共産主義者同盟(火花)

2003年の情勢と日本経済

渋谷一三
257号(2003年1月)所収


1.

 米国は再びイラクへの侵略・干渉を開始し、軍事攻撃の機会をうかがっている。口実は大量破壊兵器をイラクが製造貯蔵しているとのものだが、イラクは今回、不当な査察ではあるが、国連の査察を受け入れ、戦争の災禍から自国民を守っている。
 生物兵器にせよ、化学兵器にせよ、核兵器にせよ、米国はその全てを圧倒的規模で製造・備蓄している。国連は米国の大量破壊兵器の査察を実施し、これを全世界に公開すべきである。これは不問に付して、イラクの生化学兵器を侵略の口実にしたり、朝鮮民主主義人民共和国の核を問題にするのは、世界平和を希求するからではなく、米国世界支配を持続させるためのものであることは、自明である。
 であるからこそ、かつてのベトナムへの侵略・反革命戦争反対ほどの盛り上がりはないにせよ、米国の侵略戦争に反対する声は、前回よりは大きくなっている。
 この反戦の国際世論の動向もあって、米国はなかなか開戦することが出来ないでいる。イラクが米国の侵略に晒されるか否かは、この国際世論の動向に大きく関わっている。

 他方、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮あるいは北と略)の核開発問題に至っては、北の即時崩壊を恐れる南の意向もあって、韓・米・日の間に齟齬が生じている。この3国とも原発を何基も保有しているのだから、北の原発に対して査察を受け入れろなどと言う資格はない。北の核のみが脅威であって、米国や韓国の核が脅威でないなどということは全く有り得ない。
 日本の人民は原発反対の立場から、やはり北朝鮮の原発にも反対する。また、もし、北が核ミサイルを開発するのであれば、これは脅威であり、抑圧され苦しんでいる北の人民への抑圧と闘う上でも、これには断固反対する。全ての核兵器廃絶の立場から、米国への核査察・大量破壊兵器の査察を要求する。
 この点で韓国での反米感情の高まりは尊敬すべき運動の発展である。これは、決して北の「反米統一戦線」構想などに騙される質では有り得ない。それではここまでの運動の発展は勝ち取れなかった。

 アフガニスタンでは駐留米軍への50回に及ぶ攻撃を敢行したゲリラ部隊を組織している組織が誕生している。

 米国が、かくしてまで世界支配を貫徹しようとしている動機は、経済が地球規模化しその多くの利権を米国が享受しているという現実を反映したものである。その経済の動向も変化してきている。
 かつては「戦時のドル買い」と言われ、戦時にはドルが急騰したものだが、昨今は戦争に嫌気をもよおし、ドルが下がるという傾向が定着した。
 これには二つの原因が考えられる。
 その一つは、軍需景気というものが無くなったことである。兵器は計画的に生産されており、その意味では平時に組み込まれている。さらに米国の戦争の周期を考えると、生産された兵器の耐用期限切れ前にその兵器を実戦で使用してしまうという、「効率の良い」戦争の仕方をしていること、これが戦時特需を生まなくなっている原因だろう。
 だが、それだけではドルが下落する原因にはならない。
 第2の原因がより大きな比重をしめているのだろう。
 米国の戦争が侵略戦争であること。しかし、新植民地主義の侵略であるがゆえに、領土を占領することはなく、ただそれを米国を中心とする市場に組み入れるだけのことである。このことから、費用対効果を考えると、戦費の負担が国家財政に与える影響の方が遥かに大きいと市場が判断していることを示している。
 この市場の判断は間違っていないだろう。さらに、他の帝国主義諸国にとっては利権のおこぼれに預かるには「応分の負担」の方が大きく、戦時のリスク負担の方が大きい。
 かくして、米国の戦争は帝国主義諸国の経済界からすら忌避されている。

2.

 日本経済は完全にデフレに陥っている。政財界の一部にはインフレを人為的に起こそうとするインフレ・ターゲット政策が真剣に論議されている。しかし、史上、インフレ・ターゲット政策が成功したことは一度もない。
 その理由は簡単だ。日本の為替レート換算した賃金は高すぎであり、米国と比べてすら国際競争力を持たない。すでに、日本企業の多くは海外に生産拠点を持ち、そこで生産したものを日本に輸入するようになっている。これは、工業に限ったことではなくなりつつあり、今日農産物の多くもこの傾向を示している。であってみれば、日本の労働者の平均賃金が、賃金×生産性の総量で後進国の労働者と同一の水準に下がるまで、デフレは進行する以外にない。円安に振れさせることが出来れば、賃金×生産性の総量は比較的早く後進国並みになることが期待できるが、ドル安の進行で円安になることすら出来ないでいる。

 これに反して、中国は昨年度7%の経済成長率を記録し、あのアジア通貨危機でひどい目に会った韓国すらも3%の経済成長を遂げた。台湾も3%であり、インドも経済成長を遂げている。アジアでマイナス成長なのは日本だけなのである。

 EUに対抗するAU、すなわちAsia Unity=アジア共同体の可能性について論じている雑誌を目にしたが、その可能性があるとすれば中国がヘゲモニーを取ることになるだろう。
 今日、中国は豊富な安価な労働力だけではなく、大企業を支える部品生産部門の企業の技術水準まで、先進国にほぼ追いついた。例えば自動車産業を見ると、世界の主要自動車組み立て企業のすべてが中国に工場を持っている。逆にいえば、これを支える下請け企業群の技術水準が、どの自動車企業の要求にも応えられるようになっていることを示している。日本は、この自動車企業だけを取ってみても、すでに中国に抜かれている。ベンツやフォードやクライスラーの組み立てラインは日本にはない。
 高くなりすぎた賃金と天皇制が邪魔になって、日本のヘゲモニーに協調する国は現れない。日本が提案する限り、大東亜共栄圏の構想の下に実際は日本軍による侵略が行われた歴史が想起されるのであり、天皇制を廃棄していない以上、日本が変わったとも歴史的反省をしたとも受け取られようはずもない。
 AU構想に日本経済の活路を見出そうとする考えも、実現することはない。




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