共産主義者同盟(火花)

英米によるイラク空爆の侵略戦争反対! 新ガイドライン安保反対!

―ブルジョアジーの戦争を阻止するために―

流 広志
209号(1999年1月)所収


 12月17日,バクダッドの夜空は,1991年1月の「湾岸戦争」のときのように対空砲火の閃光によって,切り裂かれた。それは1991年の時のようには華々しくなかった。映像に込められようとしていた崇高さといったものは消え去っていた。「アウラ」の生命は,近代戦においては急速に失われていく,それこそ,このいつ終わるかわからない「湾岸戦争」の「退屈な日常」と化した戦争が見せてくれたものだ。
 この引き延ばされ,延々と終わりなく続く断続的な戦闘の消耗戦の耐え難さを新たな戦争の特徴なのだと認めざるをえなくなっている。アメリカ帝国主義がポスト冷戦の戦略として採用したLIW(低強度戦争)戦略とは,果てしなき戦争の日常化であり,経済的締め付けや腐敗した文化の移入によって敵の戦意を削ぎつづけることであり,反対勢力を様々な手段で支援することであり,敵を分裂させ,人民同士を争わせることであり,国際的に孤立させることであり,自国内の反対運動を勢いづかせないように,諸種の情報操作や予防措置をとることであり,等々の諸種の領域での配慮や小作戦を組み合わせることなのである。それは嘘やだまし討ちや自らの手を汚さない自動兵器による攻撃であり心理戦などなどである。要するに戦争の崇高さとは無縁の卑怯さや卑劣さや矮小さ薄汚さこそ,現代のブルジョア的戦争の特徴となったのである。この点を見逃している「戦争論」は空想的で空しい。崇高な戦争を語る際には過去の戦争を素材に選ばざるを得ないのである。しかし,そこには,過ぎ去ったものへのロマンしか存在しないのである。
 今回は,アメリカの石油事情について若干の補足するとともに,英米の侵略戦争に対する反対や抗議の運動を少々,紹介し,自民・自由の連立政権によって新ガイドライン関連法案成立に向けた体制づくりが進んだことなどと合わせ,米帝と日帝の利害と動向を若干,分析・暴露したい。関連する『火花』掲載論文を合わせて参照されたい。

