共産主義者同盟(火花)

9・11事件を利用した帝国主義戦争に反対する

流 広志
242号(2001年10月)所収


9・11事件の性格とその背景

 9月11日,4機のハイジャック機が,世界貿易センタービルに2機,ワシントンの国防総省に1機,残りの1機が地上に激突し,世界貿易センタービルが倒壊した。その犠牲者は5000人を超え,その多くがいまだに行方不明である。この衝撃的な9・11事件に対して,アメリカ政府は,早い段階で,ウサマ・ビンラディン氏と彼の率いるアルカイーダの関与を指摘した。ブッシュ大統領は,テロ一般を非難して,「これは自由に対する攻撃であり,正義と善に対する不正義で邪悪な犯行であり,テロというよりも戦争である」と叫んだ。アメリカは,テロを暴力一般と同一視せず,善なる暴力と悪なる暴力を区別して,後者のみをテロと規定し,善悪,正義・不正義の価値判断をしたのである。しかし,アメリカの自由とは,自己が信奉する価値の自由のことであり,それを他者に押しつける自由であり,自己が世界で自由に振る舞う自由であり,それを邪魔する者を邪悪な者として力で取り除く自由,資本の自由を土台にした帝国主義世界秩序を守る自由を意味する。そこには帝国主義世界秩序を覆し,資本主義を取り除く自由は含まれていない。それは,現秩序内での制限された自由であり,一部の者のための自由でしかないのである。
 事件後,テロという言葉だけはいやというほど耳にするが,定義は定かではない。国連でも,テロの定義をめぐる対立は決着していない。テロには,国家暴力が含まれるのか含まれないのかなどもはっきりしていない。アメリカは,イギリスとの戦争によって独立を果たし,南北戦争を経験しているのであり,暴力一般をテロとするなら,テロによって独立・統一をかち取ってきた国であり,フランスは,フランス革命の内戦で王政を打倒し国王を処刑して近代国家を建設したし,イギリスも血の近代史を背負っている。
 小泉首相は,臨時国会において,憲法前文を引いて,国際社会において名誉ある地位を占めなければならないとか戦前には国際社会から孤立したことが間違いのもとだったので今度は孤立しないようにしなければならないとか述べて,テロ対策支援法による自衛隊派遣を行わなければならない理由として,国際社会との協調を強調した。小泉首相は,テロとの闘いは,自由・民主主義・平和に対する脅威であり,挑戦であると述べている。彼は,テロ一般が,これらの価値に反する特定の政治目的を持っていることを前提している。ところが,この事件では,なんらの犯行声明も出されておらず,この自爆攻撃の政治目的は必ずしも明らかになっていない。これがもしかりに,ビンラディン氏のグループによるものだとしても,今のところ,報道されている範囲では,彼が,イスラム諸国からアメリカ軍を追い出したいということやアメリカを敵として闘う聖戦を呼びかけていることがわかるだけで,自由・民主主義・平和という価値の破壊を狙っているとは断定できない。彼が信奉するイスラム原理主義の価値が,自由・民主主義・平和という価値と相入れないとすれば,文明の衝突を認めることになってしまう。
