共産主義者同盟(火花)

イラク解放闘争連帯!世界の労働者民衆運動の発展に向けて

流 広志
279号(2004年11月)所収


米軍によるファルージャ虐殺を糾弾する

 11月6日、イラク駐留米軍は、アナン国連事務総長の中止勧告を無視して、ファルージャへの本格的空爆を開始し、その後1万5千人と言われる大規模な地上部隊を市内に進行させ、虐殺と破壊を開始した。それに合わせて、11月7日、アラウィ暫定政権は、北部のクルド人自治区を除いたイラク全土に60日間の非常事態宣言を発した。9日、駐留米軍は、ファルージャに潜伏しているとしてきた最大のターゲットであるザルカウィはすでに逃亡した可能性が高いと発表した。米軍による情報操作が行われているのである。4月のファルージャでの戦闘でイラク人の多くがファルージャ住民の側に立ち、シーア派住民からも支援・支持があった。イラク侵略戦争開戦以来、多くのイラク人が犠牲になったが、その生活体験が、犠牲者の家族や親族や友人たちに、反米感情を蓄積させていることは疑いない。
 ファルージャの蜂起は、米帝の圧倒的に優勢な軍事力によって圧殺され、街は破壊され、多くの住民が虐殺された。それは帝国主義の野蛮さや残虐性を示したものである。
 闘うイラク人民は、米軍のファルージャ攻撃に呼応して、イラク北部などで蜂起している。また、サドル師派とスンニ派のイスラム宗教委員会が1月の選挙ボイコットを表明した。イラク労働者共産党は、イスラム・テロリズムを非難すると共に、その活動の余地をつくったのはアメリカ・テロリストによるイラク占領であり、アラウィ傀儡政権を拒否すべきだと主張している。米帝と有志連合と傀儡政権からのイラク解放闘争は、決戦に向けた闘いを継続し、深まり拡大し、米帝の占領統治を破綻に追い込みつつある。
 そもそも大量破壊兵器を保有していないフセインは、世界やアメリカにとって、戦争で緊急に取り除かなければならないほどの差し迫った脅威ではなかった。この戦争は、アメリカ帝国主義が、イラク中東での権益を確保するための侵略戦争であり、そのために邪魔なフセイン政権を武力で打倒したものである。米帝ブッシュは、口先だけでイラクの解放を強調しているが、実際には、イラク人を誤爆などで殺し、拷問・虐待し、困窮に落とし込め、破壊し、混乱を拡大し、虐殺し、暴力による占領支配を行っている。イラク人民はそれに対する解放闘争に立ち上がっているのである。
 国際プロレタリアートは、イラク侵略戦争に反対する国際反戦運動を発展させ、自国政府の戦争政治を打ち破り、イラク解放闘争への連帯を表明すると共に、イラク人民の身体的・精神的傷と病弊を回復し、その力量を増大させるための支援を促進することが必要である。

政府と保守マスコミのファルージャ攻撃支持を非難する

 小泉政府は、米軍によるファルージャ総攻撃を治安回復のためには当然だとして支持を表明した。
 9日付『産経新聞』社説は、「イラクにいる外国人テロリストを含む武装集団は、イラクの民主化、安定化を嫌い、当面最も重要な政治プロセスである同選挙をあらゆる暴力で阻止しようとしている以上、もはや話し合いによる解決の余地はない」、「選挙を控え、妨害をたくらむ武装集団を制圧することは、暫定政府、米軍にとって不可欠な任務だ」と述べ、1月14日の選挙という形式的儀式の成功のためならファルージャ攻撃は当然だとして支持した。米帝が世界を誤情報で踊らせたことが何ヶ月もかかってようやく事実として確定したばかりなのに、この社説は、アメリカの出す情報をそのままうのみにして論を立てている。まるでアメリカ当局は無条件で信用しなければならない信仰対象のようだ。
 この社説が心配しているのは米帝が描いた政治スケジュールが妨害され、その権威が傷つくことであり、米帝のための治安である。それは、この間の『産経』社説の主張から明らかなように、米帝のイラク統治に自衛隊派遣で貢献することが、日米同盟を強固にし、日本の安全保障につながることを願望するという自分の安全を心配する保守的なエゴイズムに帰着する。それは、11日付『読売新聞』社説での「同盟国である米国が治安回復に全力をあげている時、「我々は引き揚げるが、米国には引き続き頑張ってほしい」と言って、同盟国としての信頼関係を維持できるだろうか。同盟の信頼関係が損なわれれば、日本自身やアジア太平洋地域の安全保障にも悪影響を及ぼす」という主張と同じである。これらは、真実を価値とするジャーナリズムの精神に立っているのではなく、我が身かわいさに、米帝のイラク政策になんとしても貢献しなければならないという政府同様の卑屈でちっぽけな自尊心(エゴ)の現れである。
 これらの保守的マスコミは、ブルジョアジーと同様に、極端から極端へ飛び移り、矛盾し、揺れ動く。例えば、上記『産経』社説は、ファルージャ総攻撃を支持すると同時に市民の犠牲を少なくしろと米軍の手足を縛ることも主張している。米軍が実際にやったことは、市民の犠牲を少なくするという実行不可能で自らの手を自ら縛る方法ではなく、病院を押さえるなどして住民の犠牲者の情報をコントロールすることであった。5万とも十万とも言われる住民が市内に残っている中での市街戦で、住民と同じ格好をした民兵だけを正確に区別して攻撃することなど、事実上不可能である。米軍は、住民を大勢巻き添えにてもかまわないと判断して攻撃に踏み切ったのだ。この社説は、それを支持した以上、住民虐殺をも支持したのである。

