国鉄・JR問題に現れた小泉改革路線の破綻について
流 広志
271号(2004年3月)所収
ILO勧告を無視する政府・JR資本・最高裁、2003年12・22最高裁不当判決弾劾!
資本の国際化にともなって国際的な労働基準をめぐる闘争が労働運動の課題として大きな位置を占めるようになりつつある。例えば日本は成果主義賃金という正反対の方に向かっているが、ILOは同一価値労働同一賃金原則を実現するよう各国政府に求めている。
日本政府は公務員の労働権の制限問題でもILO勧告を無視し続けている。それに対して、1975年11月26日から7日間にわたるスト権奪還を要求した国鉄労働者のスト権ストが闘われた。しかし、政府は、国鉄労働組合に対して、ストライキによる被害の賠償を求めた(後に取り下げられた)。
さらに、政府−国鉄当局は、国鉄分割民営化に反対した国労などをねらいうちにして人材活用センターに送り、そこで不当労働行為の限りをつくし8千人を解雇した。その中から1047名の闘争団が不当解雇撤回と現職復帰を求める闘いを開始した。JRと政府は、不当解雇撤回と現職復帰を求める国労などの要求に対して、国鉄とJRは別組織であり、国鉄のやったことは知らないと形式論を立てて責任逃れをはかった。しかし、ILOは、これを不当労働行為と認め、解雇者を雇用するよう日本政府に勧告した。また、中央労働委員会も不当労働行為を認定した。
ところが、2003年12月22日最高裁は、国労・全動労事件について、一票差の評決で中労委・国労の上告を棄却した。しかし、5名中2名の裁判官が、採用手続過程で国鉄に不当労働行為があった場合は、設立委員・承継法人のJRが労働組合法7条の『使用者』にあたり、JRには不当労働行為の責任があるとして、中央労働委員会や国労の主張を支持し、東京高裁への審理差戻しを主張した。日本政府と最高裁はまたしてもILO勧告を踏み破ったのである。労働基本権を後退させるこのような不当な行為を許してはならない。
国鉄分割民営化は国鉄長期債務問題を解決できない問題先送りである
国鉄分割民営化は、確たる根拠もなく成功例のように語られているのであるが、すでに、旧国鉄債務でのたばこ税増税という適当な増税に示されたように、破綻の兆しが出てきている。債務問題は、ただ先送りされたにすぎず、財投によって手当てしたつけがどんどん増える可能性が高いのである。
1998年10月15日に参議院で可決成立し旧国鉄の債務処理法案の中身は、有利子負債15.2兆円および無利子債務8.3兆円を国の一般会計に繰り入れて処理する、このうち財投資金(資金運用部資金,簡保借入金,引受債)8.1兆円は繰上償還し通年ベースの利払費を2,500億円軽減し,残りの利払費4,100億円の財源に,郵貯特別会計からの繰入れ2,000億円とたばこ税増税分の一部2,100億円をあてる、国鉄長期債務の元本の23.5兆円は,2000年度から60年間で償還する。年金分はJRが負担するというものである。国鉄清算事業団は1998年10月22日に解散し、これを鉄建公団が引き継いだ(現在は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に統合)。
ようするに、この措置は、一般会計に移された旧国鉄長期債務を増税と郵貯の黒字の横流しで財投の利子返済を優先し、元本は60年後までに返すとして先送りしていたもので、抜本的処理にはほど遠い。したがって、新たな長期債務が発生し、新たな国民負担が生じる可能性が高いものなのである。また、新幹線は別枠での建設が可能となっている。
国鉄長期債務問題は、経営形態の問題ではなく、高度経済成長期の無謀な新幹線建設や路線建設に端を発した問題なのである。
国鉄では1960年代の半ば以降,輸送力増強路線が強力に推進されることになった。政府と国鉄当局は,輸送力整備計画を政府の計画にした。第3次長期計画の下、政府主導で、財政投融資資金をもとにした大規模な設備投資を実施すると同時に経営基盤強化のための大幅な運賃値上げが繰り返されたが、赤字は累積されていった。この間に、山陽新幹線、東北・上越新幹線、青函トンネル、瀬戸大橋が着工され、さらに、長野新幹線、九州新幹線、山形新幹線、と巨大投資が続けられていくのである。