 では9・11事件の政治目的はなにか。自爆攻撃のターゲットを検討してみよう。第一の目標物は,世界貿易センタービルであり,第二の目標物はアメリカ国防総省(ペンタゴン)であった。地上に撃墜した1機が何を目標にしていたかは今のところ不明である。第一の目標の世界貿易センタービルは,アメリカ経済の金融拠点の一つであったばかりでなく,世界中の金融会社が支店をかまえる世界金融資本の中枢であった。アメリカ金融界でユダヤ人が力をもっており,ユダヤ系金融資本やユダヤ人のロビー活動が,アメリカのイスラエル支援の背景にあることは周知の事実である。アラブ人にとって,そこは,イスラエルによるアラブ人抑圧の力の源泉である。すでに,1983年に,このビルはアラブ系武装組織の爆破攻撃にあっている。第二のターゲットは,アメリカが世界で行ってきた国家テロやその支援するテロの犠牲者にとっての憎悪の対象であることはあきらかである。
 世界貿易センタービルは,1993年の爆弾テロ以後,人の出入りには厳しいチェックが行われるようになっている。そこは,攻撃のターゲットになっていることが,誰の目にも明らかなところだったのである。だから,そこに入っている企業と人々は,そこが危険な場所であることは認識していたはずである。ただ,航空機を乗っ取ってそのまま突っ込んでくることは想像を超えていただけで,なんらかの攻撃があるかもしれないことは意識されていたはずである。ビルの所有・管理者は当然その危険に注意を呼びかけていたはずだし,厳しい警備がそれを物語っていたのである。それでも入居しつづけた企業や人々は,危険を承知し,覚悟していたはずである。したがって,そこにいた犠牲者の多くは,危険を覚悟の上で,そこにいた人で,それはそこに世界金融のセンター機能があり,そこは,危険であっても入居しつづけなければならない特別に重要な場所だったのである。そしてそこで働いていたのは主に世界のエリートたちだった。
 事件の背景として,イスラエルの国家テロの侵略によって土地を強奪されたパレスチナ人の占領に対する抵抗運動であるインティファーダが,1年前から激しくなっていたことは重要である。ハマスなどによる自爆攻撃などにたいして,イスラエル軍の報復がくりかえされ,700人にもおよぶパレスチナ人の命が奪われている。アメリカ・ブッシュ政権は,イスラエルが国家暴力によるパレスチナへの攻撃による殺戮を黙って見ており,そうすることで,暗黙のうちにイスラエル側に立った。圧倒的に優勢な軍事力と物質力を持つイスラエルと貧弱な武装で投石などの手段と散発的な自爆攻撃しか行えないようなパレスチナとの衝突では,イスラエルが強者であり,イスラエルの好き放題を放置すれば,ますますパレスチナ側は不利となり,犠牲が増大していくのはあきらかである。
 9月の南アフリカのダーバンで開かれた国連反差別世界会議で,イスラエルのシオニズムを人種差別主義と規定するかどうかをめぐってアラブ諸国とイスラエルが対立し,アメリカはイスラエルを支持して会議をボイコットした。パレスチナ問題をめぐる対立は,ここにも現れたのである。さらに,この会議では,黒人奴隷問題への謝罪と補償を要求するアフリカ諸国と西欧先進諸国とが対立した。いずれも,決着しなかった。
 事件後の国連総会で,インド代表は,テロを目的ではなく手段によって定義すべきだとする定義を含む包括的反テロ法案促進決議を出した。それに対して,アラブ諸国が反対した。カシミール問題を抱えるインドの狙いは,インドからの離脱を求めるイスラム系の独立運動をたたくことにあることは明らかである。アメリカ,イスラエル,アチェ独立問題を抱えるインドネシア,西部地域でのイスラム教徒の独立運動を抱える中国,チェチェン問題を抱えるロシア,などが,インド案に近いとみられる。それに対して,アラブ諸国は,パレスチナ問題を念頭に,「民族自決権にもとづく抵抗運動はテロではない」「イスラエルのパレスチナ侵略こそ国家テロだ」などの理由で反対し,結局,この決議は採択されなかった。

