共産主義者同盟(火花)

イラク情勢について(2)

渋谷一三
270号(2004年2月)所収


1. 帝国主義は「結果としての解放」勢力にもなれない。

イラクの米軍への抵抗戦は米国の意に反して継続し、情勢は米国にとって、泥沼化の様相を示している。このことは、何よりも雄弁に帝国主義がどのような大義名分を掲げようと、決して解放勢力にはなれないことを示している。
自衛隊が派遣されたサマーワの受け入れを見ても、治安からイヴェントに至るまで決定をしているのは部族長である。明らかに部族長の権力が復活しており、歴史的後退現象を示している。歴史的後退現象といっても、その歴史的役割は過去の役割とは異なることはいうまでもなく、その評価は軽々には出来ない。
ともあれ、米軍へのゲリラ攻撃は、フセインとは離れて持続しており、社会勢力的には拡大しているようだ。
こうした状況はアフガニスタンにおいても同様で、部族長を基盤とした軍閥支配に対する反感を背景に、イスラム原理主義を相対化しつつあるタリバンが、米・英・蘭軍への攻撃ができるまでに回復し始めている。
このことは、朝鮮民主主義人民共和国に関する情勢を考える上で、示唆的である。
一部に、とりあえず帝国主義によって潰されてもその方が朝鮮人民にとって良いとする考えが表明されている。確かにそうであろう。金正日政権は一日でも早く打倒されることが求められている。だが、仮に帝国主義が金正日政権を打倒したとして、餓死は改善されるのだろうか。直後の援助が続く間は改善されたようには見えるだろうが、食料不足は農業政策の根本的誤りの結果であり、農業構造の改革が完結するまでの5〜10年間は餓死者が出続けることになるだろう。では、この農業構造改革あるいは農業再建に帝国主義は取り組むのだろうか?これが根本的問題である。
米国はなぜ朝鮮民主主義人民共和国を即時攻撃しなかったのだろうか。アフガンを抱えているからか?否!イラク侵攻を敢行した。イラクの代わりに朝鮮民主主義人民共和国を攻撃することも出来たはずである。中国やロシアの要因があることは否定しないまでも、それはあくまでイラクと比較しての話であって、この程度の要因は、イラクに侵攻することに難色を示した仏・独・ロシアの反対要因と同程度のものでしかない。おそらく決定的要因は利権であり、とりわけ石油利権であろう。
アフガンの石油利権がブッシュの親族会社に一元的に付与されたことは、既に本誌で触れている。「イラク復興」に派兵しなかった諸国には「復興利権」を与えないという露骨な政策をブッシュが発表したことは記憶に新しい。ひるがえって、朝鮮を見るに、石油利権に匹敵するような莫大な利権はどこにも見当たらない。「復興利権」はあったとしても日本が中心になって甘い汁をすうだろう。だが実際は、韓国が尻込みするほどの莫大な「復興損益」が見込まれているだけのことである。米国にとっては朝鮮民主主義人民共和国がアル・カイダの基地にならない限り、長距離ミサイルの開発を阻止することと核弾頭の製造を阻止すること以外に、自国の安全保障上の利害も存在しない。簡単に言えば、朝鮮民主主義人民共和国を侵略しても旨みがないということだ。
 米国が朝鮮民主主義人民共和国に侵攻した場合、餓死者は一旦、一挙に膨れ上がるだろう。韓国が存在する以上、イラクのような米軍への抵抗戦争は起こりにくいだろうが、韓国が朝鮮民主主義人民共和国人民を飢餓から救い、農業再建を成し遂げるだけ余力があるとは思えない。
 以上、検討してきたことから、次の結論を得ることが出来る。
朝鮮民主主義人民共和国の非道な支配体制の打破を願うあまりに、米帝の侵攻を容認することは間違っている。