1.イラク空爆の背景としてのアメリカの事情

 1998年12月17日は,国連にとって,アナン事務局長が語ったように「悲しむべき日」となった。フランス・ロシア・中国の国連安保理常任理事国の三国が武力行使に反対し,米英二国は少数派となりながら,安保理決議なしでの,「イラク空爆」を強行した。
 イラク危機を適時に演出しながら,この地域での石油利権を確保・拡大すること,そのためには,イラク人民の多少の血などなんでもないということ,国連などは,アメリカの国益に従属すべきだという意志が露骨にあらわれたのである。このような国連の旗を利用しての自国国益とブルジョア権益のための侵略戦争は,ながびけばながびくほど,世界のプロレタリアート人民の間に国連が帝国主義大国の利害によって動いていることをいよいよ明確に暴露し,そのことを直観的に理解する政治経験を与えることとなる。
 イラク危機については,何度か分析・暴露を試みてきた。その際に,米英の狙いが,中東地域における石油資源の争奪戦にあること,そして,軍需産業の利害を背景にしていること,それから,アメリカの世界政策−国際秩序のためのものであること等を暴露した。
 アメリカの石油確保という狙いについては,「アメリカでは,国民に意図的に明らかにされていないエネルギー事情がある。それは,アメリカが石油をますます輸入に依存するようになっていること,またアメリカ人の石油消費量が増加し続けていること,さらにイラン,イラクというアメリカが封じ込めを追求してきた諸国が位置するペルシャ湾の石油に依存せざるをえなくなっている」(『イスラム世界と欧米の衝突』日本放送出版会 63頁)という事情がある。
 同書によれば,「アメリカ人一人当たりの年間消費量は六六バーレルであるが,それに対してイギリス人が三三バーレル,また中国人は三バーレルに過ぎず,これらの数字からもアメリカ人の石油消費量がいかに突出して多いかが分かる。かりにアメリカが自国に埋蔵される三七億バーレルの石油のみに依存し続け,一日一七四〇万バーレルを消費すれば,アメリカはその本土に埋蔵される石油を五年半で消費し尽くすことになる」(同上)というものであり,いかに,アメリカ経済・社会にとって,中東地域が重要さを増しているかがわかる。
 アメリカの石油輸入量は,「一九八三年にはアメリカ全体の消費量の三一%が輸入で賄われていたのに対し,九六年には五二%にまで増加」(同上)した。同書の著者である宮田律氏は,「アメリカ政府関係者は,アメリカがエネルギーをますますペルシャ湾岸に頼らざるをえなくなっていることを国民に明らかにすることを躊躇している。それは,アメリカが従来追求してきた対湾岸政策に矛盾するからである」(同上)と述べている。この場合に,アメリカが,大量生産・大量消費型の経済・社会を前提にして,その中東政策を進めようとしていることによって,イラク危機は,アメリカ経済社会の矛盾を反転して映し出す鏡となりかねないものとなっている。
 アメリカの中東政策は,「中東イスラム地域で敵対する国家に対して,他の中東諸国と友好関係を確立したり,あるいは維持・強化することによって,自国の中東における利益を追求しよう」(同上 123頁)というものであり,人権やら民主主義という自らが掲げている価値観とは無縁であり,反米諸国にはそれらの価値観を強く主張しながら,サウジアラビアやクウェートなどの親米諸国の王政や族長支配,原理主義支配などを問題にすることなく,「中東諸国の友敵関係を利用した外交方針」(同上 124頁)である。
 それが,「第二次世界大戦後,イスラム地域に対して行われてきた欧米諸国による一連の介入政策によって,中東イスラム世界の命運がムスリム自身ではなく,欧米諸国によって決められているという思いがムスリムの側に強く備わざるを得なかった」(同上)理由であると宮田氏はいう。当然それは,帝国主義政治であり,侵略政策であることを付け加えておかなければならない。
 イスラエルの右派リクードのネタニヤフ政権は,国連決議を無視してレバノン南部を軍事占領したままであり,パレスチナ暫定自治合意によるガザ地区などからの軍の徹底をサボタージュしたままであり,パレスチナ暫定自治政府のアラファト議長側が,「パレスチナ憲章」のイスラエル敵視条項を削除させられたのに較べ,あまり譲歩していない。しかしそれに対してアメリカはなんのペナルティーも課していない。アラファト議長側は,5月には暫定自治の期限が切れるのに合わせて「パレスチナ国家樹立宣言」をするといわれている。それは長くイスラエルによる支配と指導部の亡命を余儀なくされたパレスチナ民衆の悲願であった。しかしイスラエル側はそれを阻止したいという意向と言われ,イスラエルの背後にひかえるアメリカがどうでるか予断を許さない情況が続く。ここでもアメリカの帝国主義政治が介入している。

