共産主義者同盟(火花)

イラク解放闘争、国際反戦運動、イラク侵略戦争の現状等について

流 広志
268号(2003年12月)所収


イラクへの自衛隊派兵決定の狙いと問題について

11月29日、ティクリートでの復興支援会議に出席しようとした二人の外交官が殺害された。日本政府は、彼らの遺志を無駄にしないとして、イラクへの自衛隊派兵の方針を変えないことを表明した。そして、12月9日、ついに、小泉政府は、イラク人道復興特別措置法(以下、イラク特措法)にもとづく、イラクへの自衛隊派兵の基本計画を閣議決定した。同日夕方の小泉総理の記者会見は、日米帝国主義同盟を最優先する日帝の意思を露わに示すものであった。
イラクへの自衛隊派兵は、アフガニスタン侵略戦争時の対テロ特措法にもとづく海上自衛隊のインド洋派遣に続いて、日本国憲法体制を逸脱した海外派兵である。小泉政権は、この法案を成立させるために、「非戦闘地域」なる概念を作り上げた。
小泉首相は、11月25日の衆議院予算委員会で「非戦闘地域に復興支援、人道支援のために自衛隊を派遣すべきときは派遣する。その際に、どこが非戦闘地域かということについては、調査団の報告というものをよく見きわめて最終的に判断いたしたいと思います」と答えていた。『朝日新聞』によれば、この調査団報告書は、イラク南東部は「比較的安定した地域だが、襲撃などの可能性は存在。フセイン政権残党は南東部に浸透しようとしているとの見方もある」と指摘。サマワとその近隣は「治安は安定。住民は不審者を通報するなど警察に非常に協力的。CPA(米英暫定占領当局)関係者らも夜でも安心して町を歩ける」と評価したという。しかし、「非戦闘地域」という概念は、12月9日の基本計画閣議決定後の記者会見ではまったく口から出なかった。
その代わりに、首相は、「私は治安状況が悪い中でも活動できる分野がある。その際には安全面も十分配慮できる。一外交官、一民間人では安全面について不安があって活動できないけれども、自衛隊なら、そういう安全面、危険を回避する手立てを講ずることができる。だからこそ自衛隊派遣を決断し」たと述べた。
そして、かれは、日本国憲法前文から、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」という部分を引用し、「まさに日本国として、日本国民として、この憲法の理念に沿った活動が国際社会から求められているんだと私は思っております。この憲法の精神、理念に合致する行動に自衛隊の諸君も活躍してもらいたい。これは大義名分にかなうし、我が国が自分のことだけ考えているのではない、イラクの安定、平和的な発展というのはイラク自身にとって最も必要だし、日本国にとっても必要であります。世界の安全のためにも必要であります」と自衛隊派兵の意義を強調した。さらに「日本国民の精神が試されている」とまで言った。
しかしながら、この理念達成のための手段については、憲法第九条に、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定され、第二項には戦力放棄が明記されている。小泉総理は、日本国が国家として戦争をすることはないしそのための戦力は持たないが、人道目的のための戦力は持ってよいというのである。また日米同盟と国際協調の外交の二本立方針は、日本が国際紛争解決のための武力行使や戦争はしないが他国については容認することを意味している。

