共産主義者同盟(火花)

米国への同時多発突撃にみる帝国主義の論理破綻(4)

渋谷一三
244号(2001年12月)所収


1.急進民主主義派は、オサマ・ビンラディン支持を打ち出した

 これは、第三稿で日本共産党を批判したことと全く同じ土俵の裏返しである。

 日本共産党はテロ反対を掲げることによって、帝国主義がテロ反対を掲げることによってどのような利権を守り、どのような利益を挙げているのかを暴露することに失敗するどころか、暴露する道すら塞いでしまった。

 この狭さを突破しようとするあまりに、急進民主主義派は、「テロ」支持を掲げてしまった。その結果、日本共産党と同様に、今回の「反テロ」戦争の狙い・結果として手にする利益の分析・暴露の道を塞いでしまっている。

 この路線から出てくるのは、論理上、ビン支援の軍事行動を自ら組織することであり、ビン支持の論理展開をすることであり、ビンの下に大衆を獲得する活動を行うことである。

 現実にはアルカイダほどに「実力行動」を行うことはできず、かつて日本赤軍が目指したような、そうすることによって自らの軍事を手にするといった路線化も出来ないだろう。この路線は重信さんの帰日によって最終的にその敗北を宣告されている。

2.21世紀の戦争なのか

 ブッシュは「これは21世紀の新しい戦争だ」と宣言したが、決して新しくはない。経済の「グローバル化」によって、米国標準が世界に強制されたが、この進展とともに、米国はLIC戦略・LIW戦略を打ち出した。70年代後半のことである。

 LICとはLow Intensity Conflict(低強烈度戦闘)の略、LIWとはLow Intensity War(戦争)の略。ベトナムへの侵略戦争の敗北後に打ち出された戦争形態戦略である。謂わば、深入りせずに反革命を行う戦争形態のことであり、フィリピンの新人民軍に対する爆撃や暗殺などを行い、スパイを送り込むことによって内部に疑心暗鬼を生ませ、遂にはCPP(フィリピン共産党)を壊滅状態に追い込むことに成功した。

 この成功こそが、その後のイラン、リビア、イラクなどに対する直接に帝国主義の権益を守るための軍事介入を連続させる動機にもなり、この成功こそが、貿易センタービルへの報復テロを生み出した主要な原因なのでもある。

 新しくもなければ、21世紀型でもない。他ならぬ米国が打ち出したLIC/LIWの直接的結果であり、その延長である。もし、アフガンを国家ごと壊滅させることに失敗すれば、ベトナム戦争後の米国の軍事戦略をかたどってきたLIC戦略の抜本的見直しを強いられることとなる。米国としては、帝国の「繁栄」を維持しその没落を先延ばしするためには是が非でも勝利しなければならないのが、今回の「反テロ」国家テロなのであり、国家テロが戦争形態をとっているだけの話である。

 したがって、ベトナム戦争時にその性格を巡って日本の新左翼が規定した「反革命・侵略戦争」という規定は、ここでは当てはまらない。直接に米国の帝国主義的権益を貫徹する戦争であり、帝国主義戦争である。

 日本の帝国主義政府はここに共通の利害を見出しているからこそ、断固とした態度で米帝擁護を打ち出したのであり、事実、自らの武装を数歩政治的に前進させた。今回のことで小泉支持が低下したとはいえ、いまだ世論調査に乗る階層の中では60%近くの支持を与えている日本国民がいるということは、帝国主義の政治がこのことを通じても反対派に勝利しているという事実を示している。帝国主義反対派の宣伝・煽動が帝国主義派の宣伝・煽動に負けているのである。この事実を重く受け止め、暴露を強化し、ブルジョアジーの側からの宣伝戦に勝利しなければならない。