2.今回のイラク空爆に対する反対と抗議の世界的な拡がり

 1998年12月17日の米英軍によるイラク空爆以降,世界各地で,空爆に反対する大衆的な運動が拡がっている。パレスチナやシリアでは,アメリカ大使館への抗議デモが行われ,「イスラエルに死を! アメリカに死を!」と叫び星条旗を焼き捨て,投石する激しい抗議行動が行われた。アメリカでも抗議行動が取り組まれている。アメリカ政府は大量逮捕・弾圧で臨んでいる模様である。日本でもイラク空爆糾弾,日本政府の空爆支持糾弾,侵略戦争反対の声が上がっており,政府はアメリカ大使館の警備に神経をとがらせている。韓国でもイラク空爆にたいする抗議の声があがっており,また,ヨーロッパからも同じ声があがっていることが伝えられている。
 今回の米英によるイラク空爆に間髪を入れずに明確な支持を表明したのは日本政府だけであり,様子を見た上で慎重に支持を表明した国は,ドイツ・オランダ・スペイン・カナダ,オーストラリア・ニュージーランド,アルゼンチン・チリ・エルザルバドル,韓国などであり,反対の意志表明ないし批判したのは,ロシア・中国・フランスの安保理常任理事国,アラブ諸国,インド,上記の国を除く中南米諸国,イタリア,ギリシャなど,多数にのぼる。イスラエルでさえ,中立の立場を表明している。
 日本のマスコミたるや,いまや,その多くが,プロレタリアート民衆レベルで拡がり,深化しつあるこうした重要な声を無視し続けており,その判断力の偏り,何をどう伝えるかという判断のレベルでの非プロレタリア性・非民衆性を露骨に表しているが,しかし,インターネットや諸個人や諸運動体が築きあげている情報網によって,プロレタリアート大衆の必要とする重要な情報は,瞬時にしかも国際的に拡がっていくのである。もちろん,情報の正確さや真実性については的確に取捨選択する「能力」が必要で,訓練がいる。
 しかしながらそんなマスコミですら,事態がながびくにつれて,英米が主張するイラクの脅威とは何なのかという疑問を述べ始めている。その答えは,国際プロレタリアートにとっては,イラク周辺地域に存在する英米の石油利権その他の帝国主義権益への脅威ということはあきらかである。
 社民党,日本共産党,新社会党などの政党は,「イラク空爆反対」を表明,市民団体が次々とアメリカ大使館への抗議活動に取り組み,それは大阪でも市民団体がアメリカ総領事館に対する抗議行動を行い,その他,反基地運動団体などが抗議ビラの配布や抗議ファックス送付,抗議電子メールの送付,などなど,多様な取り組みが組織されている。
 この戦争の侵略的反動的性格が暴露されてくるにしたがって,これに反対するプロレタリアート人民の運動もまた発展してきており,しかもその内容はいよいよ進歩的となり,拡がりと深化を遂げてきている。それは,明確に帝国主義に反対しそれを暴露するものとなってきており,しかも国際的であり,そして結合形態の発展と拡がりを持ちつつある。
 アメリカにおいては,学生運動と反人種主義・人種差別運動と下層労働者解放の運動と反戦運動と宗教者の進歩的部分などが結合を深め発展させている。また劣化ウラン弾による放射線被曝者などの「湾岸戦争症候群」患者らによる真相解明と軍幹部や政府の責任追及の動きも続いている。
 日本においても,沖縄での反基地闘争と沖縄自立解放闘争,韓国の反基地運動との連携,全労協による労働運動としての反戦運動,連合系と全労連系の労組による取り組み,フェミニズム運動による反戦運動の取り組み,進歩的宗教者による反ガイドライン運動への取り組み,イラク人民への人道支援活動,劣化ウラン弾の被害の紹介,アメリカなどの運動紹介,市民運動の活性化(とりわけアメリカでの諸運動との提携や世論喚起などを積極的に取り組んでいる),等々,そしてその主張は,英米のイラク政策を侵略的なものであるとするものへと進んできている。
 *アメリカにおける世論喚起の取り組みは,『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』な  どの有力新聞が,ユダヤ系であることを考慮すれば,困難な取り組みである。

3.新ガイドライン安保と日帝のねらい
−ブルジョアジーのための戦争反対!沖縄反戦反基地闘争連帯!朝鮮半島,アラブ・プロレタリアート連帯!