新しい形態の卑劣な戦争の開始とすばやく立ち上がる反戦運動

 事件後,ブッシュ大統領は,今度の闘いはテロを根絶する闘いであり,したがって,これまでの戦争と違って,今度の戦争は何時始まるかわからないし,いつ終わるのかもわからない長期戦になるだろうと述べた。対テロ戦争は,国家対国家の戦争ではなく,国境を超えて活動するテロリストを相手の闘いであり,湾岸戦争のように,大規模空爆と大規模な地上軍の進行という形態ではなく,特殊部隊が秘密裏に進める戦争であり,外交戦,情報戦,心理戦などのあらゆる手段を総動員した戦争だというのである。こういう戦争は,低強度戦争(LIW)と呼ばれている。それは中南米ではお馴染みのものであり,たとえば,アメリカと結んだメキシコ政府が,闘う先住民たちに仕掛けてきた卑劣な戦争なのである。このLIWという新しい形態の戦争は,見えない戦争とも言われ,秘密活動を軸にするものであり,政治的外交的に相手を孤立させ,経済的に追いつめ,内部分裂させるというような形の戦争なのであり,始まりも終わりもはっきりしない戦争なのである。直近に,アメリカが直接関わった戦争は,旧ユーゴスラビアでの圧倒的な軍事力と物量をもってライフラインなどを破壊する空爆であった。空爆停止後の冬になって燃料不足や物資の不足が深刻化すると,石油援助などによる懐柔策をとった。そして,内部から人々のミロシェビッチ大統領からの離反を引き起こし,大衆闘争によって政権が打倒されたのである。今回,アメリカは,言葉は勇ましいが実際の行動は慎重である。というのは,イラクへの攻撃も取りざたされているが,イスラム世界での軍事行動をやりすぎれば,当然,イスラム諸国の反感を深めていくことは間違いないからである。国連の舞台では,イスラエル,アメリカ,西欧諸国などと,イスラム諸国の対立が繰り返されているのである。
 アメリカが規定するテロとの戦争について,ラムズフェルド国防長官は,これは従来の国家間戦争ではなく,冷戦に似た,敵を自壊させる戦争であり,直接的な軍事行動ばかりでなく,政治外交経済で敵を追いつめる長期戦であると述べている。恒常的日常的な戦争体制の下でのいつ終わるかわからない戦争がすでに始まっている。日本時間で9月8日未明に開始された空爆は「不朽の自由」作戦による長い戦争の一小局面にすぎないのである。
 この空爆について,米帝ブッシュは,攻撃目標は,タリバンとアルカイーダの訓練キャンプなどに限られており,国民への被害は最小限に止め,同時に食糧・医薬品などの援助物資を投下したと述べた。しかし,1999年のコソボ空爆では,鉄橋もろとも民間人の乗った列車を破壊し,中国大使館を誤爆したのである。イギリスは,原子力潜水艦からのトマホークミサイル発射で共同軍事行動にはじめから参加し,オーストラリア・フランス・ドイツ・カナダが,軍事作戦への参加と協力を表明した。小泉首相は,詳しい実態がわからないうちに,早々と強い支持を表明し,自衛隊による後方支援活動のためのテロ対策支援法制定と米軍施設警護のための自衛隊法改定を急ぐと述べた。こうした動きに対して,9・11事件後,反戦運動がすばやく立ち上がり,ニューヨークでの反戦デモをはじめ,世界各地,国内各地で,軍事報復に反対する運動,自衛隊派兵・テロ対策支援法に反対する運動,侵略者イスラエルの国家テロを弾劾しパレスチナを支持する運動,アフガニスタン民衆との連帯活動,が取り組まれている。軍事攻撃開始を受けて,反戦闘争は,国際的に連帯しつつ,拡大していくだろうが,それを支持し促進しなければならない。歴史上,共通の戦争目的のために同盟し共闘した者の間で,新たな対立が発生し,場合によっては敵対関係になることが繰り返されてきたこと,また,反テロ一般で一致しているようにみえるアメリカ支持の輪は,それほど固いものでも変化しないものでもなく,この鎖には必ず弱い環があること,を念頭において,反戦闘争を発展させることが必要である。

