尖閣諸島(釣魚台)問題
渋谷 一三
351号(2010年11月)所収
中国との間の領土問題が、民主党前原などの民族主義者の冒険によって、急に緊迫している。
1.
日本が領有を主張する根拠は1895年に明治政府が国際的に尖閣諸島の領有確認を行い、どの国も名乗り出なかったことから、日本領と宣言したことにある。この時に宣言したということは、それまで日本のはっきりとした領有になかったことを自己暴露しているとも言える。
一方、中国が領有を主張する根拠はポツダム宣言にある。ポツダム宣言では日本の侵略戦争によって領有した全ての領土を返還することが明記されており、実際すべての戦後処理がこの原則にのっとって行われている。
したがって、問題は、尖閣諸島が「侵略戦争によって割譲させた領土」にあたるか否かということになる。実は、日本の「領土問題」は、全てここにある。「北方4島」もしかり、独島(「竹島」)も然り。
では、尖閣諸島が侵略戦争によって得た領土が否かが問題になる。
1895年という年は1894年の日清戦争により、日本が台湾を領有した年である。尖閣諸島が台湾に含まれるのであれば、先の95年の領有確認の手続きは茶番劇である。日本の支配下に入らされた台湾が領有を宣言するはずもなく、征服王朝でもあり割譲した当事者の清が領有を名乗りでるはずもない。台湾の返還とともに返還されたはずの釣魚台を、尖閣諸島として日本領に入ると強弁する日本には何の根拠もない、とするのが中国の立場である。
読者は、どちらの主張が正当だと判断されますか。
2.
問題を複雑にしているのは、あれこれの主張だ。もちろん、あれこれの主張をしている者の目的はそこにあるからでもある。
まず、中国の明(漢民族の王朝)代の記述に釣魚台が登場することを中国の領有の根拠とすること。こうすることによって、文献にのってようがのっていまいが、尖閣諸島は地政学的には沖縄に属し、生活圏としても沖縄に属するという「反論」群の登場を許す。そもそも文字に残した者が領有できるとすること自体がおかしい。これが、雑音群の1。
次に、井上清さんなどの真面目な歴史学者の主張。
井上さんは、その著書「尖閣列島」で、林子平が『三国通覧図説』で釣魚台を中国本土と同じうす茶色に塗ってあることなどを丁寧に追って、林子平が中国領と認識していたことなどを挙げている。だが、だからこそ子平は幕府に弾圧されたわけで、沖縄・琉球を併合し拡張主義を取っていた幕府は釣魚台を領有しようとしていた節がある。
ともあれ、尖閣列島・釣魚台はどちらの国のものでもなく、その存在を認識していたとしても、住民がいたわけでもなく、漁業基地としても使われず、明にとっても航行上の目印であったというのが本当のところであろう。
この「本当のところ」を認めないのは、日本あるいは中国の立場に立っているからであり、この「結論先にありき」の論が、ああでもない、こうでもないの論をさまざまに生み出している。
3.
尖閣列島・釣魚台の領有が問題になってきたのは、船舶の性能が上がり、漁業上の利益が生じたことによる。それが、戦後、沿岸12海里の排他的漁業権益が国際的に認められたことによって、より重要な権益を生むことになったからである。近年は大陸棚の資源はその大陸の国(すなわち、中国)に属すると中国が主張するに至って、より一層領有権の経済的権益が大きくなった。
歯舞・色丹・国後・択捉4島の帰属問題と違って、資源の争奪戦が激烈になることによって生じた無人島の領有権争いであり、南沙諸島(スプラトリー諸島)の領有権争いに近い。
人類史的には、地球規模での資源の分配・利用の問題であり、根本的には世界的規模での統治機構(協議機構)の設立に解決を求める以外にはない。
最近の中国の拡張主義が、12億の人口を養っているという点から、若干の人類史的分を持っているにしても、決して擁護されるべきものでもない。
尖閣列島については、あくまで、台湾併合と同時に領有宣言した侵略としてのみ中国に領有権がある。幕府が琉球王国を併呑したことを非難するなら、中国の台湾併呑もまた非難されるべきこととなる。
また、反対に、「先住民」概念の法外な拡張は、シオニズムと同じ強盗の屁理屈である。過去の民族間や部族間などさまざまな利害の対立から結果として形成されている国家なる統治機構を「先住民」概念からその領有を決めることも滑稽な話なのである。例えば日本列島はアイヌ民族のものであることになるが、アイヌ民族が現在日本列島に住んでいる人々をイスラエルがしているように虐殺してよいというのだろうか。そもそもアイヌ民族自体もモンゴロイドであり、モンゴルから先に移動してきただけであり、南から列島に移住してきた人々との後先を論じても意味がない。
4.
人類史的な解決を図るわけでもなく、民主党政権は自民党政権より稚拙に日本の領有を主張し、事態をこじらせ、対米従属を自ら深めている。民主党政権が、労働者階級の利害と一部重複する利害を代表するかに見えた幻想は、それが幻想だという認識を広めて終わった。
それは、とても良いことなのだが、自民党に戻ればよいわけでもない。このことは先の選挙で国民がはっきりと認識していることをしめしている。
歴史は成熟している。だが、労働者階級の利害を代表する政党を形成することができていない。これは、日本だけでなく、世界的にだ。
5.
次稿では、菅政権のTPP加入政策について見て、菅政権が無定見で迷走しながらも大ブルジョア政党として動いていることを見る。