2.イラク社会の簡単な分析

 丁寧な分析をしたいのだが、あまりにも情報が少ないので、簡単な分析とするしかない。
(1) 部族社会
アフガニスタンにおいてもこの「部族社会」という用語が使われた。この用語はtribeの訳語である。誤訳ではない。が、誤解を生む。一般に「部族社会」というと、国民国家を必要としない市場規模の経済を基盤においた社会を指す。
 すると、サダム・フセインは封建的部族社会を一挙に「近代化」=国民経済形成するために、歴史それ自身の自然成長性に拝きすることを拒むことを強いられた必然として強権的に国民国家形成をせざるを得なかったヒーローということになる。こういう場合が有り得ることは否定しないが、事情は違うようだ。
 こうした誤解のすべてはこの誤った分析に基づく「tribe」という用語にある。部族社会ではないのである。Tribeが指すのは、地方経済を握っている謂わば地域ボスである。経済が地方単位で握られており、国民経済の規模になっていないかのように映るのは、米・英人がイスラムの商習慣を知らないからである。
 「利子を取らない融資」。これ一つをとってみても、自分たちを基準化してしまっている欧米人にはすでに理解不能の範疇に入る。商品に価格が付けられていず、交渉次第、相手次第で価格が変わることは、欧米人(資本主義に深く組み込まれた人々と言い換えた方が適切であろう)にとってみれば、不当であり、貿易外障壁であり、コスト計算をした上に競争を通して「適切」な利潤が上乗せされたのが商品価格となるのだという神話を信じている人々には、遅れたグロテスクな前近代的な代物と映る。
 イスラム圏は世界で唯一、上記のような資本主義的発想がまだ深くは浸透できていない地域である。とりわけイスラム原理主義が一定の支持を得ている地域においては、浸透してくる資本主義的発想・意識との半自覚的なせめぎ合いが自然発生している。その表れがイスラム原理主義となって表れるのである。
 なぜイスラム圏が資本主義の無意識に対して無意識に抵抗することができたのか?これは上記の商習慣と深く関わっている。
 商取引はイスラム社会においては、一面から誇張して見れば、行為そのものが生きている証であり、神聖な人と人との交わり・関わりの一部を構成している。商取引をいわば愉しんでいるのであり、良く言えば人と人との相互扶助であり、悪く言えばゲームを楽しんでいるのである。
 砂漠の厳しい気候風土と、それゆえ交易によって存立の基盤をはじめて確保できる強いられた生活様式。その生死に関わる交易を妨害する盗賊との戦い。こうした風土の中から生まれたイスラム教は、盗みを激しく否定し、盗みをなくしていく精神支配をする必要性に合致して支持された。精神面から支配したほうが、盗賊との戦いに武力で備えるよりも遥かに安い社会的コストになるからである。
 こうして交易ルート沿いにイスラム教は支持されていった。
 従ってイスラム教の特徴として、盗みへの厳罰、利子を取ることを盗みの一種とみなし忌み嫌う傾向など、キリスト教にはない傾向が備えられてきた。
 このことが、独特の商習慣を形成してきたし、キリスト教徒には地域経済しかないかのように映る経済を形成させてきた。だが、これは誤解というものである。イスラム圏はキリスト圏より遥かに以前から広域経済圏を形成してきたのであるし、まさにこの広域的交易の経済的基盤の上に、そしてその必要性に立脚してイスラム教は成立してきたのである。
 結論。「部族社会」という用語は誤りである。
 筆者も前稿まで、この「部族社会」という分析用語に足をとられてきたが、疑問に思い調査研究をした結果、上記の結論に辿り着くことが出来た。以下、部族社会という用語を使わずにイラク社会を描写していくこととしたい。 

3.

 社民・共産(以下、社共と略)は、一切の派兵を認めない憲法9条を守れを選挙スローガンに採用した。米国の侵略戦争には声高に反対することも出来ずに、選挙になったら突然護憲を叫び出した始末である。
 当然のことながら選挙には負けた。
 米国に追従する以上は金だけではなく人も送るべきだと主張するのが自民党。追従するにしても国連という範囲内に限定すれば米国追従の程度は格段に下がると主張するのが民主党。国連中心主義を隠れ蓑にする限りは、自衛隊の「人道」支援に限っては憲法9条は禁止していないとする解釈まで作り上げて憲法9条を守って見せているのが小沢さん。
 こうした政党のそれなりの現実主義と努力に対して、憲法9条を守れと叫ぶ限りは9条を守ることの現実性を打ち出す努力が最低限必要である。だが、社・共はこの努力を一切せずに、むしろ帝国主義内部の一国主義(海外からの搾取収奪現実に目をつぶり)からする既得権としての平和を守れとでもいうべき位置からの「護憲」には何ら説得力はない。
 喩えて言うなら、強盗・窃盗を生業とする家庭に育ったこどもが親の生業を知らずに強盗や泥棒から家庭を守ろうと呼びかけているようなものだ。
 憲法9条遵守を言うならば、ヨーロッパ共同体と同様のアジア共同体の形成を言い、各共同体の連携から新しい国際共同体の形成までを構想として語り、この実現に向けた政策
の一貫性を保持し、それまでの過渡期としての自衛は認めるなどの構想が必要である。特に共産党は自衛については認め、仮に共産党が政権を取った場合でも自衛隊を即時解体はしないとまで言っている以上、過渡期の自衛を日本共産党軍創設までの過渡期としてではなく、上記のような政治的一貫性をもった過渡期に位置付けて言うべきである。上記の構想は例えばの話であって、筆者の主体的物言いではないのは言うまでもない。
 それがどのような構想であれ、例えばアジア共同体の形成一つを取っても、日本が帝国主義としてアジア各国を食い物にしている現実を放置していては一歩も先に進まず、帝国主義について自覚させてくれる機会にはなる。
 だいたいが、社会何某、共産何某を名乗る政党に搾取や帝国主義についての初歩講座を始めなければならないほどにこの国の城内平和主義ぼけが進行しているのが情けない。
 自らのスローガン「護憲」にしてすら、政治的一貫性や現実性の提示まで煮詰めて真剣に考えてはいないありさまで選挙に勝てるわけもない。土井元党首に至っては「護憲」に投票しないことが大衆の愚民化であるかのように嘆いてみせ、自らを省みることすら出来ず、結果として憲法改悪阻止の運動や意志を踏みにじる役割を果たしてしまっているのだから、退場願う以外にはない。社民党が敗北したのは「護憲」を打ち出したからではなく、まじめに「護憲」すら打ち出さなかったからである。
 民主党は無理としても、共産党や社民党はイラクへの米国の侵略を不正義の戦争として打ち出し、自衛隊派兵反対を貫くべきであるが、これらの政党の反対論は小泉同様の危険論からでしかない。挙句の果ては、自衛隊の家族の心配などと何時から自衛隊を認めたか分からぬ混乱ぶりの平和主義なのだから、どうしようもない。