アメリカの分裂と形だけの民主主義を露わにした大統領選挙

 アメリカ大統領選挙は、共和党ブッシュの再選に終わった。それは、アメリカの分裂を明確に表すものとなった。この分裂を押し進めず、融和を訴えたケリーはブッシュが指摘したとおりの日和見主義者であった。有権者の投票行動は、アメリカの分裂そのものを表現したのに、ケリーは、一方の側に立ちきれず、動揺し、あいまいに言葉を濁し、ブッシュの政策と大差のない政策を弱々しく対置したに止まったのである。
 CNNなどが実施した出口調査の結果は、それをはっきりと示している。数字については11月6日の『毎日新聞』で表が掲載されているので参照されたい。
 そこからわかることは、ブッシュ支持者は、白人男性、年間所得5万ドル以上の金持ち、道徳重視の福音主義プロテスタント、テロ重視、軍人、銃保持者、等々であり、ケリー支持者は、アフリカ系などのマイノリティー、年間所得5万ドル未満の層、経済・教育・福祉・イラク政策を重視する人、同性愛者、ユダヤ教徒、等々だということである。
 さらに、地域的にもアメリカが二つに分かれたこともはっきりした。東海岸北部と五大湖周辺の工業地帯と西海岸のサンベルトの先進工業地帯、もともとの民主党の地盤で民主党の最大の支持組織AFL-CIO(アメリカ労働総同盟産業別組合会議)が強い地域が、ケリーを選んだ。それに対して、ブッシュ支持の地域は、中西部と南部の農業地域、サンベルトとして近年、メキシコなどの中南米から流入するラテン系移民労働者を使って工業化しつつある南部地域である。
 ブッシュ政権は、安保理少数派になりながら多数派を無視し、自衛のための先制攻撃としてイラクに戦争を仕掛け、少数は多数に従うという民主主義のルールを無視し、自らは民主主義に縛られない独裁者であることを行動で示し、民主主義を他者に押し付けるが、自らは従わないというブルジョア的形式民主主義者であり、実質的な内容のある民主主義の実現には消極的である。オハイオ州とニューメキシコ州ではアフリカ系アメリカ人や少数民族の票が大量に破棄されていたという疑惑が出ているが、それが事実なら、そんな民主主義は偽物であるが、ブッシュ政権は自主的・積極的にそれを直そうとしていない。ケリーがこのような反民主主義を許容しブッシュに和解を呼びかけたのは、同じ穴のムジナにすぎないからだ。
 選挙を通じて、社会的階級階層分裂が現れており、そこには労働者階級の要求や意思もあるのだが、それを代表する器がないのである。しかしこのような分裂がその解決を求めて、噴出してくることは疑いない。

増大する世界の労働者運動の自主的行動

 アメリカやヨーロッパや中南米や韓国などで、労働者運動は、自主的な行動を発展させ、生活・経験から学びつつある。イギリスでは、自由主義的なブレア政権に対して、いくつもの労組が反旗をひるがえし、自主的な行動を開始し、それによって、新たな労働者党を作る動きが活発になり、労働党内でそれを支持する議員・人物を生み出している。
 アメリカでは、共産主義者を労組幹部から排除する規定のある「タフト―ハートレー法」に基づく公的制度を受け入れている巨大な労組のナショナルセンターのAFL-CIOが、民主党を通じて議員を送り込み、また選挙支援を通じて政治に関与してきた。また、コミンテルンに参加したIWW(世界産業労組連盟)も現存している。

