共産主義者同盟(火花)

ついに行われた脳死臓器移植について(4)

渋谷一三
216号(1999年8月)所収


 99年7月9日を皮切りに,ドミノ移植がたて続けに3例行われました。
 ドミノ移植とは,A→B→C→Dと臓器をドミノ倒しのように順に移植する方式のことです。ここに臓器移植思想の根本矛盾のひとつが象徴的に表現されていますので,今回は,このドミノ移植に焦点を絞って考えてみます。

1.7月9日に行われた最初のドミノ移植を例にとりましょう。50代の男性患者Bさんは,Bさんの兄で60代のAさんから生体肝移植を受けます。摘出されたBさんの肝臓は10代後半の女性Cさんと40代の女性Dさんに移植されます。

 Bさんの肝疾患はFAP(アミロイド・ポリ・ニューロパシー)と呼ばれる難病だそうで,肝臓が作り出す異常蛋白が神経系組織に沈着する病気。発病まで20年〜30年かかるとされ命の危険もあるそうです。しかし,他の肝機能は保たれているため,この肝臓を10代後半の女性Cさんと40代の女性Dさんに移植したものです。

 10代後半のCさんは数年前に生体肝移植を受けたのですが,拒絶反応のため再移植が必要になったそうです。

 Cさんが受けた生体肝移植は詳らかにされてはいませんが,おそらく同性の近親から提供されたものでしょう。というのも,生体肝を提供する人は近親者以外報告がないからです。

2.生体肝を提供する人はなぜ近親者しかいないのでしょうか。

 「健康な」人が自分の臓器の一部を切り取り,他者に提供するには,強い愛情が必要です。そしてある場合には,背景として『愛情の証としての臓器提供』という社会的圧力として作用します。
 臓器を自ら提供する用意のない人が,患者の家族に臓器を提供するように期待する。期待は美談への期待であって,患者Pさんの命への共感ではありません。そうなら自ら生体肝を提供することを真剣に検討しなければなりません。生体肝移植を期待したり,美談として報道する態度は,こうした無責任な社会的圧力を醸成するもので,Humanism とは対極のものであることを確認しておきましょう。

 生体肝の提供者が近親者だということの「合理的」とされる唯一の理由は,遺伝情報の類似性から,拒絶反応が比較して少ないというものです。
 親子よりは兄弟姉妹の方が遺伝的にははるかに近く,今回のAさんからBさんへの移植は,考えられる限り,最も「理想的」なものです。
 というのも,母が胎児という「異物」に対する拒絶反応を統御するSystemを獲得して,はじめてほ乳類が誕生できたのですから,親子の間の拒絶反応は当然のことなのです。

 10代後半の女性Cさんは,今回の50代男性Bさんの肝臓よりははるかに拒絶反応の少ない生体肝を数年前に移植されているのに,それがわずか数年で拒絶反応に耐えられなくなっているのです。
 今回の肝移植が,前回の肝移植より良績を残すとは到底考えられないことです。なのに,Cさんは疾病のあるBさんの肝臓を移植してもらう方法を選んだのです。
 どうしてそうする方がよいと「思い込まされて」いるのでしょうか。あるいは,その方法しか選択肢をなくさせられてしまっている現実の進行。このことも検討しなければなりません。移植を待機しもしない肝疾患患者を大病院は入院させておく「余裕」などないのです。町医者はもちろん入院設備がない。唯一中間的な市町村立の病院にはずっと bedを占有する患者の care を生き甲斐にする医者がいません。

3.矛盾

 肝疾患患者Bさんの肝臓は結局CさんとDさんに移植されました。
 もし,Cさん・Dさんへの移植を妥当なものとして了解するのであれば,Bさんは肝移植を受ける必要はなかったことになります。
 これは絶対的な矛盾です。

 なのに移植は行われた。

 Cさん・Dさんは,経験を積む実験材料にされたのです。そうでなければ,20〜30年持つはずの肝臓なら,若いCさんやDさんにではなく,本人Bさんがその肝臓とつき合って生きていくのが一番良く,Aさんの肝臓を直接CさんやDさんに提供すればよいのです。

 そうせよとAさんを非難しているのではないのです。こうした心の問題が厳然と(!)あることをないかのごとくに装い美談に仕立てあげていく「医学会」や「報道陣」の欺瞞を憎むのです。

4.完全に表に出た部品思想

 『Bさんの肝臓は不良品だが,より不良品の肝臓を持つCさんやDさんに,「もったいない」から,とりあえず移植しておけ』というのが,平たくかつ本質を突いたドミノ移植思想の描写でしょう。

 3章で指摘した心の問題を捨象するのも,部品思想だからであり,肝臓という部品の使用耐用年数なるものを想定して,この耐用年数で持ち回そうとするのが,ドミノ移植に顕著に現れざるをえなかったのです。

 京大では今もまた週に2回のペースで生体肝移植が行われ,『国内で最も多い481例』を誇っている。




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