする。すでにそのように見切り発車している。整備新幹線が着工される。「新幹線が通る」「便利になる」と無邪気にはしゃぐ人のよい大人はさすがに減った。一体その人の一生のうちで何回その整備新幹線に乗るというのだろう。在来線の特急に乗るのと一生涯で一体何十分の相違が出るというのだろう。その上、より高い特急料金まで払わされて。そう、こうしたことが分かって来ている大衆を騙すことはできない。喜んでいるのは一部の建設業者だけだ。
みんなの党や小沢新党が消費増税に反対しているのは、この点で全く利に適っており、正義である。
なのに小沢さんはなぜにバッシングされ続けてきたのか。第一は「だから」だ。税にすぐっているシロアリは、第1は膨大な天下り組織だが、エコ減税なるものをせしめている自動車業界や、法人税免除され国税から3000億円の資本を注入してもらってANAの8倍の利益を上げ「どこよりも安い」を謳い文句にした格安航空子会社を発足させて「民業を圧迫」しているJALに至る小口まで、なんとまあたくさんいるのです。
シロアリでない業種は労賃の安い海外に生産拠点を移しており、国内に残っている業界はシロアリの比重が高くなっている。自動車業界がその良い例である。国内から撤退されないようエコ減税をして「保護」されているのであり、非関税障壁と言ってよいのである。少し前までは電機業界がそうだった。エコ減税なる名目のもとに、手厚く「補助金」をせしめていたのだ。
小沢改革はこのシロアリを退治すると宣言しているのだから、あらゆるシロアリを敵に回すことになる。だから、不起訴になってもなお強制起訴をし、小沢が首相になる機会を奪い、「民主党の足引っ張り者」のイメージを与え、その政治生命を奪おうとし、前代未聞の冤罪をでっちあげたのである。(詳しくは新書が出ているの参照されたい。)
さらに、マスコミが上記のシロアリ群とは相対的に別個に利権構造にどっぷりと浸かっており、マスコミの取材排他的独占体制を「規制緩和」し、報道の自由化を進めることを宣言している小沢はマスコミの敵なのである。このためマスコミは小沢バッシングを決め込んでいる。この報道の排他的独占体制が如何に反人民的なものかは、上杉隆さんの設立した自由報道協会の動きが何よりも雄弁に物語っている。
また、財務省はマスコミ各社の本社の土地を無税で認可する権限を駆使し、さらに報道への減免法人税を適用するか否かの認定権をも使って、反財務省的報道をさせないように規制している。
すでにジャーナリストではなくなり、イラクへもイランへもましてやアフガンなどへは取材にいく気概などなくなった「記者」達は、小沢新党に対し、中味の批判をする能力すらなく、国会の議席の位置が変わり名札の位置が変わって分かりにくくなって迷惑を掛けたなどという「いちゃもん」を恥ずかし気もなくつけている。ジャーナリストだったら小沢批判を言ってみろ。その批判を本人にぶつけて反応や反論を引き出し報道するのが本道というものだろう。もはや、日本のマスコミにジャーナリストはいなくなった。東京新聞や神戸新聞など地方紙に幾人かがいるという寂しい状態になっている。だからこそ犯罪の温床でもあるネットで自前の報道を追求するメディア化が進行するしかなくなり、発展している。
海外取材をする必要のなくなったマスコミは経費節減が出来一時的に利益を増やしたが、独自取材がなく醜悪な米国マスコミの大本営発表を横流しするだけになり、ジャーナリストを育てることもできなくなった。この結果、新聞は定期購読する価値のない紙くずになり始め、TV番組を知りたいためだけにスポーツ紙へシフトしていた階層も地デジテレビの番組表で事が足りるようになり、新聞の販売部数は急激に減少し始め、マスコミは悪循環と自滅の道へと転落し始めた。これは手放しで喜ばしいことではない。
小沢さんが叩かれる理由は二つ。シロアリ退治という一番大切なことをしようとしていること。報道の自由化をしようとしていること。この二つである。この二つのことは、間違ったことだろうか? いいえ、断固として支持すべき事柄です。