 そのような公的制度のないヨーロッパや日本では、社会主義政党や労働者党が存在し、国会に議席を持ち、社会主義者が公然と労組幹部になり合法的に活動している。しかしその労働者党が、小ブルジョアジー的日和見主義やインテリゲンツィア的俗物根性に深く毒されているために、労働者階級の政治組織としての行動を取らなくなっていた。しかし、近年、イギリス・ドイツでは、労働党・社民党と労組が対立し、労働運動が自主的に行動し始めている。
 アメリカでは、AFL-CIOの自由主義政治から独立した政治行動に労働組合などの労働者多数を自立させ行動させることが必要であるが、アメリカの労働者運動は、この間の反戦運動によって、ようやく、民主党と共和党の間で政権をたらい回しているブルジョア民主主義の枠組みから抜け出て、労働者階級としての自立した行動を取り始めている。航空労組や港湾組合、スーパー労組、ホテル労組などのストライキが行われるようになり、反戦運動に何十万何百万という規模の労働運動が自主的に行動しているのである。その点で、ANSWER連合を始め、イラク労働者共産党の声明を掲載しているUSLAW(US Labor Against the War)などの反戦派労働運動による労働者階級の自立した行動を促進した意義は大きい。現場の労働運動の発展と共にアメリカ労働運動の発展のための労働者党建設が具体性を増しているのである。
 韓国では、民主労総の支持する労働者政党である民主労働党が国会で議席を獲得した。民主労総系の労働運動では、全国公務員労組が、合法化と労働三権の確立を求めて、15日、ゼネストに立ち上がった。ノ・ムヒョン政権によるスト権確立のための投票の実力での妨害や幹部の指名手配などの徹底した事前弾圧によって厳しい闘いを強いられた。ILO(国際労働機構)は、公務員の労働基本権を認めるように、各国政府に求め続けている。フランスでは警察官が労組を組織しストライキをやっているというのに、日本政府と共に韓国政府もそれを無視しているのである。全公労のゼネストは、この正当な要求をめぐる闘いの口火を切ったものである。それは民主労総と韓国労総の11月末の共同ゼネストへと継承され発展している。民主化闘士の経歴を持つノ・ムヒョン大統領は、労働者の基本的権利要求を抑圧・弾圧したことによって、その政治性格がブルジョア的なものであることを示した。韓国では、2003年以来の不況で、貧困層が人口の10.4%、494万5335人になったという保健福祉部の調査結果が発表された(11月10日付『東亜日報』)が、ノ・ムヒョン政権下で、階級対立・階級階層分裂は拡大しているのである。労働者党のさらなる発展も課題となっている。