テロ対策支援法案と自衛隊法改定が狙うもの

 事件発生後,小泉首相は,ブッシュの反テロの絶叫に呼応して,これは自由・民主主義・人道・平和にたいする挑戦であり,人類の生存に対する脅威だとして,アメリカが自衛権の発動として行う軍事行動を支持し,可能な限りの支援を行うことを表明した。その後,さっそくアメリカにわたってブッシュ大統領と首脳会談を行い,アメリカの行動を支持し,憲法の許す範囲内で,支援することを約束した。その際に,今度の支援では,危ないところにも自衛隊を送ることを表明した。また,事件発生からわずか5日後には,古川官房副長官が,官房・外務省・防衛庁の幹部を集めて,事務方で,湾岸戦争の轍は踏まないとして,早々と,自衛隊を派遣して後方支援することを申し合わせていたことが暴露されている。政府内では,事件発生後の早い段階で,自衛隊派遣を前提にした対応策が密かに根回しされていたのである。
 小泉首相は当初から自衛隊派遣による後方支援を再三にわたって表明し,テロに対する日本の主体的な取り組みを強調した。与党もまず自衛隊派遣ありきとして,周辺事態法の適用を検討したが,結局は,2年の時限を付した特別法であるテロ対策支援法案を提出した。この法案の目的は,9・11事件に対する国連のテロ根絶目的のための諸国の行動に対する支援を行い,国連憲章違反に対する国連加盟国の制裁行動を支援することであって,アメリカの自衛権による戦争と集団自衛権による共同行動ではないとされている。その上で,協力支援活動,捜索救助活動,被災民救援活動などの対応措置を行うが,武力行使又は武力による威嚇は行わないとしている。活動領域は,戦闘行動が行われていない地域であるが,公海に加えて,同意を得た外国の領域を含むとしている。行われる活動は,補給,輸送,修理・整備,医療,通信,空港・港湾業務,基地業務である。ただし,武器弾薬は提供しないとされている。内閣総理大臣は,対応措置を行う場合には事前に基本計画を作成し閣議決定しなければならないが,国会には事後報告ですますとされている。また,第11条で,自衛隊は,自己および自衛隊以外に自己の管理下にある者に危険が及んだ場合に武器使用できるとしている。
 テロ対策支援法案の最大の焦点は,事実上,集団的自衛権の発動に踏み込むものではないかという点である。小泉首相は,臨時国会の予算委員会で,これは自衛権・集団的自衛権の行使ではなく,憲法で禁じる武力行使又はそれと一体となった行為にならない範囲で,憲法前文の国際協調主義に基づく国際貢献を実現するものだと述べている。中曽根元首相は,これは外交権の発動だと語っている。それらはごまかしである。しかしそれには,国連にも問題がある。というのは,国連憲章は,国連の目的を達成するために,国連軍を持つことを規定しているが,ついに今日まで,それをつくれずにきたからである。結局,国連の錦の御旗をとった方が,国際的に正義の味方の顔ができ,そしてその軍事行動は,事実上の国連軍的な扱いを受けることになってしまうのである。こうして,今回のアメリカの軍事行動は,国際法上は自衛権の行使である報復攻撃にすぎないのだが,国連決議の強引な拡大解釈によって,国際テロ撲滅のための国連活動の一環にすりかえられようとしているのである。国連分担金の滞納をくり返し,イスラエルの占領地からの撤退を求めた国連決議を無視してきたアメリカが,今度は国連の錦の御旗を握ろうとしているのだ。日本政府・小泉政権・中曽根元首相は,こうしたごまかしに歩調を合わせているのである。この法案は,国連の目的と一致する国際社会のためであることを強調しているが,実際には,アメリカの自衛権の発動を支援するものであり,集団的自衛権の発動である。だから,オーストラリアとアンザス,NATOは,集団的自衛権発動を決定したのである。憲法解釈で,集団的自衛権を持っているが行使できないとする政府見解があるため,それができない日本政府は,憲法解釈を変えないまま,実質的な集団的自衛権行使を,国連活動への参加・協力という衣装に隠して,やってしまおうというのである。自民党の山崎幹事長は,改憲で集団的自衛権を行使するようにすべきだという意見の持ち主であるが,改憲は間に合わないので,今回は,解釈変更も改憲もしないで,ごまかしで対応することにしたのである。法案は,従来型の国家間戦争のイメージを前提にしており,したがって,現実と合せず,混乱と錯誤が必至の危険なものである。
 テロ対策支援法と同時に自衛隊法第81条(要請に基づく治安出動)に,81条の2(自衛隊の施設等の警護出動)という項目を加え,内閣総理大臣が国内の自衛隊施設と米軍施設を警備するために出動させることができるとする自衛隊法改定案が出されている。この条文は,警護出動の要件を,「政治上その他の主義主張に基づき,国家若しくは他人にこれを強要し,又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し,又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり,かつ,その被害を防止するため特別の必要があると認める場合」として,治安出動の前段階として警護出動を位置づけている。すなわち,この自衛隊の警護出動は事実上の治安出動であり,治安出動のハードルが低められているのである。テロを,特定の政治勢力,イデオロギー勢力による暴力行為一般を指すとして,目的と手段の双方で定義し,軍隊を軍隊が守るとして,予防措置を含む治安管理体制に自衛隊を加えて強化し,現体制に反対する者への治安弾圧を強化し,政治的自由をより制限し,国家統制を強化しようというのである。政治的自由,思想信条の自由を利害と真っ向から対立する改悪であり,容認できない。

