共産主義者同盟(火花)

バブルの移転の仕組み−2

渋谷 一三
320号(2008年4月)所収


06年6月の株価急落事態の示すもの

<はじめに>

 06年5月中旬〜6月、1万7000円近くあった日経平均が、突如急落を始め、1万4000円近くまで下落した。
 村上ファンド・ショックだと言い立てる人もいるが、事態の分析を混乱させる目的か、余程分析能力の無い人の言うことで、株関係者には相手にされていない。
 村上さんが逮捕されたことで、村上関連株の株価が下落したことは事実だが、下落が始まったのはそれより前です。直近の円高が引き金になっている。1ドルが110円台にのった途端に株価の急落が始まった。これが事実で、2日間で一気に1万5500円台に落ち、その後2週間かけて1万4000円付近まで落ちたのです。
 本稿は、この急落の分析を通して、バブル移転の仕組みを実践的に明らかにしようとするものです。

1.「米国株が下落すれば日本株も下落する」という「常識」・経験則

 117円前後で推移していた為替相場が急速に円高に振れたのはヘッジファンドの決算期にあたる5月だった。ヘッジファンドはこの好機を逃さなかった。バブル気味に高値に張り付いていた日本株を売りぬきドルに換金すると、株価の差益に加え、為替差益も手にすることができるからです。117円で1ドルを買っていたのが、110円で1ドルを買えるからです。
 外国人投資家と区分されるヘッジファンドを主とする外資は大幅に売り越した。日経平均1000円分の株式利益を手にしたことになる。さらに為替差益6%近くを手にする。その上、円高局面ではニューヨークの株価が下落しているので、すぐに米国株式市場に「投資」する。この結果、日本株は昨年の日経平均付近の1万4000円まで下落した。
 その後、米国の株価上昇に「つられて」日本株も1万5500円台まで回復している。
 米国株が下落すれば、円高になる。円高になれば日本株を売り、為替差益を手にした上で安値の米国株を買う。この行為によって米国株は上昇する。米国株が上昇局面に入った途端に最安値をつけた日本株を買う。大幅な日本株売り越し・ドル買いによって円相場は下落するからです。110円台だった円は114円から115円ぐらいに戻っている。110円で買った1ドルを114円に変えて、最安値をつけた日本株を買うのです。この行為によって日本株は1万5500円台を回復したのです。
 1万5500円台をつけた日本株を再び売り越し、同じことを繰り返すことが出来るのは言うまでもありません。繰り返すたびに「外資」は利益をうむことが出来るのです。
それも円高局面=米国経済の低迷局面に行えば行うほど効果的で、日本株の売り・再買いの往復で利益を得ることが出来る。
 米国の不況を日本に転嫁できる仕組みの一部が今回の事態に顕著に現れているのです。

2.「量的規制緩和」によって進行した事態

 量的規制緩和とは0%近くの利子で無制限近くに日本円を貸し出すということを意味しています。この結果、外資は日本銀行から間接的に無利子に近い金の融資を受け、これを日本株市場に投入する。この結果、日経平均株価は上昇し、「景気回復」が成されたように「錯覚」できる。「錯覚」というのは、錯覚であるとともに錯覚ではない面も持つからです。株価が上昇すれば、企業は上昇した株価を背景に設備投資に向かう。設備投資は消費と同規模の経済効果を持っており、設備投資の回復が消費を促進する。この好スパイラルによって実態経済の回復が促進されるという効果があるからです。
 日銀が量的規制緩和に踏み切ったのは上記の効果を期待してのことではある。
 他方負の側面として、外資が日本円を借り、その借りた金で日本株を買い、株価を吊り上げた上で売りぬくという面があります。これは「国富」の損失ということになります。
 外資は日銀の量的規制緩和終了が6月か7月と予想され始めた4月から借り入れをやめ返済を始めている。流れの変化を日経新聞が報道したのが4月中旬です。村上ファンドが最後の買占めにでたのも、出資金の大部分を占めるであろう外資の引き上げ圧力を受けてのあせりもあってのことだろう。
 村上ファンドの凋落が株価下落の原因ではなく、その進行過程の必然的一部だったことがお分かりいただけると思います。