『国連憲章』第7章平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動第39条は「安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する」としており、国連による戦争は、「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」に対するものである。したがって、このイラク戦争は、大量破壊兵器による平和に対する脅威の除去というブッシュ政権が当初に掲げた目的が正当ならば国連憲章の戦争目的に合致する。しかしこれは法ー形式論であって、この戦争はその内容において侵略戦争である。
小泉総理は、10月6日の参議院「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会」で、「イラクの復興に対しまして、大義がなかったのではないかとかいう御指摘がありますが、私は、イラク国民、反米感情だけではないと思っています。やはり、フセイン政権時代に苦しめられたと、この戦争がなかったら相変わらずフセイン政権に大きな苦痛を与えられたんじゃないかと思っているイラク国民もたくさんいると思います」と、米英などによる対イラク戦争の正当性、大義を、フセイン政権の人民抑圧の除去だと述べている。いつの間にか戦争の大義が変わってしまっているのである。かかる国際社会と日米同盟の間の矛盾に悩まされてきた小泉総理であるが、イラク復興支援を求めた10月16日の国連安保理決議1551号の全会一致の採択によって、人道復興支援での国際貢献という大義名分を得たことにより、やや助けられた格好となった。
石破防衛庁長官は、9・11事件の際に、ブッシュ大統領が、「これは戦争だ」と叫び、アメリカはテロとの戦争を戦うと宣言し、最近も、イラクを対テロ戦争の戦場だと言った。かれはそれを日本独自の法の定義の問題にすりかえた。アメリカはイラクは戦場だと言っているが、石破防衛庁長官は、戦闘の定義は、「国または国に準ずる組織による組織的、計画的な武力行使」だが、テロはそうではない、イラクではテロはあるが戦闘はなく、したがって戦場ではない、イラクには「戦闘地域」か「非戦闘地域」か、そして両者が安全か安全ではないかという区別があるだけというのである。戦場に行くわけではないし戦争しに行くのではないから自衛隊派兵は合憲というわけである。そしてテロ攻撃があってもそれは戦闘ではないから自衛隊は活動を継続できるというのである。「非戦闘地域」がどこかは、防衛庁長官がまとめる実施要項ができるまでは答えられないとしている。
小泉総理は、日本国憲法前文の一部を持ち出すことで、自衛隊派兵が国際社会の意思と合致する国際貢献になることを強調したのだが、自衛隊という武装した部隊によってしか人道支援ができないというのは、政府が戦闘行為を想定していることを意味しているのであり、「戦闘地域」「非戦闘地域」という区別自体を政府自身が信じていないことを表している。イラク戦争の大義もイラク特措法の規定も変わり、憲法も実質的に変わってしまった。言葉は同じまま中身が変わってしまったのである。日帝は、法を超越した独裁権力という正体をあからさまに示したのである。
首相が先の記者会見で引用した憲法前文には、全世界のあらゆる人々がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有するのでなければならないとある。人道はこういう抽象的で普遍的な理念だから、ここからは「イラク人のために」という特殊具体的な目的は出てこない。そこで小泉総理がやったのは、本気度をアピールすることだ。しかし、イラクに自衛隊派兵をしなければならない具体的な理由が出てこないことに変わりはない。このアピールに感動したという奇特な人もいるようだが、多くの人々はもはやだまされない。それは、この説明に納得していない人が、13日に発表されたフジテレビ系の世論調査で62%、15日発表のテレビ朝日系の世論調査で72%あることで明らかだ。大量破壊兵器の脅威の除去という「戦争の大義がない」(加藤紘一自民党元幹事長)ことが大きい。