理念的反テロ主義と議会政党の態度について

 新聞やマスコミの中に,テロについては,その背景も歴史的な要因も無視すべきで,絶対悪として断罪しなければならないという極めてイデオロギッシュな態度を表すものがある。それは一切の暴力は悪であるとする理念的な平和主義の信念からきているようである。しかしそうした抽象理念による現実の裁断は,こうした事態に正確に対応するために不可欠な客観的な知識の深化を妨げ,人々を無知と思考停止に陥れるものだから,しりぞけなければならない。手段としての暴力一般を否定してしまうと,弱者や被抑圧者が抑圧者と闘うための手段を制限してしまい,弱者がやられ放題になってしまうことを容認しかねないのである。たとえば,すでに一年にわたって続いているパレスチナでのインティファーダに対して,暴力はいけないと説教することになってしまうのである。実際には,イスラエルの暴力にも反対するのだから,問題はないと思われるだろう。ところが,イスラエルの暴力は,国家暴力であり,侵略者の暴力,強者の暴力である。そもそも,イスラエルのパレスチナ武力占領にはなんの正当性もない。国連でも非難され認められていない邪悪な国家暴力を行使し続けているのは,イスラエルなのであり,インティファーダは,それにたいする正当な民族解放闘争としてのぎりぎりの抵抗なのである。非難され,先に止めなければならないのは,侵略者イスラエルの国家暴力・国家テロの方である。これらを具体的に区別して,違う態度をとらなければならないのである。
 与党のテロ対策支援法案に対して,議会政党のうちで,自由党は,ごまかしを続けるべきではないとして,憲法解釈を変更して,集団的自衛権の行使を認めた上で,自衛隊を派遣すべきだとする対案を出した。社民党と日本共産党系は,テロにも報復戦争にも反対し,9・11事件と報復戦争を同列に並べている。民主党は,与党と基本的に変わらない。民主党は,支持団体の「連合」を通じて,労働者に,被抑圧民族・労働者階級・貧農などとの国際連帯,労働者の国際主義に反して,それらの人々の分断への賛成を押しつけようとしてる。労働者階級は,それを拒否して,イスラム世界の労働者や貧農,被抑圧民族の実態をできるだけ正確に認識し,彼ら彼女らと連帯し,先進資本主義大国が,パレスチナ問題,アフガニスタン問題,チェチェン問題などで,いかに卑劣な帝国主義政策を行ってきたかということを理解しなければならない。

帝国主義的侵略強盗戦争に内部からの反戦闘争を!

