新自由主義とは何だったのかIII
渋谷 一三
329号(2009年1月)所収
2.信用収縮に対処するために、投入してしまった膨大な資金は、結局のところインフレ要因となる。
前稿「新自由主義とは何だったのかII」で、空売りを禁止することが、株価暴落の根本的回避策であることを述べました。
しかし、米国の粗野な資本主義=ネオコン=新保守主義=新自由主義は、空売りを禁止する志向性の一片も持っていません。そこで、リーマン兄弟社が倒産した時には支援しなかった米政府が、次のシティグループの危機に支援策を発表すると、それはすなわち、空売りで儲けることが可能になったことを意味することを知っている「投資家」達がただちに空売りを開始し、株価は一層の下落を始めました。
この事実が、雄弁に「金融危機」の原因を証明しています。すなわち、架空資本は、生産性とは何の関係も無く運動すること。だから、架空資本の運動はパイが一定のギャンブラーの集団内部の賭博と同じで、必ずバブルを生み、その崩壊という形で博打の清算をするという結末を迎えること。空売りを禁止しない限り、ギャンブルは続くこと。こうしたことを証明して事態は進行しています。米連銀の金利ゼロ政策・自動車3社の救済、こうした経済政策は架空資本の運動の継続を保証しています。こうした視点で、この間の経済政策とその結果としての情勢を眺めることをお勧めします。
さて、兎にも角にも世界レベルでの膨大な財政出動をしてしまったため、信用収縮は現実化されると同時に緩和されはじめました。
空売りによる株価の暴落は、信用の収縮を生み出します。暴落させることによって財政出動が約束される以上、投機家は株の大量の空売りによって株価を暴落させてから買い戻し、財政出動による株価の上昇局面で売りぬく。ここで儲かる以上、全ての資金は株の操作に集中されるべきです。言い換えれば、危険な融資などする必要は無く、資金を回収して株価操作をすればよいのです。心配はない。各国政府が財政出動して、ギャンブルのパイを大きくして下さっているのですから。
資金が株式市場に流入すればするほど、信用収縮が起こります。そもそも、信用によって、資金供給量の例えば10倍の信用を裏打ちしていたものが、一気に収縮し、通貨供給量だけの信用しか裏打ちされなくなります。例えば、一気に10分の1に収縮するのです。これは、一瞬の出来事です。この後に、資金の引き上げ(貸し剥がし)などの実際の信用の収縮が始まります。この収縮の方が、遥かにゆっくりで小規模な信用収縮です。はじめの信用創造分の信用収縮の方が、遥かに急速で大規模な運動なのです。
起こってしまった信用収縮と、大規模な財政出動による資金供給により、通貨流通量は膨れます。膨れはするが、それが保障する信用の量は「金融危機」以前より、はるかに少ない。信用の回復が早晩行われる以外にはなく、この回復局面で、膨れてしまった通貨供給量を回収・収縮させていくことは至難の業であり、計画経済がうまく行くのと同等の確率でしかうまくいくことはないでしょう。ということはインフレを必然化させます。
インフレが起きれば、政府が抱えた国債などの借金が相対的に縮小し、「自動消滅」することを意味しますので、各国政府はますますインフレを歓迎します。この点だけは現象上、29年の大恐慌以後の経済の動きと似てくることになるでしょう。ただし、インフレを持続させるためには賃金の「上昇」=インフレが必要になりますが、この点が難しい。米ドルの下落は続き、米国は賃金インフレも可能ですが、米国の賃金インフレが続けば、例えば日本の自動車の輸出は盛り返します。この時に日本企業の賃金が上がればドル表示輸出価格はますます上がり、もはや購買不可能になります。日本の企業は名目賃金の上昇すら難しいのであり、賃金のインフレが伴わない限り、物価のみのインフレは長続きしません。
バブルとその崩壊を繰り返しながら成立してきた米国式グローバル経済は、IT・住宅から遂に金融のバブルへとバブルの対象を最終形態である金融に求めざるを得ないところまで行き着きました。米国式グローバル経済=新自由主義経済の終焉ということです。そこまで行き着いたということです。