 原油輸入の大部分を中東・湾岸地域に頼る日本の場合は,この地域の安定は,文字どおりの「生命線」であり,真っ先に米英のイラク空爆を支持したことによって,中東地域の原油の将来の確保の方途をほぼ米英の力に頼むという道を事実上,選択したといえる。米英の中東政策が日本の石油確保を保証するものと見なしているのである。イラクの日本製品ボイコットも大したことではないということか。
 イラク問題への対応をめぐる国連安保理の分裂は,今のところ,修復の見込みは立っていない。今回のイラクの国連による査察拒否によって,アラブ諸国にも,エジプト・サウジアラビア・クェートなどの親米諸国と反米的な国の間の亀裂が深まり,それは英米の中東地域への帝国主義的介入の反動的性格を表している。それは今回のイラク空爆の反動的侵略戦争としての性格によって促されているといえる。
 イラクは,ついに国連による査察を全面拒否し,国連の対イラク活動は完全に行き詰まってしまった。また,査察団のバトラー委員長が盗聴を行ったことが暴露された。フランスによる査察体制の変更の提案やロシアによるアメリカ案に対する対案が国連安保理に提出され,審議は行き詰まり,安保理は機能停止したままである。そしてアメリカは,議会の共和党による反対によって国連への分担金を支払わないままである。議会は,大統領弾劾審議に夢中となっている。
 そんな国連やアメリカの情況を見ている小渕政権が,国連の平和維持活動への積極参加や朝鮮半島有事を睨んだ新ガイドライン関連法案に積極的となっている。自民党と自由党の連立政権の安全保障問題での合意を見れば,国連総会,国連安保理事会の決議と要請があれば,「武力行使と一体化するものでない限り,積極的に参加・協力する」とし,かつ,日米安保の堅持と「周辺事態」における日米間の軍事協力を行うためのガイドライン関連法案の成立を狙い,あるいは,「後方地域支援,後方地域捜索救助活動及び船舶検査」について「議論を深める」としている。そして,先のいわゆるPKO法で凍結されていた「PKF本体業務の凍結を解除するとともに,新法の制定を含め,所要の法整備を図る」としている。
 すでにコーエン国防長官の来日や訪韓で明らかになっているように,朝鮮人民民主主義共和国の地下核施設疑惑や長距離ミサイル開発をめぐり,あるいは飢餓や経済停滞に陥っている朝鮮労働党金正日政権の行方を睨んで,日米韓の軍事協力体制の緊密化や整備の促進など軍事的な圧力を強化しながら,米朝交渉や4者協議での交渉を有利に運ぼうという米帝の狙いがある。
 クリントン政権は,対朝鮮人民民主主義共和国政策の見直しをペリー前国防長官に指示しているが,それがまとまるには数カ月かかると言われている。その際に,新ガイドライン安保体制の行方が計算に入れられることは疑いない。そうだからそれは,米軍の前方展開する東アジア十万人体制の要をなす沖縄の米軍基地の存在の重要度をいよいよ増すものであり,革新系大田知事の敗北と保守系知事の誕生にしても,その際に大田知事を支持するこれまでの最高得票数と保守系稲嶺新知事が普天間基地撤去を要求する県民大会に中心的に関わったという基地撤去派的な印象という要素を加えて考えるならば,沖縄での基地撤去運動と沖縄自立解放闘争の展開が,この問題の鍵を握り続けていることは変わらない。
 一坪反戦地主で反安保・基地撤去闘争の推進者の一人である新崎盛照氏は「大田知事の敗北による運動の側の敗北感はない」という趣旨の発言をしている。新知事には基地撤去の推進派という印象ができあがっていて,基地問題で大田知事の敷いたレールを大きくは踏み外せない。もしそうすれば,稲嶺知事の命運は簡単に尽きるだろう。また運動諸団体では,運動がやりやすくなったという意見も見られ,大田知事の落選はそれほど反基地運動にはダメージとはならなかったようだ。
 沖縄の基地撤去の要求と新ガイドライン安保による日米軍事協力体制の強化の間の矛盾をどう解決するか,保守派のように,「金をやるから黙って耐えろ」と帝国主義者,差別者としての本性をむき出しにした解決を図ろうとするのか,そうすれば,沖縄の独立派を鼓舞するものとなろう。あるいは野中流に低姿勢で望み,沖縄側に「解決」策を委ねることにするのか,それは,中央政府の無責任,責任の沖縄側への転嫁として,沖縄側の不信を増大することになろう。
 沖縄における大衆的な反戦反基地闘争と結びつき,その要求に真っ向から対立する新ガイドラインに反対し,朝鮮半島有事を口実にしたブルジョアジーの戦争策を暴露し,有事体制づくりに反対することであり,そうした運動に立ち上がっている労働者大衆,市民・学生・進歩的宗教者・知識人などと連携し,ブルジョアジーのための戦争体制構築を阻止することである。また,イラクに対する侵略戦争反対の声を上げている世界のプロレタリアート・被抑圧民族・人民との国際的な平等の連帯を築き上げることである。選挙があるかどうかとか投票に不正があるかどうかといった形式を見て,おしまいのブルジョア民主主義の形式性や抽象性(「アイヌ新法」での先住民規定の不採用や沖縄の駐留軍用地特別措置法改悪に見られた多数決原理による少数者の抑圧として表れたような)を暴露し,上述の協働の実践,政治経験によるプロレタリア民主主義を対置することである。
 私は,イラク問題でも,沖縄問題でも,帝国主義の利害を暴露するとともに,徹底した民主主義としてのプロレタリア民主主義の立場から,ブルジョア民主主義=形式民主主義を暴露し,プロレタリアート・被抑圧人民との国際的な連帯を築き上げ,諸種の大衆的運動と結びつき,その中でも,プロレタリア民主主義を発展させることを追求しながら,ブルジョアジーの戦争に反対し,阻止する闘いを発展させることを強調したい。




TOP