 タリバンに対する軍事攻撃がはじまりもしないうちから,イタリア亡命中の元国王を北部同盟を中心とする暫定政権の中心にすえるというタリバン後の政権構想が描かれている。アメリカはそれを支持するという。北部同盟は,アフガニスタンの三つの少数民族を基盤にした野合であり,それぞれ,周辺諸国が背後にあり,しかも最大の民族であるパシュトゥン人を含んでいないので,アフガニスタンを包括的に統治することは困難だろう。
 この間,タリバン政権転覆に傾いているアメリカは,アフガニスタンの人々にとって,タリバンの圧政からの解放は,喜ばしいことだとして,政権打倒を正当化している。もちろん,アメリカ政府は,アフガンニスタン人全体のアンケートをとったわけではなく,かってにそう言っているだけである。その地域の住民がどういう政府を求めるかは,自決権に属することであり,アメリカが決定することでないはずだが,そういう原則も,最近では,空洞化している。すでにNATOは,コソボ問題で,人権に関わることでは,内政不干渉原則は通用しないとして,域外派兵に踏み出している。そしてついに,アメリカは,戦争によって他国政府を打倒し転覆する道に公然と踏み出したのである。もちろん,アメリカはこれまでにも,パナマに軍を送ってノリエガ将軍を拘束したり,CIAを使って反政府勢力の資金援助や軍事訓練を施すなどして,自国に逆らう政権を背後で打倒する企てを何度も行ってきた。しかし,それでも,湾岸戦争では首都を戦場にしてまでフセイン政権を打倒することはできなかったし,また,ベトナム戦争ではあくまで防衛が目的で積極的に政権を転覆するための戦争ではないとされていたように,軍事力によって直接政権を打倒することには踏み込めなかったのである。ところが,今や,第二次世界大戦以前のように,内政干渉・侵略戦争・傀儡政府でっち上げが公然と行われる世界に戻ってしまったかのようである。
 ロシアはすでにチェチェンで,多数の犠牲と大量の被害を出す侵略戦争を実施している。ちょうど,コソボ問題があって,西欧諸国は,ロシア軍のチェチェン侵攻に対して,人権蹂躙だと口では非難することに止まり,事実上,認めるような格好となった。ロシアは,チェチェンの自治を破壊して,まんまと新領土をものにしたのである。ロシアは,今度の件で,いまだに根強く抵抗を続けるチェチェン人の抵抗闘争を支援するタリバン政権をアメリカなどが消滅させてくれて,漁夫の利を得るかもしれない。
 イギリス帝国主義は,そもそもかつてこの地域を植民地化し,適当な国境線を引いて,後の民族対立や国境紛争の種をまいた張本人である。カシミール帰属問題は,イギリスの政策によるところが大きいし,今日のパレスチナ問題も,イスラエル独立を認めた秘密協定が始まりである。第二次世界大戦後は,この地域からの後退を余儀なくされ,代わって,米ソが地域への影響力をめぐってしのぎを削る場となり,イギリスの直接の影響力は減った。しかし今や,ふたたび介入のチャンスがめぐってきたのである。イギリスは,アイルランド問題を何百年も解決できなかったテロ対策の失敗国であるが,今度はテロ撲滅のためにアジアで戦争を仕掛けているというのだから,おかしな話しである。
 アメリカ資本は,アフガニスタンに,トルクメニスタンからパキスタンに出るパイプライン敷設を狙ってきた。中国は,西部地域でイスラム系ウイグル人独立派による爆発事件が繰り返されてきたのに対して,カザフスタンなどの中央アジア諸国との連携を強め,この動きの封じ込めを狙っている。中国・インド・ロシアという大国の間にあり,サウジアラビア・トルコ・オマーンなどに置かれた米軍が睨みをきかしているこの地域を自国に都合よくコントロールしたい帝国主義と大国の思惑が交錯し,その利害を,この事件を通じても追及しようとしているのである。
 パキスタンのムシャラフ政権は,今や帝国主義大国によって翻弄され,政権自体が持つかどうか難しいところに追いつめられている。つい先日まで,核実験によるアメリカ,日本などの経済制裁を受け,1999年の軍部のクーデターによってイギリスから英連邦の資格停止処分を受けていたパキスタンのムシャラフ軍事政権が,突如として,領空通過の容認,後方支援などと引きかえに,制裁解除と多額の経済援助を得ることになり,国際社会に一気に復帰することになった。しかし,もともとタリバンを支持・支援してきたパキスタン国内には,イスラム原理主義の影響が強く,反米デモが,政府の対米協力姿勢が露わになるにつれて,反政府姿勢を強めてきている。軍部内にもイスラム原理主義の影響が強くあるといわれており,政府は厳しい状態に追いつめられている。パキスタンを訪問したブレア首相は,タリバン政権崩壊後のアフガニスタンの政権は,パシュトゥン人を含む広範な諸民族の連合政権が望ましいということで,パキスタン政府と合意したとされている。イランは,国連による問題解決を訴えており,「その国の政権問題は自決権に属するもので,他国が干渉すべき問題ではない」とこうした動きに反対している。他国の武力による政権転覆と新政権樹立は,内政不干渉原則に反するが,それを理由に,コソボでのNATOによる空爆に反対した中国が,今回はご都合主義的に黙認するようである。