3.量的規制緩和解除によって予想される事態

 7月に入って1万5500円台に乗せた日経平均株価の外資系購入資金には日銀からの間接融資は含まれていないはずです。この融資分の吐き出しが6月に進行した事態だったはずだからです。「外資」から物事を見るならば、十分に余っている金で日本株を買うことはやぶさかではないが、わざわざただ同然で金を貸してくれるというのだから、借りない手はない。自己資金は日本市場以外に回して、日本株は為替損を考えないでいいばかりか売り局面では必ず為替差益を手にすることができる日本円を借りて買うに限る。6月に売りぬいて利益を手にした後は、国際的にだぶつき投資先を探している旧来ユーロダラーと呼ばれた流動過剰資金を使えばよい。この国際的流動資金は6月の事態で膨れた上、原油高でさらに膨れているはずです。
 ということで、日本株の買い戻しには量的規制緩和資金は含まれていないと推測するのが妥当でしょう。
 市場が「織り込み済み」の量的規制緩和解除が7月10日にも想定されるが、1.で検証した構造に何等変化はない。量的規制が行われるとともに幾分の金利がつけられることによって日本の株式市場の中に占める外資の比率が下がるだけで、1万5500円と、1万4000円に比べて十分に上がった日本株を売って利益を一旦確定し、再び下落した日本株を買い戻すことは容易に想像できます。外資の比率が低下したことはその乱高下の幅を幾分狭めるだけのことです。
 「織り込み済み」にもかかわらず、量的規制緩和解除を機に、下落不安を掻き立てるために売り浴びせ、十二分に下落させて再び買うというシナリオが考えうる。

4.バブル崩壊による損失を日本に移転する仕組みの一部

 米国株が下落すれば、日本株も連動して下落する。米国向け輸出企業が平均株価を決定する重要な要素となっている日本のような国は、とりわけその傾向が顕著です。
 米国株が下がれば、下がらないでいる国の株式を売りぬいて米国株での含み損を補填する。このことによって、日本株は下落する。この構図は経験則として「格言」化されているので、米国株が下がった瞬間から日本株の売りが始まる。そこに外資による売りが実際に入るので、下落幅は米国より大幅になる。
 バブル期には日本株保有者、売りぬくことができない日本株を持っている者=日本企業が膨大な含み損を抱えることになる。この含み損が連鎖していくのです。
 マーケットが電子化された今日では日本人投資家と「外資」との売りの時間差はほとんど無くなり、より敏感に反応するようになっている。株価変動の機会は増え、バブル期に比べて、よりこまめに損失の移転ができるようになっている。

以上が、06年6月に書いたものです。

5.バブルは移転させることが出来るという理解を一般化させよう。

07年10月〜12月、米国のSub-Prime-Loan(サブプライムローン)焦げ付きに起因した米国住宅バブルの崩壊が、三度日本に移転されている。日本株は史上まれにみる事態に陥った。年末に年初来最安値をつけた。
だが、今回は変化が現れた。米国の債権機構への出資要請を日本の金融機関・企業が軒並み断っているのである。日本が断れなくする抑圧装置を米国が失っていることの表われであろう。
日本は世界でただ1国、米国とともに自国通貨安になっている。他は米国の動きに左右されにくくなっている。これは今までの歴史と違う点であり、大いに注目すべきことである。
この原因を分析しきれてはいないが、おそらく大きな要因は、ユーロの登場とその安定にあろう。ユーロに基軸通貨をシフト出来ていない日本だけが米国に「追随」して大幅な円安になっている。対ドルレートだけに慣らされてしまっている大方の日本人には円安を実感できなくなっているが、100円で買えた1ユーロが164円出さなければ買えなくなってしまっている。6割にも下落しているのです。08年は、こうした世界経済の環境の変化が政治に大きな影響を及ぼしていくことになろう。それは米国の衰退という一語に端的に表わすこととなるだろう。




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