これが、筆者が小沢派とでも誤解されることになった理由でしょう。
上記の点では橋下大阪市長などよりはるかに小沢さんは「新しい」し、労働者階級の利害と一致していると考えています。橋下市長などはTPP賛成だし、野田を持ち上げるなど、早くも一貫性などなく政治主義的に振舞っていると分析しています。おそらく近日中にこの稿を書かなければならなくなるのでしょう。
民主党への幻想を打ち砕くために必要だった民主党を支持する歴史時期。これを考えると、小沢バッシングの最中に小沢批判をしないほうがいいのかも知れませんが、小沢さんの反原発だけは信じられません。というのも、原発は最も高い発電法であり、CO2を削減などしないばかりか海水を直接に温め温暖化を推進しているにも拘らず、最も安く安全で温暖化防止に役立つとうそをついて多額の国税をつぎ込んでまで原発を進める本当の理由は軍事にあるからです。原発によって「合法的」にプルトニウムを手に入れ核武装を維持し続けることができるからこそ、あらゆる卑劣な手段を駆使して原発を再開しているのです。
「普通に武装し、普通に軍備を持つことが現憲法下でも合憲であり可能だ。」という立場を取る小沢さんが、「普通の軍備」は通常兵器だけで可能と考えているとは考えにくいのです。核武装した中国、核武装したロシアと領土問題を抱えている日本。また、核武装した北朝鮮のミサイルを迎撃しきれるなどということは少しでも兵器のことを知っている人間だったら思わないこと。小沢さんが、日本の軍隊が独自に核武装せずに、米国の軍事支配から独立を勝ち取ることができると考えているとは思えないのです。とすれば、「国民の生活が第一」の掲げる反原発がどれほど本気なものなのか、筆者は疑っている。
4. 核再処理請負国化を目指す奴隷根性の細野ブレーン・細野人脈の危険
日本が独自に核武装する。そのために核再処理を日本国内で行えるようにし、核大国になる。こう宣言するのならば、まだ論点は地震国日本での核再処理・最終処分の不可能性という点に絞られ、ある意味健全な論議となりうる。だが、民主党の細野大臣はそうではない。
東芝がウェスチングハウスを買収してしまった時点で、米国は核兵器の根幹をなすプルトニウム処理体系を自国から失うこととなった。これは米国の安全保障上重大な欠損を意味する。この時点で、米国は日本にプルトニウム処理・核廃棄物処分という汚い部分を下請けさせ、自らの核独占体制は核不拡散条約機構を利用して維持するという戦略を立てたはずである。
細野はこの戦略の忠実な実行人であり、秘密の匂いがプンプンする細野ブレーンとそれを維持する資金源は、米国から提供されていると見るのが自然だろう。
危険なのは、細野はこの意図をこそ確信的に持っており、だからこそこの意図を徹底的に隠して、さも現実主義者として振舞うことのできる演技力をもっていることである。
核武装の意図を隠すために、米国への追従なくして日本の核武装を維持することができず、折角の核武装を米国からの軍事的独立の達成に使うことが出来ないのである。隠し立ての必然的帰結として、危険なものを危険なものとして認知させ強力な安全対策を取ることができず、大して危険なものではないから受け入れろという形でしか再処理施設や処分場を作れず、核兵器を組み立てるのは結局米国というダーティな部分だけの下請けに終わる。
5.
現在の反原発運動に欠けている部分があるとすれば、この軍事の問題であり、核武装の問題である。その際に忘れてはならないのは、日本は客観的には既に核武装した国であるという事実である。核の問題を反原発の側が取り込んだ議論を展開しない限り、反原発運動は欺瞞や世論操作や嘘との闘いに終始する。それでもいい、勝利するのであれば。そして、今は福島の犠牲のおかげで、勝利できる可能性が十分にある。ちょうど米国がいやいや原発を止めざるを得なくなったように。福島は米国のスリーマイル島原発事故よりも一段深刻な重大事故なのだから、原発即時廃止は可能なのだ。
しかし、すでに即時廃止は旗色が悪くなってきている。
すでに日本の核武装の問題を避けて通れない事態になっているのかもしれない。