4.派兵を支援と言い換えて見せることの欺瞞

 米国は韓国に対し、数万規模の派兵を「要請」している。朝鮮民主主義人民共和国の軍事的脅威から守ってあげているのだから応分の負担をせよということである。ノ大統領は苦渋の選択として3000人の派兵を打ち出したが、国内からは3000人という米国の要求を10分の1に値切った規模であってすら激しい反対を受けている。
 日本は金を出しているから、当てにしていませんよ、出すなら出すで自民党の政治に取ってそれが好都合ならばそうすればよいとラムズフェルドに15日お墨付きあるいは三行半をもらっている。
 その通りなのだ。
復興に人員がいるのならばイラク人を雇うことが雇用の創出や経済の再建に役立つ。外国の軍隊など逆効果で要らぬおせっかいというものだ。全く紐のついていない利子もついていない金を貸してくれるほうが余程助かるというものだ。金をだまってくれるというなら、望外の喜びというものだ。
だが、日本は総額12兆円にも上る金を戦費として米国にあげている。それも無利子ローン以上の、「望外の」、差し上げるという形で。これにより米国は経済的負担なく戦争が出来、利権を獲得できる。米国内の軍事産業をはじめ関連する諸企業は潤う。日本の金は米国の好戦的侵略的体質を完全に支えており、日本の金が世界の無辜の民を殺戮するのに「役立っている!」
日本がしなければならない国際貢献は米軍の戦費を出さないこと。これが、第1である。
次に、人道的支援などという詐欺的言辞について。
この章の冒頭で述べたように、復興に人手がいるのならイラク人がするのが最も良い。それでも足りなければイスラエルに締め出されているパレスチナ人を高給(海外派遣手当・危険手当でもつけて)で雇用するという方策も考えられる。そうしないのは、そうできないからである。そうできない理由の第1は、パレスチナ人やイラク人の幸福を願って「圧政」から「解放」してあげたのではないから、これらの人々の利益にしかならないことにただ金をあげるなどとは思いつきもしないこと。第2は、危険だからである。
侵略軍に安全な地域などあろうはずがない。だからこそ、軍隊を派遣するのである。軍隊を派遣するのに丸腰ならば軍隊という形式で派遣する意味などない。実際にあるのは命を賭けてイラクに敵対するのか、命を賭けて米軍の侵略戦争に加担するのか否かという選択しかないのである。
米軍の侵略戦争が正義の解放戦争だと思い込んで、初めて命がけで復興作業に取り組めるのである。さもなくば、はっきりと、帝国主義的利益のために命を賭けると現実認識することである。
資本家階級は自らのよこしまな利益のために自階級の子息を投入すべきだが、絶対数が圧倒的に足りないばかりか、死ぬことなど、最も大切な利益を捨てる本末転倒なのだから、思いもよらないことなのだ。したがって、大衆を欺き戦争に動員するために正義の戦争と言い立てているにすぎない。
かりそめにも大衆の政党、国民の政党と名乗って自民党に反対する政党は、正義の戦争と言い立てるこの欺瞞を暴露して、大衆が資本家階級のために死に、また、殺すことを阻止しなければならないのだが、「人道支援」なる偽りのための言葉に無批判に乗っている。

5.

 イラク、そして国際的イスラム組織の米軍への攻撃は今後拡大していくであろう。米軍はベトナムに続いて泥沼を経験することになる。泥沼の度合いはベトナムほどにはならないだろうが、すんなりと傀儡政権を樹立し撤退をはかることは不可能である。
 殺人鬼ブッシュもこのことを認めざるを得なくなり11月16日、速やかに政権を委譲できるように努力するが、政権移譲後も米軍は撤退しない、と声明している。
 そう、傀儡政権樹立自体は難しいことではない。だが、そんな簡単なことすら6ヶ月以上経った今でも出来ていない。考えにくいが、米軍の掃討作戦が功を奏したとしても、米軍が撤退すればその途端にゲリラ活動が活発化し、あるいは即座に傀儡政権が打倒されてしまう。これでは石油利権の恩恵にあずかることはできず、何のために侵略したか分からなくなってしまう。米軍は4〜5年以上、イラクに駐留せざるを得なくなっている。




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