 日本では、1990年代を通して、国会の労働者党は消滅した。労働組合は「連合」に多数が統一されたが、それは自由主義のヘゲモニーに支配されている。その結果、日本の労働運動が、独自に自主的に階級として行動する機会が減った。
 しかし、21世紀に入ってから、労働運動の自主的な行動が活発化しつつある。その一つは国鉄闘争である。国鉄闘争では、国鉄闘争共闘会議と闘争団の一部が、国労中央(協会派系−共産党系)の宗派主義的統制をうち破って、鉄建公団訴訟を闘っている。また、9月27日には、国労員への組合差別の不当解雇事件が勝利した。この不当労働行為事件は、90年11月8日、JR総連JR東労組所属の助役が国労鶴見分会執行委員の内藤さんを挑発し、もみ合いになったことに対して、会社が、わずか9日後に一方的に助役側に立って内藤さんを懲戒解雇した事件である。東京地裁は、不当労働行為を認定し、懲戒解雇を撤回し現状復帰させるよう緊急命令を発したのである。これは、国鉄分割民営化以降のJR当局とJR総連の国労潰し策動をうち破る勝利である。十数年に及ぶアルバイト生活の中での粘り強い内藤さんの闘いの勝利は、不当解雇撤回を闘う闘争団にとっても、希望を与えるものである。むろんこれは地裁での勝利にすぎず、これからも闘いは続くのだが、まずは喜ばしいことである。
 警備公安警察は持続的な大衆的反戦運動の発展に強い危機感を抱き、広範な大衆の間に広まり、政治を動かす世論とならないように弾圧を強め、でっち上げ逮捕・拘束をくり返し、妨害している。しかし、反戦運動は勢いを持続しすそ野を拡げている。「連合」・全労協・全労連はイラク戦争に反対し自衛隊撤退を求めている。世論の多数も自衛隊撤退を求めている。イラク民衆を直接支援するNGOやイラク失業者組合との直接交流を組織する労働運動がある。パレスチナとイラクを結ぶ動きもある。アラファト議長の死でも取り除けないパレスチナ解放闘争に力を与えているアラブ民衆の国境を越えた連帯や世界の人々の国際支援の輪は、米帝とイスラエルの中東支配との闘いをも支えている。
 年金・医療費などの社会福祉費を含む増税などの小泉「改革」の痛みは多くの人々に重くのしかかっている。小泉政府は、改革を叫びながら官僚によるその骨抜きを容認し、国の借金を減らすと言いながら国債発行残高を増やす等々といった具合に、矛盾に満ちている。ブルジョアジーの戦術は、暴力的統治方式と「自由主義的」統治方式・「見せかけの譲歩」のさまざまな組み合わせからなっている。それに惑わされず、この「自由主義的」な「改革」によって厳しい生活に追い込まれている人々は、それから学び立ち上がりつつある。その兆候は、労働運動の自立的行動の増大や人々の諸運動への参加の拡大として現れている。その中で、労働者階級の自立した行動と労働者党の建設を追求していくことが必要である。労働者民衆自身が自分たちの手で発行・運営する初期『プラウダ』のような労働者新聞があれば、自立した労働者大衆の運動の発展に役立つだろう。

最後に

 レーニンは、マルクスとエンゲルスがイギリス・アメリカとドイツについて異なる態度を取ったことを指摘している。アメリカとイギリスでは、労働者階級は自由主義政党のしっぽについているだけで、独自の政党を持ち自立した行動を取れていなかったので、共産主義者は、まずなによりも労働運動と一体となって、独自の労働者党を組織することがなによりも重要な課題であり、多少反動的な労働運動であっても一緒に活動し、それと合流することが必要だと強調した。共産主義的な「労働者党がなく、議会に社会民主党の議員がなく、選挙にも、新聞等にも、どんな系統的な、一貫した社会主義的政治活動もない国々―このような国々ではマルクスとエンゲルスは、社会主義者にたいして、ぜひとも狭いセクト主義を根絶し、労働運動に合体し、それによってプロレタリアートを政治的にふるいたたせるように教えた。なぜなら、イギリスもアメリカでも一九世紀の最後の三分の一には、プロレタリアートはほとんどなんの政治的独立性も発揮しなかったからである」(『カール・マルクス』国民文庫161〜2頁)。
 それに対して、ドイツには議会で議席を持つ大きな労働者党(ドイツ社会民主党)ができていた。そこで、マルクスとエンゲルスは、「ドイツ社会民主党内の日和見主義とたたかい、社会主義内のインテリゲンツィア的俗物根性と小ブルジョア根性を追及した」(同上160頁)のである。
 日和見主義的インテリゲンツィアたちは、「・・懐疑精神のために衰弱し、学者ぶりのために愚鈍になり、懺悔にふけりがちで、すぐ革命に倦みつかれ、革命を埋葬してそれを立憲的平凡事におきかえる日を、祝日かなにかのように夢みている」『カール・マルクス』大月文庫135〜6頁)。レーニンは、こうしたインテリゲンツィアは、マルクス・エンゲルスから、「革命にたいする信念、労働者階級に彼らの直接の革命的任務を最後までまもりぬくように呼びかける能力を、また革命が一時失敗しても弱気な泣き言をゆるさない精神の不屈さを、学びとるべきである」(同)と述べているが、90年代のインテリゲンツィアの懐疑、懺悔、日常的な小さな物語への埋没などを体験したので、それが過去のことではないことを理解できる。
 世界的な労働運動や国際反戦運動の高揚の中で、多くの共産主義者がその発展のために活動している。それは、労働者大衆から遊離した「左派」や日和見主義派同様の誤りに陥れば、より発展することが難しくなる。日和見主義的な大きな労働者党があるヨーロッパと労働者党がないアメリカ、そして昔はあったが今は議会からそれが消えてしまった日本、本格的な労働者党が成長し始めている韓国、等々では、共産主義の戦術は異なる。歴史的条件を慎重に研究・分析・評価して、具体的な戦術を見いだすことが必要である。




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