 今回のアメリカによる報復戦争は,帝国主義的侵略・強盗戦争である。なぜなら,アメリカは,表向き掲げている戦争目的とは違って,実際のところは,中長期的には帝国主義的利害を実現しようとしているからである。たとえば,湾岸戦争は,イラクによるクウェート侵略が国際の平和と安定に対する脅威であるので,それを排除するという戦争目的が掲げられていた。しかしそれから十年の間に明らかになってきたのは,中東の石油資源に対する英米などの支配力の強化であり,アラブ産油国などのOPECによる石油価格支配力の低下である。また,サウジアラビアなどへの米軍駐留の結果,反米感情が拡大し,イスラム原理主義を成長させる結果となり,テロが増え,かえって地域の平和と安定は揺らいだ。そのため,地域に新たな火種を持ち込んだ米軍駐留を,本気で喜んでいる政府はない。その証拠に,サウジアラビアは,アフガニスタン攻撃のための国内米軍基地使用を拒否し,エジプト政府は軍事協力を拒否している。一般論としてテロ反対をどの政府も口にはするが,同時に,アメリカに,パレスチナ問題解決を求めているのである。
 帝国主義政府が狙っているのは,テロ根絶を口実にした第三世界の資源収奪であり,従属化であり,事実上の半植民地化・植民地化である。日帝小泉政権は,かかる世界分割競争に乗り遅れまいとして,自衛隊の海外派遣のハードルを低め,集団的自衛権行使に道を開き,帝国主義利害のための戦争に乗りだし,そのために,労働者大衆を動員するための体制をつくろうとしているのである。また,自由・民主主義のためには自由・民主主義が厳しく制限されるというのが,帝国主義的自由民主主義の実際である。だから,プロレタリアートは,帝国主義政府の行う戦争に反対し,これを内側から阻止する反戦闘争を自国政府に突きつけなければならない。それが,この戦争に対する国際主義の発揮であり,世界の被抑圧人民・被抑圧諸民族と連帯し,国際プロレタリアートの絆を深め,帝国主義の侵略・強盗戦争と闘う道である。アメリカの報復戦争にいち早く強い支持を表明した小泉政権は,帝国主義侵略強盗戦争に加担している。これを弾劾し,反戦闘争を発展させ,自国帝国主義打倒闘争を発展させなければならない。われわれはパレスチナの側に立つ。と同時に,事件の背景にある第三世界の貧困はこの間のグローバリゼーションによって拡大したのであり,資本主義が引き起こしたことを踏まえ,共産主義運動の革命的発展を成し遂げなければならない。刻々と動いている事態をしっかりと把握しつつ,共に闘わん!




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