米英日帝国主義連合の狙いなど

11日、アメリカ政府は、約2兆円のイラク復興事業費の元請け契約から、フランス、ドイツ、ロシアなど、アメリカの対イラク侵略戦争連合に参加しなかった国々の企業を排除する方針を発表した。ブッシュ大統領は、「米国および連合国の人たちは自分の生命を危険にさらしている。契約はそれを反映したものになる。米国の納税者が期待していることだ」(『毎日新聞』)と述べた。当初から、イラク戦争を支持し、資金供出し、さらに自衛隊派兵を決めた日本は、復興事業の契約にありつけるチャンスを確保できたことになる。対イラク戦争をめぐって政治的に分裂した米英連合と仏独露などとの間の対立は修復できていないことがさらけ出された。
日米欧などのパリクラブは、19カ国のイラク向け公的債権額を初めて公表した。それによると、2003年1月1日時点の債権額合計は210億1790万ドル(約2兆4800億円)。日本は41億860万ドル(遅延損害金を加えると総額70億2700万ドル(8389億円))で会議参加国の中で最も多かった。ロシア(34億5000万ドル)。このため日本が最大の債権国になった。以下、フランス(29.9億ドル)、ドイツ(24億ドル)。イラクに対し、2004年末まで債務の支払いを求めないことでも合意した。パリクラブ以外の湾岸諸国・クウェートなども多額の対イラク債権を持っている。アメリカは対イラク債権をあまり持っていないため、他国に債権の減額・放棄を求めており、それもアメリカとロシアなどとの対立点となっている。多額の対イラク債権を持つ日本にとって、イラクの経済復興が大きな利害となっていることがうかがえる話である。むろん、復興ビジネスに群がっているのは、日米英だけではなく、戦争に反対した仏独露も同じである。
12日の『毎日新聞』の「発信箱」で欧州総局の岸本卓也氏は興味深いことを書いているので長いが紹介したい。氏は冒頭でカナダのクレティエン首相の「あの程度の独裁者はどこにでもいる」という発言を引用し、「石油資源と独裁者の組み合わせが危険ならば、油田開発が進むアフリカの産油国も心配だ」として、赤道ギニアの例をあげている。
人口50万人ほどの小国が10年ほど前からアメリカの石油資本による油田開発を始めたが、いっこうに豊かにならない。世界銀行の試算では昨年だけで7億ドルの石油収入があったはずだが、その富は24年にわたって支配するヌゲマ大統領は石油収入を国家機密として公表していない。ヌゲマ大統領は、「石油の権利を握るのは私だけだ」と豪語し、野党幹部をつぎつぎと拘束し、200人以上が行方不明だという。ヌゲマ大統領は、ブッシュ大統領を「友人」と呼んでいる。アメリカの原油輸入量の15%をアフリカに依存し、さらに10年後には25%に達する見込みだという。
最後に、氏は、ブッシュ大統領が訪英して「独裁者を利用した方が都合が良いからという理由で独裁者を優しい人間と思い込んではならない」と警告したことをあげて、「米大統領の方こそ、「友人」の中に独裁者がいないか点検すべきではないのか」と述べている。

国際反戦運動の動向とプロレタリアートの任務

10月25日、アメリカのANSWER連合が呼びかけた世界反戦統一行動に応じた世界各地での反戦運動は、開戦前に比べれば規模の小さなものであったが、アメリカでは、『ワシントンポスト』紙が伝えるところでは、ワシントン大行進に主催者発表10万人、警察推定約5万人が参加した。参加者は、イスラム系グループやアフリカ系アメリカ人、退役軍人、兵士の家族、など多様な人々であった。スペイン語、朝鮮語、ウルドゥー語、ヘブライ語、アラビア語、タガログ語、などの横断幕が見られた。サンフランシスコ、ロンドン、など数万から数千の規模の世界同時集会デモが行われた。日本でも、東京・大阪・京都など全国で集会デモが行われた。さらに、イギリスのロンドンでのブッシュ訪英反対反戦集会デモは約30万人を結集した。
ANSWER連合はすでに来春の国際反戦行動を呼びかけている。これは米帝の政治スケジュールに合わせて運動をつくるのではなく、あくまでも運動側のイニシアティブを発揮しようという主催者の考えの現れなのだろう。
日本の反戦運動では、アナーキスト系の路上レイブデモが参加者数を増やしており、また、自衛隊派兵基本計画発表を受けてようやく全労連、全労協、連合などの労働組合のナショナルセンターが動員する大規模反戦集会が組まれるようになってきた。
14日、フセイン元大統領は、故郷のティクリートで米軍に拘束された。それを喜ぶ一部のイラク人の間に赤旗がひるがえった。16日のTBSの「ニュース23」は、これをイラク共産党系の人々と示唆している。
これによって旧フセイン派の志気を多少削がれるかもしれないが、影響は限定的なものだろう。発表された潜伏情況では、かれがこれまでの数多くの米英軍への攻撃を指揮・指示できたとは思えない。14日の米軍第4歩兵師団オディエルノ少将は、記者会見で「元大統領が武装勢力全体に影響力を持っていたとは考えられない」と述べている。
イラク人の多くが占領体制への不満は、70%におよぶと言われている失業や生活苦、そして占領軍が掃討作戦において新たに生み出されている犠牲者の増加、米英軍などが投下したクラスター爆弾の二次被害で1000人を超えるイラク人の犠牲者が出ていること(国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」による)、などが背景にある。この占領統治下での人々の貧困や生活苦や苦難が収まらない以上は、占領体制に対するイラク人民の自己解放闘争は続くだろう。
自由な集会デモは占領当局の治安力が弱かったために可能だった。しかし、失業者のデモに米英軍が発砲し死傷者が出すなど、占領当局は、無政府状態でどうしようもなく規制できなかった自由を抑圧し攻撃できる体制を整えつつある。当局は許容範囲を狭め、弾圧・締め付けを強めているのである。11月23日と12月14日、占領当局は、失業者運動・労働運動を弾圧、活動家を逮捕し事務所を破壊した。これは、占領統治の実態が、イ ラクのプロレタリアート人民への新たな抑圧支配であることを示す事例である。