3.アフガンの壊滅の意味すること

 どうして、ほぼ無抵抗に近い状態でタリバンが米国に敗北したのかは、分析出来ていない。パキスタンの支援を受けたとはいえロシアの支援をうけていた北部同盟に勝利したタリバンが、かくもあっけなく敗北した原因に推測はつくとしても分析は出来ていない。

 いずれにせよ、タリバンは壊滅した。

 この不様な敗北によって、前稿で引用した「平和主義者の無力」は一層決定的になったかのように見える。確かに宗教的背景からものを言う米国の平和主義者にとってはそうかもしれない。今後、これらの人々が発言しなくなっていくようであれば、深刻に総括していかなければいけないだろう。だが、多くの平和主義者の発言は非戦ではなく、内に米国への反感を秘めており、したがって今回の戦争に限定して具体的に反戦を主張している。これは、全ての戦争に反対する非戦論者とは異なり、帝国主義への反感を論理的表現に高めていく営為によって、現代世界の分析へと発展していく回路を保っている。

 だが、中途半端な非戦論は、確かに米国の圧倒的勝利の下に、吹き飛んでしまったこともまた事実である。米国は今回の軍事的・政治的勝利を謳歌するであろう。

 実際、ビン・ラディン(およびいつの間にかオマル師も付け加わって)を意図的に匿った国家はアフガンのような運命を辿るであろうと口走るに至っている。

 米国は非戦論者に極めて本質的な教訓を与えている。軍事は政治の延長であり、国際的に支持を取り付けさえすればある一国の国家主権など踏みにじってもいいのだという極めて正しい教訓がその一つである。

 国家主権という概念は、民族国家を外皮とする資本家階級のための支配装置=国家を必要とする資本主義特有の概念であり、国家主権の尊重という概念も同様に資本主義の概念である。資本家階級は必要とあればそんな自らの概念すら踏みにじってしまう健全な現実主義を保持していることを満天下に示してしまった。ABM条約からの一方的脱退もこの現実主義をあからさまにしてしまった。パンドラの箱は開けられ、外皮がはがれ、剥き出しの帝国主義が見えやすい良い時代に突入した。 

4.開けられたパンドラの箱がもたらす激動

 「テロリストを匿う国家は国家毎破壊してよいのだ」という現実主義を論理として確立してしまった米国は、パキスタン、イラン、イラクへの侵攻も射程に入れ始めた。いわゆる歯止めのきかない暴走状態に入った。

 イスラエルは早速この論理を自らに適用し、パレスチナ自治政府を非合法組織と認定(!)し、パレスチナごと壊滅させ最終的安定を得る道を選んだ。確かにそうではある。パレスチナの民族をホロコーストしさえすればパレスチナ人民の蜂起に悩まされずにすむというのは真理ではある。

 よかろう。唯一イスラエルの存続を同情させたホロコーストをみずから行うのであれば、世界人民の総反撃に出会えることを教えてあげなければならない。ユダの民が再び労働党政権を選び、パレスチナ人民との共存の道を探る可能性はむしろ高まってはいる。しかし、米国がこのイスラエル政権の姿勢を生ませたことは厳然たる事実であり、そのイスラエルに対して何も言えなくなってしまったのもまた事実である。

5.国家テロに反対し、世界的規模での帝国主義の抑圧から人民を解放することこそが唯一有り得る解決法である

 貿易センタービル突入のような軍事行動は取らないことをくどくど説明する必要はない。だが、米国をはじめ帝国主義各国が世界の人民を抑圧する上に成り立っている以上、今回のような「おそるべき」「テロ」に遭遇し続けるしかないのもまた真実である。それを「恐れる」あまり、正確に言えば恐れた振りをして軍事的抑圧を強化する、今回のアフガン人民のような犠牲が累々と続く帝国主義の国家テロもまた累々と続く。

 こうした歴史には終止符を打たない限り終わりは来ない。

 全ての日本人民、世界人民のこうした歴史に終止符を打つ作業に断固とした尊敬の念を集め、壮大な事業として獲得していこう!




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