政府国鉄当局と田中派に代表される利権政治家の責任は明白である。ところが、鈴木内閣下の土光臨調は、政府や国鉄当局や政治に責任を取らせるのではなく、国鉄労働者に責任を転嫁し、総評系の主力組合であった国鉄労働運動潰しに利用したのである。現場での仕事に障害がない労使慣行はたいていの職場にはあるものだが、それを一方的に労働者の怠慢のごとく描くキャンペーンが展開されるようになり、それと対照的に、土光はNHK特集で、芝生の広大な庭を持つ大豪邸でめざしを食い、あまり乗りなれない電車で通勤し、毎朝法華経を読む信心深い善人に描かれた。
土光臨調路線を受けて国鉄再建監理委員会が作られたが、その意見書は、国鉄問題は経営形態に原因があると決めつけて、分割民営化、政治の介入の阻止、労使正常化などが必要と主張した。国鉄の自己改革案は相手にされず、国鉄改革法などの法整備を経て、分割民営化が強行された。国鉄当局は、各労組に対して、「労使共同宣言」の締結を迫った。1986年に国労から分裂した国労旧主流派や旧動労などがこれを締結した。
これにも反対した国労は、1047名の国労闘争団を抱えながら少数派組合として労働運動を展開してきたが、旧動労系JR総連の会社と一体になった国労切り崩し工作の中で、困難な闘いを強いられている。中央主流派は、分割民営化を既成事実として容認する姿勢を示したり、4党合意へのめり込んで破綻して北海道などでの幹部脱退事件が起きるなど、動揺している。
しかし、これほどまでに、労働者の権利を踏みにじり、違法行為を認めず、責任を労働者や納税者に転化している政府−旧国鉄−JR資本の体質が容認されれば、モラル崩壊が起こるのは必定であり、その結果は、さらなる追加負担や利益優先・安全軽視による事故やサービス低下として人々に降りかかってくるのを許すわけにはいかないのであり、人々の利益に立つ運輸労働者の運動が求められているが、それは、経営の立場に無批判に追随したり、その先兵となっているような御用労組には期待できないのである。それは、いろいろな問題があるにしても、基本的なところで、政府−JR資本がおっている人々への責任を果たすようにしっかり圧力をかけられる批判・分析力をもった労働運動でなければならないのである。JRには外国からの投資が増えているというが、列車に乗りもしないで、ただ利潤を稼ぐために株式を保有しているだけの株主を優先し、その利益を計ろうとして、安全やサービスを犠牲にすることを許してはいけないのである。
階級的共同体を作り替え、共同体社会−共産制社会への転化を
国鉄分割民営化の破綻は明らかであり、道路公団分割民営化や郵政民営化などの小泉改革路線の破綻も明らかである。とりわけ郵政問題は、財投によって、国鉄問題とつながっているのであり、その責任は、政府−支配階級にある。ツケだけが、人々に増税や負担増や人員削減・不当解雇などの形で押し付けられるのである。国労の運命は、人々の生活とつながっているのである。
国鉄分割民営化では、中曽根の一人も首を切らないという約束は破られた。
民営化で先行したイギリスでは、今や列車が時刻通りに運行されるのを期待する方が間違いだとまで言われるほどダイヤの乱れが日常化し、事故が多発するようになり、設備の老朽化が問題になっている。
イギリスでは、サッチャー主義を修正した「第三の道」のブレア主義に転換し、アメリカでは、年金拡大が議論されており、ニュージーランドでも民営化路線は放棄された。日本では、「小さい政府」化が叫ばれているが、実際は、先進資本主義諸国の中ではもともと「小さい政府」の方であり、福祉や社会制度は小さい方なのである。もともと貧弱な福祉社会制度をさらに貧弱にしていこうというわけである。
人々をますます惨めな状態に向かわせているこのような資本制社会を根本的に変革しなければならないが、それには階級的共同体の変革が必要であり、共同社会の建設を基礎とする共産制社会への前進を押し進めていかなければならないのである。