自衛隊派兵の基本計画では、陸上自衛隊(600人以内、装輪装甲車、軽装甲機動車など車両200両以内、拳銃、小銃、機関銃、無反動砲、個人携帯対戦車弾)の任務は、サマワなどのイラク南東部で、医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備など、航空自衛隊(Cー130などの輸送機など航空機8機以内)は、クウェート、イラク両国内の飛行場間で人道関連物資などの輸送、海上自衛隊(輸送艦、護衛艦など4隻以内)は、陸自の隊員や装備の日本からの輸送、となっている。
サマワが治安が良いならば、活動は民間のNPOや現地企業や住民で十分できるような土木建設などの作業である。報道によれば、現地の人々も、そうしたことを期待しているようであり、軍隊は来て欲しくないという声も聞こえるという。サマワは、シーア派住民が大部分で、族長の代表者による評議会によって統治されていて、氏族制が治安の基礎をなしている共同体社会のようである。そこで連日のように失業者のデモが起き、最近、これをオランダ軍が実力で鎮圧した。イラクで最も貧しい地域といわれるサマワで人々が求めているのは、仕事であり、生活苦からの脱却である。
一部のNPOからは、イラク人自身による復興を助けるべきで、自衛隊派兵はその妨げになるという批判の声が出ている。復興は、できるだけイラク人を主にして行われるべきであり、それを支援すべきだというのである。危険だから軍隊に守られながら復興支援をするというのではなく、現地の住民との間に信頼関係をつくり、できるだけ住民に仕事を任せることで危険を減らすというのである。まっとうな意見である。
イラクへ軍隊を派兵しているのは約30ヵ国にすぎず、また、カザフスタンなどの旧ソ連圏や中南米の小国が多い。派遣人数が数十人規模の国も多く、日本が派遣しようとしている数百という単位の人数は、多い方である。すでにドミニカ共和国は来年の早い時期での撤退を決めている。
イラクの特権を奪われた支配民族であったスンニ派イラク人の不満が強まっていることが、いわゆるスンニ派トライアングル地域における米英などの占領軍への攻撃を支えているらしいこともわかってきた。また、フセイン政権によって弾圧・抑圧されてきた最大のシーア派住民の中にも占領軍の撤退を求める声が強くある。シーア派内の内紛もある。共産主義者の活動も活発になってきているようだ。例えば、イラク労働者共産党は、失業者運動と全国的労働組合運動の組織化と闘いを押し進めている。
米英帝国主義によるイラク侵略戦争にはそもそも大義がない。占領からの解放を求めるイラク人民の解放闘争に連帯し、この侵略戦争と占領から石油などの利益を得ようと手を結び合っている自国帝国主義打倒闘争を発展させねばならない。またプロレタリアートは、イラクーアラブプロレタリア人民の社会前進をはかる闘いを公然とまた力強く支援できるように社会変革していく必要がある。それが焦点となっている自衛隊派兵反対運動の中で追求すべき質である。それはもちろん全世界のプロレタリアートとの連帯の一環である。




TOP